R 手帳
手帳。主に予定やスケジュール、メモ書きなどを行う持ち歩き用のノートのことである。
いろいろな機能を盛り込んだシステム手帳というものも存在する。
基本的には立ったまま手帳とペンだけで文字が書けることが望ましい。
いつでもどこでも机のような安定した台座が存在するわけではないし、筆記しておく必要がある時に机となるものがあるとは限らないからだ。
今回はその手帳が出てきた話だ。
北限迷宮で得られる珍しいものがないかと兄は戦利品漁りをしている。
ダンジョンごとにその固有の要素がアイテムやモンスターや階層などにばらまかれ、それが形になって現れることがあるのだ。
兄の機神はそういうものの極致であるといえる。
機械仕掛けによって完全に繋がった、群れにして個。
邪神の端末がダンジョンの主をしていたのだから、それに特化したなにかがあるはずなのだ。
兄はそう言って最深部を漁っている。
仮に何か見つけたとしても、邪神由来のモノなんて大体ろくでもないと思うのだが。
あの肉塊が少しでも残っているとか考えると気持ち悪いしな。
結局兄はダンジョンのコアを奪ったにとどまった。
ろくなものが見つからなかったためである。
あるものはほとんど肉塊に取り込まれて、邪神復活のためのリソースにされていたようだ。
がっかりしている兄を尻目に、私は回しておいたカプセルを開封する。
R・手帳
出現したのは手帳だった。
カバーに革が使われているかなり本格的なやつである。
黒い革が丁寧に張られ、歪みなく装丁されている。
で……手帳、か。
その中身をパラパラとめくってみるが、スケジュールのようなものが書き込まれているわけでもなく完全に無地のページが続いている。
手帳としての機能も、そうやって文字を書き込めるだけのようである。
なんならあの栞代わりにする紐すらない。
ペンを止めておく輪っかもない。
と、いうことは。
ページになにかを書き込めば効果を発揮するタイプ……だろうか。
明後日の方向でページを破るとなにか効果が、とかもありそうではあるが。
とりあえず試してみよう。
そう思ってボールペンを手に取り、サラサラと書き込んでみる。
「まりも」と。
いや、深い意味はないんだ。
たまたま頭に浮かんだのがまりもだったんだ。
書き込んだページが急に膨らみだし、パン、と軽い音を立てながら破裂した。
それと同時に、ページが破裂した場所にまりもが出現した。
それは水気を含んだまま、地面にべちゃと落ちる。
……。
まりも。
そっかー。
書いたものが出現する手帳、か。
なんか普通に異能ものっぽいアイテムが……。
後日。兄が色々出そうと試していた。
結果、手帳のページよりも大きいものは出せないことが判明した。
手帳の大きさよりも小さくても、高さが手帳よりも高いと出せないということもわかった。
また、生き物は死体でしか出せないようである。
そこまで理解して……兄はカステラを半ダースで生成したのだ。
生成限界の大きさのカステラを、である。
なお、カステラの味はインク味だった。
つ、使えねえ……。
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