第19話 川掘ります

 村から川までは歩いて10分程度だと分かっている。

 距離はそんなに遠くもなく近すぎもしない、これなら氾濫が起きても問題はないだろうし、あらかじめ土嚢でバリケードを作っておく必要はあるかもしれない。


 

 僕とネンネとウィルソンはビニール紐を引っ張り続けている。

 連続で引っ張るとディボンドまでやってくるので、気を付けつつも。


 

 歩いて10分程度で村まで到着する。

 畑仕事をしている村人達がいた。

 彼等は種を植えてはまた生えてくる作物をまた収穫してはまた植えてはというとてつもないサイクルをやっている。


 なので備蓄庫には大量の野菜達がある。

 種はありとあらゆるものを持ってきた。どうやらここの土は普通ではない肥料と混ざる事により、化け物のの畑になってしまったのだ。


 なんでも連作を考えずに植えまくれるという魔法の畑。


 なので大根も白菜も小松菜もトマトもキュウリも生えてくる訳だ。

 今では漬物計画が進行中だ。恐ろしい事にこの村には漬物という文化がなかった。

 保管して腐らないうちに食べるというのがこの村のしきたり。


 そりゃ餓死者でるよとは口が飛び出ても突っ込めなかった。


 ビニール紐は端っこまで到着する。


「よしここに水汲み場を建設しようと思う、まず穴を掘る人が必要だが、って集まりすぎだあああああ」


 もちろん紐を引っ張ることを忘れずに、

 ディボンドは地面に紐を埋めてやってくる手はずだ。


 村人が20名くらい集まってきた。

 スライムの素とプラントモンスターの死体を使って建物の建設をしている者たちだけが、忙しいからとこちらにやってこない。

 

 畑仕事をしている人達20名が何事何事とまるでじゃじゃ馬精神丸出しのほとんどが老人であった。


 僕はとほほと思いながら。


「若造よなめるなはれ」


 そう叫んだのはラングンであった。あのウィルソンと仲の悪いラングンはウィルソンに挑発するかのように見つめている。ウィルソンはその熱い視線に気づいていなかった。


 その時交易商人のテクスチャと呼ばれるおじさんがやってきた。

 テクスチャは腕に覚えがあるらしく、僕と交渉する為に来ただろうに今では穴掘りの手伝いをしている。


「テクスチャというそうだね、すまんね、交易に来たのだろう?」

「気にしないでください、これも商人の魂のような仕事です」


「それはとても頼もしい話です」

「そうですか? あなた達こそ逞しいではないですか、川の道を作るなんて聞いた事が無いですよ」

「いえー僕の世界では結構当たり前でして」

「そうなのでしょうか、それよりこのスコップというものは凄く掘りやすいですね」

「ああそれは、僕の国の秘術品でありまして」

「そうですか、あんなにあるとは、恐ろしい国ですね」

「は、はは、恐ろしいですねぇ」


 僕は事前に色々なアイテムを持ってきている。 

 それの筆頭がスコップだ。

 川を作ると考えたときに必要だと思っていたので、

 リサイクルショップのいらなくなったところから回収しておいたのだ。


 皆で協力するとあっという間に貯水池用にため池が完成した。

 後はその周りにスライムの素を燃やして池に張り付ける。

 そうする事で土と接触せず濁ることもない。

 いつもの川の純度を保つ事が可能とされる。


 それを後ろからやりつつも、川のポイントまでひたすら穴を掘り続ける。

 ため池が出来たので、そこから川に向かって穴を崩すだけだ。

 あまり深すぎると子供が溺れる恐れがあるのであまり深く掘らずに。


 目の前の土を削る仕事はスコップとなっている。

 スコップは小さい物と大きい物がある。

 僕は大きい物を使う事にしている。

 ネンネは小さい物を使っている。


 見た事もない虫とかを見るようになって少し気持ちが悪くなったけど村人達は平気そうに踏み殺している。



「この虫は毒があるんだ。殺しておくのが基本だよ」


「そうですか」


 ラングンが教えてくれる。


「いやー先が見えてきましたな」

「そうですね、テクスチャさんはこういう事はやらないのですか?」

「自分ですか? 自分はやった事が無いですねぇ、基本は交易とかの物売り業界なので、あまり村に接触しませんが、今回ばかりは好奇心に負けてしまいました」


「それは嬉しい」


「この川の完成を見届けたいから、最後まで手助けいたしますよ、ただし交易の商売はちゃんと立ち会ってくださいよ」

「もちろんです」


 服装は商人風に布製の上下なのだが。

 頭にはなぜかハチマキがつけられている。

 おっさん的な年齢なのは確かなようだ。



 穴を掘り続けて30分が経過した頃になるとディボンドがやってきた。


「川の手前からこちらに向かって掘り進めたんだ」

「だから来るのが遅かったのか、すごく助かる」

「いいんだ。やること無かったから、おいらは体がでかいから皆の邪魔にならないように別な所で頑張るのが基本でしょ」

「それはちょっと悲しい解釈だけど、とてもいい配慮だと思うよ」

「えへん」


 その場が笑いに包まれた。

 ディボンドは瞬く間に人気者となった。

 沢山の人々はディボンドコールを始めたり、ウィルソンも爆笑して、ラングンの頭髪をむしり取ろうとしたり、喧嘩したり笑ったりした。


 テクスチャという商人も一緒に乱闘して、一緒に穴掘ったり。


 ネンネと僕はその光景を見続けており。

 とてもとても華々しい光景だなと。


 思っていた。


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