第67話 円卓会議②

 円卓会議はまだ開かれている。

 皆が一言いう度に深くそして真剣に考えている。


 ディボンドと呼ばれる少し巨漢の肉屋のおっさんには沢山の悲しみがある。

 ダウン症になって生まれた彼は、貧しい村の中で、大事な女性と出会い、1人の子供を授かった。それは飢えというもので2人を失くしてしまった。



 それからディボンドは狂った。


「おいらはお腹が空いたらカラスを捕まえて食べていた。そんなに美味しくなかったけど、美味しくしようと調理した。まぁあの時のおいらはダウン症で世界が不思議に見えた。だけど今のおいらはヒロスケ殿にとってリセットされた。そんな気がする。そんなおいらが提案したいのは、餓死を失くすため、沢山の料理方法を見つける事」


「ディボンド、朗報がある」


 その場の全員がこちらを見ている。

 そしてこれから発言する僕の言葉を、一言たりとも洩らさないと真剣に、瞳を輝かせながら見ている。


「僕の世界からこちらに食料を運ぶ方法が見つかった」


 しばらくの沈黙、そして次から湧き上がる歓声。


 ネッティーが思わず立ち上がり、ウィルソンとラングンは握手している。

 ジービズは信じられないとばかり首をふっている。


 デニとビニも手をとりあって、老婆と孫という形となりつつ。

 テクスチャの瞳は少年のように輝いていた。


「ディボンド、もう食料の心配をする必要がない、沢山の作物を収穫し、冷蔵庫で保管しつつ、加工品を作る事を考えておこう、餓死者を出さない為には布石を置くんだよ」


 つまり何があってもいいように作戦をあらかじめ用意するという事だった。


「おいらは、もう飢えの恐怖と戦う必要がないんだな」

「そうだよ」


「おいら夢ができた。肉屋だけど1人の料理人になりたい」


「それなら僕が持ってくる現実世界の料理を味わってみる?」


「うん、味わいたい、時間があれば持ってきて」


「了解した」


 1人の提案はすぐに解決していた。

 ディボンドの餓死への恐怖観念はある種の強迫観念に似ているそれがあった。


 ディボンドは狂っている事で、食事がなくてもカラスさえ食っちまえみたいな感覚で、危機感がなかったのだろう、ダウン症の時の強迫観念とダウン症が回復したディボンドの感覚は違うだろう。


 次の人達はゆっくりと手を挙げてくれた。


「ビニと申します。デニの祖母をやっております。えとですね、この度はビニとしての発言もあります。子連れの人達の悩みを聞いて欲しいのです」


「それはどのような?」


「この村に最初から居る人々達は良いのですが、移り住んできた人々達は、ディン王国に奴隷兵として徴兵された人々の奥様達ばかりなのです。そこには3人以上は普通に子供はおります。食い扶持を繋ぐ為には働く必要があります。しかし赤子など、目を離せない子供がいて仕事にならないそうです」


 ビニはゆっくりと話をしてくれるので、非常に助かったのだが。


 子供たちの問題がかぁ。


 僕がいる現実世界日本でも、幼稚園とか学校とかに通う子供達がおり、父親と母親が働きに出ていたり、子供はいつも預けられてしまうのだ。それは良いとして、日本では預ける事すら出来ない人々だっている。この村にいる人々も同じ状況なのだ。働くしかない、だけど子供がいて働く事ができない、これは最悪子供を奴隷商人に売り飛ばす可能性がある。それは阻止せねば。



「ビニさん、よくぞ報告してくれました。これは検討とか言っている場合ではないですね、いますぐに考えます。後デニさんの話も聞きたいです」


「ほ、本当ですか、それはありがとうございます。ほらデニ、話してあげなさい」



 デニと呼ばれた。少しやせ型の少女が大きな椅子の上に立ち上がった。

 さすがにデニの身長では、机の真ん中辺りに顔がくるのだ。


 だからと言ってビニに抱っこしてもらう程の年齢ではないのだろう。


「僕は命のありがたみをよーく知っています。だからネンネ村長とヒロスケに約束して欲しい事があるのです」



 デニは頷きながら、嗚咽を漏らした。



「何もしないで負けないでください、圧倒的な力に負けないでください、負けたら終わりなんです。鬼ごっことかでは負けてもいいけど、戦争で、争いで負けたら終わりなんです」



 デニは必至に涙を堪えようとしながら、えっぐひっぐと鳴き声をあげながら。


 涙を拭きとって、それでも椅子から降りないで。お辞儀し続けた。


 僕とネンネの心は熱くなっていた。

 ほっかほかになっていた。


 こんな子供を絶望させる大人達なんていてはいけない。


 そんな気がするんだ。


 最後に手を挙げたのは、リンゴーンだった。

 彼には謎が多すぎて、リンゴーンはにやにやしながら、こちらを見ている。


 しかも今までの人々の発言などどうでもいいというように。


「村長にはこの村を代表してディン王国に下って頂きたい」


 その場が唖然という言葉に包まれた。


「な、にを?」


 ネンネ村長が口をぱくぱくしながら。


「このような洗濯機、電子レンジ、その他諸々があれば、ディン王国の王様だって、あなたをすばらしい地位にしてあげるでしょう、このリンゴーンはディン王国の王様とは知り合いでして」



 その場が凍り付き、次の瞬間、ネンネは椅子を後ろに吹き飛ばして立ち上がる。


「安心してください、わしゃはディン王国から見捨てられた没落貴族ですからね、だからこんなクズみたいな村に住んでいるのです」


「おい、それどういうことだよ」



 ウィルソンが叫び声をあげて、ジービズに造ってもらった剣を抜きざま、リンゴーンを斬りつけようとする。


 それをラングンが抑え込み、リンゴーンはにやにやと笑っている。


 こいつは死ぬ事が怖くないのか?


「ふぉふぉふぉ、だからネンネ殿、わしゃと一緒にディン王国に未知の技術をもって下りましょう」


 ネンネは震えている。

 それが怒りから来るものなのか分からないという顔なのか。


 僕は怒りを覚え、いつでもどこでも装備しているハンドガン、マシンガン、バズーカのハンドガンを抜きざま、それでリンゴーンの額に狙いを定める。


「お前、何言ってんだよ、これだけ頑張ろうとしているのに、これだけみんなで一致団結しようとしているのに」


「やめてヒロスケ」


 ネンネは優しく僕の右手にそえるように手を兼ねると、いつしか僕の怒りは安らぎ、ハンドガンは降ろされる。


「はん、そのようなおもちゃ、どうせ水しかでないんだろう、がっはっは」


 リンゴーンは爆笑している。

 それに耐えきれず動いた人がいた。



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