R 水筒

 水筒。飲料用の水を運搬、携帯するために作られた容器のことである。

 水を運搬するということは意外に難しい。

 完全に密閉された容器を作るには様々な技術が必要であり、さらにそれを携帯するにはある程度の強度を必要とする。

 さらにそれを携帯……つまり、どこでも簡便に利用可能な形で開閉を可能にするとなるとかなりの工作精度は必要なのだ。

 そのためそのような技術がなかった時代にはそのまま水が蓄積できるような容器を漆で固めるなどをして利用されていた。


 今回はその水筒が出た話だ。



























 兄が前に作り出した超硬度プラスチックとヒヒイロカネを混ぜ合わせてまたもや新しい素材を作り出した。

 ヒヒイロカネと合金したというのにその素材は、プラスチックに分類される有機材料に近い性質を持っており、しかもヒヒイロカネの増える特徴をそのまま受け継いでいる。

 具体的には金属釜の中で200度に熱した状態に水を加えると増えるワカメの如くその全体質量を増やす。

 それでいてプラスチックの加工の容易さと軽さ、金属の硬さを併せ持ってるっていうんだからとんでもない。


 謎の排出品である新素材は、新素材を作り出す材料だった、というわけだ。

 いやー、ろくでもない。

 特に質量保存の法則をガン無視して凄まじい勢いで増えるところがろくでもない。


 ヒヒイロカネのときも思ったが、一素材で世界を変えられる可能性があるのだいぶイヤな感じだ。

 絶対ろくでもない目に合う。

 あれやこれやの時点でだいぶ言い逃れ出来ない感じの物ばかりだからな。


 忘れてガチャを回しておこう。


 R・水筒


 出現したのは普通の水筒だった。

 タンブラーに蓋がついているような形状のもので、飲み口のようなものや注ぎ口が存在しないタイプの水筒だ。

 このタイプは蓋と本体だけで構成されているために洗いやすいために汚れなどを落としやすいが、飲むには直飲みか、別にコップを用意するかのために衛生面では疑問符がつく。

 あとはお茶っ葉と一緒に入れておくことで水出しのお茶を作って持ち出すみたいな使い方が出来るやつ……というべきか。


 蓋を開けて中身を見てみたが特に何も入っていない。

 常に満たされているとかそういうわけではないようだ。

 まあそういう物ならばすでに井戸があるからな。


 そう思って、中に井戸水を注いでみた。

 水筒の中を覗き込んでも水が満たされているだけのように見える。

 ただ匂いが井戸水のそれから変わったような気がする。

 なんというか、固くなったような……。


 そっとコップに移そうとしてみるも、逆さまにしても一向に出てくる様子がない。

 なので逆さまのまま上下に振ってみた。


 バシャンとコップの上にぶちまけられたのはゼリー状になった水だった。

 ぷるっぷるである。

 もう一度言おう。

 ぷるっぷるである。


 ぷるっぷるのものがぶちまけられたテラスは、まあ大惨事だ。

 ああ……もう……。


























 後日。兄が水筒を使って、ジュースからゼリーを作り出した。

 あのあと水筒の中身をサメもどきに食わせることによって安全性を確認した兄は、即座にジュースを水筒に注いだのだ。

 その目論見は成功し、ぷるっぷるに固まったジュースが出来上がった。

 元がジュースであるために均一なそれは下手なゼリーよりも味がいい。

 久々にまともに上手く行ったのだが。


 それに気を良くして水筒に肉まんを詰めようとするのやめろ兄ィ!

 それをぷるっぷるにして何するつもりだ!

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