R 片スリッパ

 2つで1つでなければならないもの、対で存在していなければならないものが世の中には存在する。

 食べ物を掴む箸、両足を怪我などから守り負担を和らげる靴、二本の金属線をまとめた電気ケーブル……。

 それらは2つ揃っていて初めてその機能を発揮できる。


 今回は、片方だけ出た話だ。














 兄が物差しの使い方を発見した。

 なんとどんな投げ方をしても同じ距離に飛ぶのだ。

 速度と回転はなぜかその飛距離に伴わずに毎回異なってまちまちなのだが、本当にぴたりと同じ距離に落ちるのだ。

 

 どういうわけかわからないが、自身に関わる長さを定量化している、ようだ。

 なんでそういう結果を出力するのかわからない。

 もしかすると、これは何かを測る方法なのかも知れない。


 いや、物差し投げて測る距離ってなんだよ……、と思ったが。

 実際、これなら同じ長さの距離を投げることによって測れてしまう。

 この物差しを当てて測るより投げるほうがまだ正確に測れるので頭を抱える。


 それに伴ってかはわからないが、最大飛距離の半分程度の距離の物体に目掛けて物差しを投げつけると、対象を粉砕する。

 当たった瞬間に物差しが異常な振動を起こすのだ。

 大体砕いたあたりで止まって落ちる。

 適当に投げていたが、結構危なかった。


 こういうのがあるから引きたくないんだよなガチャ。

 でも回さないと異音を立てて催促してくるので回すしか無い。

 私のプライベート空間を返してくれ。


 R・片スリッパ


 カプセルを開けて出てきたのは、スリッパだった。

 しかも片方だけだ。

 27センチサイズで、緑色の病院や公共機関でよく見るタイプのスリッパだ。


 ……?

 え、なんでスリッパが片方だけ出現したんだ。

 名前も片スリッパになっているということは、片方だけでいい、ということのはずだが。


 え?

 スリッパだぞ?

 片方だけで何に使うんだ? ツッコミ?


 虚空に虚しく響く私の「なんでやねん」。

 スリッパを握って振り抜いて見たが、そういう効果を持っているわけではないらしく、何の反応もない。


 試しに石をペシペシと叩いてみるが特に変化はない。

 本当になんだこのスリッパは。

 片方しか無いんだぞ。


 振り回してみたり、叩いてみたり、中に電池をいれてみたり、引っ張ってみたり、とりあえず思いつくことを試してみたがうんともすんとも言わない。


 やはり……履くのか?

 いやいやいや、だって片方しか無いんだぞ?

 履いて……どうするんだ。


 とりあえず履いてみる。

 そっと右足にはめて踏み出したその瞬間だ。

 思いっきりつんのめって転けそうになった。

 スリッパの下に目に見えない足場が出現している。

 

 は?










 後日。見えない足場を作り出すことで空中を自由に歩けるスリッパの片方だけ、を兄はめちゃくちゃ笑っていた。

 話だけ聞けば私だって笑う。

 なんで揃いで出現しないんだと。

 しかも脱げやすいスリッパでそんな物を作ったのは誰だよ、と。

 

 その後兄は無言でスリッパを真っ二つにして足に縛り付けて空を自由に歩いていた。

 マジかこの人……。

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