R バッグ・クロージャー

 バッグ・クロージャー。食パンを買うと袋についているあのクリップのことだ。

 もともとリンゴを詰めた袋を閉じる方法として考案された。

 現在バッグ・クロージャーの特許はアメリカにあり、日本では一社のみが製造を行っている。


 今回はバッグ・クロージャーが出てきた話だ。

























 やることもなく手持ち無沙汰となった兄は、発掘ダンジョンでモンスターを狩り続けている。


 目的はサメ機人シャークボーグのレベル上げとランダムドロップの確認だ。

 これから兄は自分のダンジョンでこのダンジョンを塗りつぶす、というか現在進行系で侵食しているため、侵食しきってしまうとモンスターを倒してのレベルアップやランダムに出現するドロップアイテムを取得することができなくなる。


 能動的にモンスターを始末し続ける仕掛けがあるのなら話は別だが、配下となったモンスターを倒しても何も得られない、そうなのだ。


 確かに共食いで経験値やらアイテムやら出てくるのならすでに兄はやっているはずである。

 出来なくてよかったと言っておくべきか。

 出来ていたらある種の地獄絵図が形成されていたような気がするからな。


 さて、ガチャを回そう。

 ろくでもないものが出ませんように……。


 R・バッグ・クロージャー


 出現したのは、青色をした、食パンの袋を閉じるアレだった。

 材質も一般的なプラであり、縁が白っぽくなっているあたりもそれが普通の材質で出来ていることを物語っている。


 ただ……バッグ・クロージャーの内側の穴から見える風景が魚眼レンズの如く歪んで見えるのだ。

 とおりぬける光がたわんで、結果向こう側の風景が膨らんで見える、そんな印象が。


 なんとなく直感なのだが、これ結果的にそうなっているだけ、という気がする。

 袋を閉める目的のなにかの役割を持たされた結果、なぜか光が歪むようになったような。


 うーむ。

 とりあえず食パンの袋のクロージャーと交換してみよう。

 それでなにかわかるかもしれない。


 そっとパンの袋から絞った部分に、排出されたバッグ・クロージャーを取り付ける。

 歪んだ像を結んでいる割にはするっと嵌った。

 ……。

 何も起こらない?


 食パンの袋を持ち上げて振ってみても何かが違いがわからない。

 そう思ってクルンとひっくり返したときだ。


 中身の食パンがバッグ・クロージャーをすり抜け、テーブルの上に落ちた。

 ええー……。


 つまりなにか?

 これは閉じれないバッグ・クロージャー。

 つまりプラゴミかな?


























 後日。兄はバッグ・クロージャーに袋を押し込んだ。

 両サイドから無理やり押し込まれていく袋が、バッグ・クロージャーの内側に飲み込まれていく姿ははっきり言って異様な光景だった。


 最終的に袋の頭の部分だけがはみ出した見た目になったが、なんとそのはみ出した頭の部分から袋の中身に手を突っ込めるようになっていた。

 どうみても空間が歪んでいるとしか言いようがない。


 なお兄はそれを作ったはいいが結局全く使わない模様。

 ダンジョン産の宝箱のほうが便利なんだと。

 まあでかいし硬いからな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る