第14話


「そ、そんな事はない! 利子が利子を生み、二人の借金は一生働いても返せないようになっているのだ!」

「それって……、正当な利子なの?」


 国では利子の上限が決まっているはずだ。金餅はせせら笑う。孫家の力をもってすれば利子など好きにできるのだと。

 蓮花は、金餅の近くに座り込み、両方の手で頬杖をついた。


「隼さんが龍騎士候補生になるんだよ。さっき、人買いさんも言っていたでしょ? 龍騎士になれば、家族の安全も国が保証しているって」


 金餅はグググと唸り声を上げる。


「家族の安全ってさ、借金も肩代わりもあるんだよ。でもね、国が肩代わりするんだから、借金の内容も調べられる。もし借金が完済されていたのに、まだ返済をせまっていたり、返せないように不当な利子を組まれていたりしたのが分かったらどうなるのかな?」


 金餅は不安そうに目をさまよわせ「どうなるのだ?」と問うた。


「孫家は取り潰されるかもね。国をだまそうとしたんだから。あ、その嘘の借金で杏ちゃんを売ろうものなら、それもどうなるか……」


 蓮花は、無邪気を装いニコリと笑った。蓮花は、隼が龍騎士になれば借金の取り消しや、もし杏が売られていたとしても取り戻せることは知っていた。でもそれまでの間に、二人の心に取り返しのつかないような傷がつくのを避けたかったのだ。

金餅はガクリと下顎を落とす。

 そこへ朧月がパタパタと朧月が紙の束を叩きながら追い打ちをかける。


「他にも、孫家はいろいろとやっているようだが? 管理する宝物庫からの勝手に宝貝ぱおぺいを貸し出し……。派閥を広げるために、敵方に濡れ衣……」


 顔色を変えた金餅が絞り出すような声を上げた。


「わ、分かった! そこの二人は自由する! その代わり、その証文を返せ!!」


 差し出す朧月からひったくるようにして紙の束を奪うと、金餅は屋敷の中に走って行った。


「あ! 不正の証拠が!!」


 あれを宮中に出せば、孫家の不正の証明になる。そう思った蓮花は追いかけようとしたが、朧月に止められる。


「あれは白紙の紙束だ。さすがにそのような物まで家捜しするつもりはない」

「な~んだ」


 体中の力が抜ける蓮花。


 そんな蓮花の頬に、朧月は手を当てる。ひんやりとした冷たい手だ。困ったような、たしなめているかのような表情で、蓮の顔を見下ろす。


「蓮……。無茶をするな。蓮の高潔さは美しい……。しかし下劣な者ほど、理解はできないものだ。あのような輩に、心を説こうというのは愚かとしか言いようがない」

「それは分かっている! あのバカ息子は変わりようがないって!」

「ならば……」

「変わって欲しかったのは、バカ息子じゃない。隼さんと、杏ちゃんの方!」


 名前を呼ばれた二人は、ハッと顔を上げる。


「二人とも、さっきまでの諦めたような顔じゃないもん。自分の力で自由を求めて戦った顔だよ!」


 朧月も、「ふむ……」と二人を見て頷く。


「それに、分かっていたもん! 朧月さんがすぐに来るって事は!」

「何?」

「だって人買いがいなくなるときには、剣戟の音も怒声もしなかったもん。だからすぐに朧月さんが来るって分かっていたの」


 ふっと朧月は笑う。そして再び蓮花の頬に手を当てた。


「信頼してくれていたのだな……」

「うん」


 そこへおずおずとした隼の声が割り入る。


「あの……。蓮様、朧月様……。このたびは、本当にありがとうございました。お二人のおかげで、……その……じ、自由になる事ができました」


 隼と杏が揃って頭を下げる。


「そんな事ないよ。戦ったのは、自分自身だもん」


 そこで蓮花は、「でも……」とぼけたように頭の後ろをかく。


「でもね、龍騎士になれば、国が借金を返してくれて、家族の安全の保障をするっていうのは本当なんだけど……。あれって、龍騎士になって、龍騎士隊に入ってからなんだよね」

「?」


 不思議そうに隼は首を傾げる。


「隼は龍騎士候補生になったけれど、候補生の中でも龍騎士になれるのはごく一部だけ。候補生が、龍に捧げる宝珠を作るまでに、たくさんの試験があって龍騎士隊の基準に合わない人はふるい落とされるんだよ。さらに宝珠を作れても、その宝珠を気に入ってくれる龍がいないと龍騎士にはなれないの。だから、隼はとりあえず候補生として、試験を合格し続けないと……」


 そう言われて、隼は顔を青ざめさせる。候補生になっただけでは、杏の安全の保障はないのだから。

そして、同時に蓮花も顔から血の気が引いた。


「候補生……。あ……! 私達、まだ適性検査も受けていない!」


 夜の闇はもうかなり深い。もしかしたら、適性検査は終わってしまったかもしれない。


「朧月さん! 走ろ!」

「うむ」


 月明かりの下、朧月と蓮花は全速力で街を走り抜けた。



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