UR 惑星ガチャ
ガチャ。主にカプセルトイを自動販売する装置とその機構を指す言葉である。
内部機構の関係上、カプセルは球形かそれに準ずる形状が求められる。
近年は景品そのものをカプセルの形状に変形させることでその景品のカプセル径を最大にしようという試みも行われている。
カプセルそのものが景品ならばカプセルの大きさまで景品に使える、という発想である。
事実その試みは上手く行っていると言える。大きなカプセルのサイズそのものから変形させるために、カプセルよりも大きな景品を排出できるからだ。
今回は、ガチャが出てきた話だ。
その日は、嫌な予感がして朝早くに目覚めた。
それが何かはわからない。
兄に散々振り回された結果、私の直感はかなり優れたものになってしまっている自負はあるが、それがどのような結果をもたらすのかまでは予想がつかないのだ。
そしてそれがどこで起こるかもわからない関係で私に降りかかる危機を回避出来たこともない。
だからこの直感で以て私に出来ることは覚悟することだけだ。
これから新しいろくでもないことに出会うという覚悟。
それに私の心情が揺るがされないように堪える覚悟。
傍若無人を寛大な心で許す覚悟。
その後全力で以て兄を〆る覚悟。
人一人に出来ることなどたかが知れている。
良くないことが起こるとわかっていても、本質的に何かが出来るわけではないのだ。
……まあ、覚悟ができる分、精神面にダメージが行かないように出来るから私はある意味タフ、かもしれない。
と、そんなふうに一日中警戒していたわけだが、結局夕方になるまで何かが起こることはなかった。
ということは、こいつかぁ。
こいつが何かをやらかすのかぁ。
目の前のガチャ筐体を恨めしい目で見つめるが、異常性があるとはいえただの無機物。
なにかの反応を返してくるわけではない。
回すかぁ。
やだなぁ、こういうとき絶対ヤバいもの出てくるんだよなぁ。
ヒヒイロカネの鉄板をコイン代わりに投入。
回して出てきたのは虹色に光り輝くカプセルだ。
虹色に光を反射するキラキラとしたカプセルに、ギラギラと虹色に光を放つURの文字が刻まれたあのカプセル。
あのログハウスを粉砕した高額ガチャが出現したときと同じカプセルだった。
うわぁ。
私は、実験室のウッドデッキで開けることすら危険ではないかとすら思ってしまう。
あのときは部屋で開けるのは危険だと感じたが、今回はもっとヤバいというか、空間が必要であると感じるのだ。
というわけで実験室内の比較的開けた場所で開封してみるとする。
UR・惑星ガチャ
それは、まさしく塔だった。
出現したのは超巨大なガチャポン筐体だ。
灯台のような太い本体と、その上に載せられた本体の倍以上ある球形のカプセルケース。
そしてその中に納められた惑星。
ガチャの中のカプセルのように、惑星に似た何かが筐体の中にごろごろと入っているのだ。
1つ1つが少なくとも2メートルはありそうである。
は……?
でかすぎる。
あまりにでかすぎるガチャの出現に私は呆然とする。
で、でかすぎる!
なんだこれ、オブジェか!?
しかも電光掲示板みたいな物がついていてそこに「一回無料!」とか流れている。
やめろォ! それどうせ回さないと強制的に回させるやつだろ!
そう思った途端、エンジンの始動音のような、冷蔵庫の唸り声のような、なんとも形容しがたい音を筐体が立て始めた。
何かが温まるのを待つかのようにその音は非常にゆっくりと高音になっていく。
それとともに筐体につけられたハンドルが重々しい歯車の音と共に回り始める。
中のカプセルとして入れられた惑星が撹拌され、その順序を入れ替えながらその排出を決定していく。
ガコン、と大きな音を立て、排出口から巨大な惑星カプセルが吐き出され、私の前にまで転がってきた。
それは私の前で静止したから良かったものの、2メートルはある地球のような惑星の塊だ。
内容を精査するまでもなく、邪魔である。
なにより、けたたましい音を立てて電光掲示板に書かれていることが非常に煩わしいのだ。
SSR・地球型惑星
排出されたこれがそれだとでもいうのか。
極めて高度な塗装が施されているのか、それの表面が電気的に変化しているのかわからないが、実際の地球の表面と同じように雲が対流している様子が見て取れるこれがそうだというのか。
5分ほどいじくり回してみたが、見た目が地球っぽいだけでただの岩だったので放置することにした。
出現したガチャ共々ものすごい邪魔だけど、まあオブジェぐらいにはなるか。
日本科学未来館に飾ってあるやつみたいなもんだし!
後日。朝のニュースで、地球と火星の間に新しい惑星が発見されたと発表されていた。
その惑星は、地球と同様に一つの衛星をもち、完全な生物の生育環境を備えた惑星であり、宇宙望遠鏡による光学観測の結果、森林すら存在することが確認された。
それどころか、何らかの知的生命体が存在する可能性すら示唆されている。
なぜそんな天体が今まで見つからなかったか、と言われると。
それは突如出現したとしか言いようがないからだった。
突然肉眼で見える範囲に明るく輝く星が出現。
あまりにありえない現象が起こったために、天文学者達が総出で徹夜の調査を行った結果、突然出現したという結論に至るしかなかったという。
あっ、その時間私があの惑星ガチャ引いた時間じゃん……。
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