R 湧きスポット

 ゲームによっては、モンスターの出現する地点が固定されている場合がある。

 この地点のことを湧きスポットと言ったり、言わなかったりする。

 この湧きスポットを専有してモンスターを狩り続けるのはRPGなどではよく見られる光景であり、通常効率の良い行動である。

 ゲームによってはマナー違反になる場合もあるので気をつけなければならないが。


 今回はその湧きスポットが出現した話だ。





 先日出現した城だが、中は迷宮となっていた。

 兄は必要なだけ整頓を済ませている、とは言っているが、そこかしこに罠が配置されていた。

 徘徊するサメに似た何かが、自発的に罠にかかっていたために危険な罠を踏むことはなかった。

 だが、そのせいで返って理外のモノが生み出されたという実感が湧いてしまう。


 なんで罠作成キットで城ができるんだ、と言いたいところだがこれはダンジョンだそうだ。

 もっというとこれは城ではなくて砦。

 私には違いがわからないが、どうも違うらしい。

 まあ確かに外見に可愛げがなかったので城ではないのだろう。


 ダンジョンかぁ……。何がどうなったらそうなるんだよ……。


 そうそう。今回引き当てた景品もダンジョン関係なんだ。

 ゲームなんかで良く設定されてるアレだ。


 R・湧きスポット


 出たときは驚いた。

 だってこれ、直径1mほどの“領域”なのだ。

 すなわち、空間である。

 出現した空間がそうなっているのかと思い、近づいて観察したりしたのだが。

 ほんのり光っているような気がするぐらいで、周りとあまり区別がつかない。


 わけがわからないのは、この“領域”持ち運びが可能なのだ。

 自分でも何を言っているかわからない。

 どうやっているかもよくわからない。


 ただ、その領域を持ち上げ、運ぶことができるのだ。

 井戸のように不自然な持ち上がり方をして水平を保っていることだけはわかるのだが……。


 というわけで、実験をするためにダンジョンだか城だか砦だかわからない建物にこの湧きスポットを持ってきたわけである。


 いや、持っていると手が光っているように見えてそれはそれで気持ち悪い。

 持っている時に動き出そうとしないかともヒヤヒヤする。


 私の脇にサメ妖精のシャチくんを控えさせる。

 彼には鉄パイプにL字管を取り付けたものを武器として持たせている。

 彼は小さな生き物だが、この鉄パイプを振り回させると結構な威力が出るのだ。

 護衛としては申し分ない。


 湧きスポットをダンジョンの部屋の奥に配置。囲むように罠作成キットで作ったトラバサミを配置していく。

 これで何が出てきても対処できるはず。


 私は折りたたみの椅子に腰掛け、スマホで動画を見ながらその時を待つ。

 使い方はわからないが、おそらく時間経過で出現するもののはずだ。



 1時間後。スマホで見ていた映画がいい感じに終わった辺りで、それは出現した。

 湧きスポットの中心からポンと軽い音を立てて、青いぷるぷるとしたスライムが現れたのだ。

 それはこちらに気がついたかのように体を震わせ、ゆっくりと向かってくる。


 そして、それはトラバサミを踏み、噛みつかれ、光の粒子となって消えた。


 ……え?

 そんな、え?


 なんでダンジョンのそこかしこにいるサメもどきの死体は消えてないのにそのスライムは消えるんだよ!


 スライムが消えた地点には、金貨のようなものが数枚落ちていた。

 ゲームか!

 ドロップアイテムとでも言いたいのか!


 なにかバカバカしい気持ちになった私は、湧きスポットを落とし穴の上に配置。

 そのまま放置して部屋に帰るのだった。




 後日。兄から大量の金貨を渡された。

 ダンジョンの機能としてダンジョン内の物品を集めたり配置したりする事ができるそうで、落とし穴にぎっしりと詰まっていた金貨の一部だそうだ。


 あと、兄の言うところではあのダンジョンにも湧きスポットの機能があるそうだ。

 あのサメもどきはそれから出現しているそうだ。


 効果が! かぶってるんだよ!

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