第2話
それから時は流れ、現在。
清藍国の歴史では、かつて龍が人間に恋していたことも、人間に恋をした恋龍が「龍の恋人」である青年の恋の成就を助けるために宝珠の
現在は宝珠の
今日がその適性検査の日だ。蓮花が龍騎士になるためには、まずはこの適性検査を合格しなければならない。
しかしこの適性検査を受けるには一つ、問題がっあった。受検資格が、十五歳から十八歳までの男子ということだ。
かつて十四歳以下、十九歳以上で宝珠を作った者はなく、また女子もそうであったからだ。十五から十八歳までの若者でないと魂の分割に耐えられずに自我が崩壊してしまう。また人間の記憶は薄れても、龍が恋していたのは男だけ。龍は
蓮花は十五歳だ。年齢は問題がない。でも女なのは問題だ。本来なら適性検査の受検さえできるはずがない。蓮花がしているのは、そのための変装なのだ。
さらしを巻き直した蓮花は、男性用の肌着を着て下履きを履く。その上から
鏡に映った蓮花は、少年にしては顔つきが少し繊細だが、キリリとした眉毛に意志の強そうな目が、実に少年らしい。
「さあ、できました。こちらをお向き下さいませ」
内心では、本当にさらしなんか必要あるのかしらと思っている、ささやかな蓮花の胸が全くの平らになったのを確認すると、玉葉は小さく頷いた。
「し、死ぬかと思った……」
蓮花は倒れこむように、
「あ~あ。こんなに苦しいのなら、姿変えの
玉葉は、眉をひそめる。
「いくら
「それはそうなんだけど、でも……」
「いいえ、いけません。
「それもそうなんだけど……」
蓮花は大きく息を吸い込もうとして、息苦しさからゴホッと咳こんだ。
蓮花が適性検査に合格したら、その後には龍騎士候補生として全寮制の龍騎士訓練所に入らなくてはならない。養成所に入ったら、この変装を毎日しなくてはならないのかとげんなりした。
「いよいよでございますわね」
「うん。ここまでこれたのは、玉葉のおかげだよ」
「いいえ……。わたくしは何も……」
「お母様の法要が適性検査の前日になるように、丁家に働きかけてくれたじゃない!」
法要がなければ、いや別の日だったらこうはいかなかったはずだ。玉葉はふんわりと笑って、蓮花の頬を手で包む。
「でも皇宮から出られるように、
玉葉は、蓮花の頬に手を置いたまま遠い目になった。
数か月前、蓮花はしんしんと冷える通路で後宮の最高権力者であり、母を亡くした蓮花の母代理を務める
それでも法要のために宿下がりをしたいという願いを聞いた
そんな玉葉の胸の内を知らずに、蓮花はため息をついた。
「まあね……。それだけ必死だったって事よ」
「そうですわね。適性検査を受けられるのは、この一回きり。来年にはご結婚されるんですものね。それも当の『龍騎士』と……」
蓮花は、それまでの半ば浮かれた表情を一転させて、暗い顔で吐き捨てた。
「ホント、いったいどうして『第三皇女は、龍騎士と結ばれるべし』なんて掟があるのかしらね?」
蓮花だって知っている。それは清藍国と宝珠の
まだ蓮花の結婚相手は決まっていないが、今年の龍騎士が誕生したら、その新しい龍騎士を含めて一番優秀な者が選ばれるはずだ。
でもその第三皇女本人が一番優秀な龍騎士だったら?
もしかしたら結婚しなくてもいいかもしれない……。そう蓮花は考えた。玉葉が、無謀ともいえるこの作戦に協力したのも、この蓮花の想いを知っていたからである。そして玉葉は蓮花と違い、適性検査に受かるとも思っていなかった。ただ、適性検査に落ちてすっきりすれば、結婚に対して前向きになるのではないかと考えただけなのだ。
部屋に明るい光が差し込んだ。
もう夜は明けたのだ。それぞれの想いを込めた適性検査の日が始まる。
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