第14話 赤色漂うは彼岸花
仕事は、行かなかった。
混乱状態で、記憶も曖昧。
ただ、左腕からは
焼けつくような、振りほどけない、もどかしい痛みが、嫌悪感を含む言葉を放っていた。
お風呂場には、赤い水玉から鉄の匂いが残っていた。
母親から誕生日に貰ったペティナイフ。
皮肉にも自殺未遂罪の罪を背負った。
不瀬は放心状態だった。
時間の数字は意味を持たなかった。
意味があるのは、
時計の針の音とずれて聞こえる、心臓の音。
不瀬にとって、
1番近く、死を感じ、また生を感じた。
会社から連絡がいったのだろう、
母親が家へ訪れた。
実家からはそんなに遠くない場所で独り暮らしをしていたため、急いできたのだろう。
私を見た瞬間の表情を、はっきりと覚えてる。
現状を理解できず、
ただただ、非日常的な私の姿に
恐怖とパニックで、反射的に口を抑え、
瞳孔を小さくした表情。
それでも、第一声は
「つらかったね。」
その一言だった。
予想しない出来事に出会った瞬間の心情での一言。
私は、涙を溢した。
辛さを他人に伝えた。言葉でない、純粋な道具で。
言葉がでなかった不瀬は、一瞬にして母親に
辛さを伝えた。
透明な滴からは、温かさが伝わり、
生を感じた。
しばらく、お互いは動かなかった。
各々、情報を整理する必要があるほどの状況だったから。
赤色が反響する中、互いの視線と表情が交差した。
不瀬は、疲労により、
いつの間にか、気を失った。
次目が覚めたときには、白い病室にいた。
隣には、メイクの崩れた母親が疲れはて寝ていた。
不瀬は、少し満たされていた。
と、共に申し訳なさが湧いてきた。
透明色の水を飲み、ため息をついて、
天井を見上げた。
白い天井は、飛蚊症で、賑やかだった。
手を伸ばしたが届かなかった。
虚しさが降り落ちてきた。
心の中で誰かが語りかけてきた。
「これからどうするの?」
目眩がしてきた。
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