R ギガグランドピアノ

 グランドピアノ。ボディと呼ばれる、弦が張られ音を反響させる部分が地面に平行になるように作られたピアノのことである。

 ボディに取れる空間が大きければ大きいほど、長い弦を張ることができ、そのほうが音の響きが優れている。

 そのため、グランドピアノは弦を長く張ることができるように地面に平行になるように制作されるのだ。

 その分場所を取ってしまうので専門的なホールでしか置くことができない。

 より小さいサイズで製作することも出来るが、それは音色が貧弱になるのと引き換えである。


 今回はそのグランドピアノが出てきた話だ。










 もう見るべきものもないと、北限迷宮からさっさとサメ機巧天使シャークマシンエンジェルを兄は撤収させた。

 そのままダンジョン攻略中に調べていた大陸の地形図のチェックに移ったのだ。


 宇宙にへと上げたサメ機巧天使シャークマシンエンジェルの定点観測によって、新惑星には3つの大陸があることと、一つの大陸に都市がいくつも存在している。

 そのうちの1つがガチャレクシアだ。

 他の都市と比べても……二周りほど大きいように見えるのは飼いならされたダンジョンによる恩恵だろう。


 また、北極点に近い北部ほど、紫色の奇妙な瘴気に覆われている。

 これがあの竜が言っていた危険地帯なのだろう。

 この瘴気は風の対流にのって広がっているようで、山に阻まれる形で広がりそこねているが、かなり広域を覆っている。


 あれ大丈夫なんだろうか。

 なんというか、画面越しにも邪神の端末と同じ気配がするのだ。

 あの長時間見ていると吐き気を催してくる感じが似ている。


 あの門番の竜がいたところを見るに、相当昔から広がっているようだが。

 まあ兄も気になっているようだし、兄に任せておけばいいか。


 私はガチャを回してしまうことにする。


 R・ギガグランドピアノ


 出現したのは、超巨大なグランドピアノだった。

 でかい。

 とにかくでかい。

 ぱっと見ただけでも、本体だけで10メートルぐらいありそうだ。


 それに、あの蓋もでかい。

 一辺が10メートルぐらいあるピアノなのだから当然だろうが、中に人がすっぽり入れる……というか人が住めそうなぐらいにでかい。

 デカければデカいほど音がいいとは聞くが、こんなにでかくてまともに作れているのか、甚だ疑問である。


 一番狂っているのは鍵盤だ。

 まるでオルガンのように、何列も鍵盤が並んでいるのだ。

 互い違いに並べられた鍵盤はそれだけで頭がおかしくなりそうである。


 人に弾けるのか?

 腕が4本ぐらいいるんじゃないか?

 ちなみにペダルも10本ぐらいついている。

 そんなに何に使うんだ。


 とりあえず弾いてみるか……と、2列目の鍵盤を押してみた。

 それとともに鳴るのは、どう聞いてもピアノのものではない、管楽器のような音。

 もしかして、と思って3列目の鍵盤を抑えると、そこから鳴り響くのはエレキギターのような激しい音だった。


 いやいやいや。

 お前は電子ピアノか!

 どこをどう見ても魔改造されたグランドピアノにしか見えないのに、そんな違う楽器の音を立ててどうするんだ!

 しかもデカいことがなにも生かされていない!

 邪魔なだけだ!













 後日。兄が見事な演奏を披露していた。

 サメ機巧天使シャークマシンエンジェルを3体並べて、ムッキムキのモンスターがひしめき合っている中、ちまちま鍵盤を抑えさせながら、だ。

 鳴る楽器が違うだけで、弾くとちゃんと音がなるのは変わらないから楽器として使える。


 一度兄がさらっと弾いてみせた曲を、サメ機巧天使シャークマシンエンジェルにアレンジさせながら連弾させているのだ。

 いやさらっと弾けている兄もなんなんだと言いたいところだが、弾けるのはこれ一曲きりらしい。


 サメ機巧天使シャークマシンエンジェルの演奏は素晴らしいのだが。

 なんでよりによってキャラクターものの音頭なんだろう。

 確かに近所の祭りではいつも流れている曲だが。


 なんでこれ一曲だけ兄はピアノで弾けるんだ?

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