R 太るもと

 調味料。料理の調味に使用される材料である。

 人類が味覚の快楽のために追求し、今も新たな調味料が誕生して続けているものだ。

 その性質上、向き不向きはあれど食べられるならなんでも調味料に加工できると言ってもいい。

 鮭だって砕けばフレークとして調味料に出来る。

 ただ、それ専用に加工された調味料は、それ故に味の想像がつきやすく、調整が効きやすい。

 砂糖、塩、味噌、醤油、酢を聞いて味を想像できない日本人はいないはずだ。

 それ故、どれをどれだけ入れればどのように味が変化するのかイメージ出来る、はずだ。


 今回は、その調味料が出てきた話だ。

 まあろくなものではなかったが。






















 地球と火星の間に新しい惑星が出現して、今世界は混乱の中にいる。


 1つは、その新しい惑星が地球に落ちてくるのではないか、という疑念だ。

 太陽系のダイナミクスは極めて繊細なバランスで成り立っており、巨大な天体が突如出現したとなると素人考えの上ではそれが崩れてしまう。

 しかしその徴候もなく、学者の計算では実際に仮に地球に衝突するにしても数千年から数万年は先になると発表された。

 まあ、生きているうちには関係ない話だが。


 2つ目は、どうやって調査をするのか、で揉めている。

 というのも衛星の打ち上げなどは予算が限られていおり、10年単位で計画を立てるため、突如出現した惑星を調査せよといきなり言われてもそんな予算も、計画も、人員も存在しないのだ。

 実際調査衛星を打ち上げられるのはいつになることやら。

 案外大国が金に物を言わせてすぐ調査に出すかもしれないが。


 3つ目は……完全に国際政治なのだが、某国がいきなりあの星の土地は我が領土であるとか言い出したことだ。

 宇宙条約で宇宙は誰の国のものでもないと定められているので完全に戯言である。


 というか、所有権があるならあの星は私の土地なのでは?

 いや、手の届かない位置にある土地とかいらんけども。


 ガチャを済ませておこう。


 R・太るもと


 出現したのは白い粉が入った調味料の瓶だった。

 瓶の側面に貼られたラベルには「太るもと!」と書かれており、その内容物に対してひどい不安を覚えさせられる。


 それに煽り文句が「暴力的なカロリーを!」だ。

 ひどい。

 ひどすぎる。

 使わせる気があるのかわからないレベルでひどい。

 ヘルシーブームはもはやブームと呼べないレベルで定着しているのになぜそれに逆行するような凶悪な煽り文句をつけているんだ。

 というか調味料のカロリーってなんだ。


 そう思って手に取り、ラベルの裏を見る。

 そこには、かけることでその食べ物のカロリーを増大させる、と書かれていた。

 というか材料欄にかかれているのが「カロリー」なんだが。

 概念でも抽出したのか?


 蓋を開けて匂いを嗅ぐと強烈に食欲が増す。

 一言で言えば異常。

 強烈に腹が減る匂いだ。

 ある種深夜に作ったアブラマシマシラーメンの匂いに近い。


 嗅覚だけで、この調味料は絶対に美味いと理解させられてしまう。

 これはヤバい。

 手を出していい調味料ではない。


 厳重に封印しておこう。




















 後日。3キロ太った。

 違うのだ、我慢できなくなったとかそういうのじゃなくて、試さずにはいられなかったと言うか。

 太るもとは振りかけた食品のカロリーを倍増させ、結果旨味がものすごいことになってしまう恐ろしい調味料で。

 それどころか、調味料自体もカロリーの塊で、カロリーイコール美味い、を体現しているのだ。


 というかまさか兄が黙って持ち出して、昼食に使ってくるとは思わなかったんだよ!

 味の魅力が暴力的すぎる!

 深夜のラーメンか!

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