SR 鎚と金床

 人類が鉄を扱う過程で、2つの加工法を見出した。

 一つは鋳造。枠を作り、そこに液体化した金属を流し込むことで金属を望んだ形に加工する。

 もう一つは鍛造だ。熱して柔らかくなった金属を、丈夫な台と槌で叩くことで望んだ形になるまで加工する。

 どちらにも加工の難易度や手間の関係から、目的に合わせて手法を変えることが望ましいものだ。


 今回は鍛造に使う道具である、鎚と金床が出た話だ。









 ダンジョンを発掘してから、兄は忙しそうにしている。

 自前のダンジョンを持っているとはいえ、あれは罠作成キットから作られたものでしか無く、その性能は本物と比べると微妙、と言わざるを得ない。

 その差による結果があの撤退である。


 兄は発掘されたダンジョンの攻略を諦めてはいないようで、攻略のために必要な準備を整えている。

 例えばヒヒイロカネ製の装備だ。電気が流れていない限り極めて丈夫なヒヒイロカネを使って武器と防具を整えている。

 と言っても胸当てと盾をつけたサメもどきを前衛に並べるぐらいしか出来ないのだが。


 と、考えているとガチャから出てくるのだ。

 状況を引っ掻き回すような景品が。


 SR・鎚と金床


 それは出現と同時に、テラスの階段を破壊した。

 出現した景品は一般的な形状の金床と、その上に乗せられた金槌のセットだ。


 鍛造による金属加工に使われるそれは通常、炉がなければ役に立たないはずだがそれは金床と金槌だけで出現したのだ。

 それだけで出現したということは、単独で使用できるということ、だと思われる。


 つまり、ということは。

 そっと金床の上にヒヒイロカネを乗せ、金槌を叩きつける。


 すると、ヒヒイロカネはバーン、と激しい音を立て、その形状を変えた。


 漫画に出てくるハンマーなどの衝撃エフェクトの形に。


 どういうことだよ……。

 確かに金槌は叩きつけた。それも振りかぶるように。

 だからといって、衝撃エフェクトの形になるのはおかしいだろう。




 何度やっても衝撃エフェクトにしかならない。

 どんどん無駄になって変な形の金属を量産してしまう。

 忍びない、と思うことはないが、変な形にしかならないことで、私の正気が疑われるのが我慢ならない。

 なんでこれはこれにしかならないんだ。




 苦節、48回目。初めて衝撃エフェクト以外の形状に整形できた。

 金槌一発でヒヒイロカネが、剣の形状に変化したのだ。

 そしてこの鎚と金床の正体が判明した。

 魔剣と同じく、これもまたイメージを媒介に物の形を変形させる道具だ。

 それも、特定の形に限る模様。

 おそらくは剣を中心とした武器類の鍛造(と呼んでいいのかわからないが)を一撃で以て可能とする道具なのだ。

 他に何が作れるかはわからない。

 だが、作れるものに限れば、一撃で、高精度の道具の制作が可能のようだ。


 しかし、ここに問題がある。

 魔剣とは比にならぬほどの集中力を要求するのだ。

 その実、この剣を打てたことすら奇跡的である。

 一心不乱に剣を脳裏に描きながら、金槌を振り下ろす。

 そこに、金槌を振り下ろすというイメージを混ぜてはいけないのだ。

 もはや人間業とは言い難い。


 しくじればあの衝撃エフェクトに化けるのだ。

 正直なところ、普通に加工したほうが楽なのではなかろうか。


 そういうわけで、兄にテラスの修理を頼むとするのだった。





 後日。兄は斜め上の手段で鎚と金床によって剣の量産を実現した。

 言われてみれば簡単な話だったのだ。人間には不可能だと思われるなら、人間にやらせなければいいのだ。

 兄は、特定の思考だけを持つサメもどきを作り出し、そいつに鎚を振るわせたのだ。

 元より自我を持たぬサメもどきだが、AIのように特定の思考を走らせ続けることはできる。

 できるから巡回や護衛などが行えるのだ。

 兄はそこを逆手に取った。

 剣を思い浮かべ続けながら、腕だけ金槌を振りづつけるサメもどきを作り出し、金属と製造物の交換は他のサメもどきにやらせる。


 そしてそれによって兄の用意している武器の質は大幅に上昇した。

 魔剣で作れるのはせいぜい農具やメイスぐらいだったのだ。

 魔剣は、基本的に兄のイメージに左右されるので精度がでない。

 鎚と金床を使えば特定の形しか生産できないとはいえ、超精度の道具が生産できるそうだ。


 これらの武器で武装したサメもどき達により、発掘ダンジョンの一層を蹂躙。湧きスポットもサメもどきに囲ませて武器で叩き続けることで完封。

 兄は発掘ダンジョン一層の完全攻略を成し遂げたのだった。

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