R きぐるみ

 きぐるみ。人が着用することを想定したぬいぐるみである。

 等身大のぬいぐるみであるため、怪獣や擬人化した動物など、様々なキャラクターが作られている。

 キャンペーンなどで街頭に立っているのを見たことがあるはずだ。

 性質上、町中では非常に目立つため広告塔代わりに使われることもある。

 またブームが去った機運があるが、ゆるキャラのきぐるみに至っては個人制作され使われていたりするのだ。


 今回はそのきぐるみが出た話だ。



















 サメ妖精のシャチくんは、現在私の護衛兼執事として働いている。

 元々物品の制作や家事など、家の中で行う作業を得意としていたため、常々戦力に加えているのはどうかしていると考えていたのだ。


 武器を持たせればそれなりに戦えるが、そこまでである。

 サメ機人シャークボーグがいる以上、むやみに危険に晒す必要もない。


 料理は絶品であるし、掃除や片付けの手際もいい。

 一家に一体欲しいレベルだ。

 まあ今8体に増えてるけど。


 さて、ガチャを回そう。

 次のろくでもない景品はなんだろな、と。

 全く期待はしていないが、ろくでもないものでなければいいな。


 R・きぐるみ


 出現したのは、サメのきぐるみだ。

 サメのきぐるみ……サメのきぐるみ?

 いや、どう見てもサメのきぐるみなのだ。


 一時期流行ったサメのぬいぐるみを、きぐるみサイズにまで大きくしただけ、という印象。

 作り自体はかなりしっかりしているもののようであるが、一方でサメの背中部分にジッパーが来ていてしかも目立つという雑な仕事も見て取れる。


 というか、足……足? に当たる腹ビレの部分が短すぎる。

 足を突っ込んだらこれそのままつんのめって転げそうだ。

 手に当たる胸ヒレもきぐるみにしては短い。


 うぬぬ……、とりあえず着てみるしかないか。

 背中のジッパーを開き、中を覗き込む。

 覗き込んだのはいいが、中に広がっているのは漆黒の闇だ。

 一体どうなってるんだ。

 ライトをかざしても全く明るくならない。


 ふ、不安が凄い……。

 本当にはいっていいものかわからない。

 さりとて、他に入れられそうなのは兄しか思い浮かばず。


 ええい、ままよ!

 勢いにまかせて足を突っ込む。

 ありえない方向にずんずんと足が入り込んでいく感覚だけがあり、やや恐怖心を覚える。

 だがきちんと端があったようで、足がついて踏ん張りが効くようになった。


 そのまま腕を通して頭をかぶり、サメ妖精のシャチくんにジッパーを上げさせる……。

 出来上がったのは、サメ妖精と同様に微妙に浮き上がったサメのキグルミ。

 

 シャチくんに持ってこさせた鏡には明らかに浮いている姿が写っているのに、私の足はしっかり地面に接地している感覚がある。

 それに手の指も、しっかりときぐるみを通したはずだが自由に動かせる感覚があるのだ。


 というか視界だ視界。

 思いっきりサメの頭を被っているはずなのにいつもどおりの視界すぎる。


 普通に動けて、ダンスも踊れるのが得体が知れない。

 宙に浮いた腹ビレで華麗なステップを踏んでいる姿は妙な笑いがこみ上げてくる。

 何だこのきぐるみ!?
















 後日。兄がサメのきぐるみを着込んで空を飛んだ。

 きぐるみ内部にスリッパやドローン、あと傘を仕込んだことによって、ついに空を自由に泳げるようになったのだ。

 なんでそうなるのかはわからない。

 傘は広げたまま押し込んでいたし、スリッパは足の部分の底に行くように入れていたし、ドローンも胴体の部分に設置していただけだ。

 それがジッパーを上げるとひとまとめになって空を自由に泳げるようになるんだから意味不明である。


 というか泳ぎ方が堂に入っている。

 なんでそんななめらかにサメのきぐるみを動かせるんだ。

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