被災
平成26年 8月17日 福岡県大川市
結婚の1年程前からこの地で一緒に生活している沙羅と俊弥。この日は俊弥は試合で家におらず、沙羅はグアムで引き取った息子のカズヤ(日本名は沙羅の姓を取り、井浦・和也・アルフレートとなった)と行水をしていた。
「サラ、グアムよりあついねニッポン」
「まあ湿気がねえ・・・・・・ってサラじゃなくてママって呼んでよ」
「だってサラはサラだもん」
「うーん、まあいっか」
「マアイッカ」
まだ引き取ったばっかりで無理にママとか言わせるのも違うなと思う沙羅は、じっくりその日を待とうと決めた。それは俊弥も同様であった。
そして、そろそろお昼ご飯をしようと庭から家の中に上がろうとした瞬間であった。
「?この感じは・・・・・・」
突然、地面が凄まじく鳴動し、沙羅はカズヤを抱きしめながら必死に建物の少ない方へ逃げる。
一瞬、地下のシェルターに入ろうと思ったが、家が崩れたら出口が塞がってしまうので、外を逃げる事にした。
(なにこれ、大きいのは覚えてるはずだけど、前世でこんな地震記憶ないって!)
自身も記憶にない地震に動揺する沙羅だが、腕の中で震えるカズヤを見て冷静さを取り戻す。
(そうよ、私は母親なんだから、この子を守らなきゃ!)
「カズヤ、大丈夫、大丈夫よ」
「ジメンがうごいた・・・・・・サラ、ホントにダイジョウブ?」
「大丈夫、何も心配ない」
ひとまず、安全圏へ避難した親子。数十分後、沙羅の仕事用の電話が鳴る。
ピッ
『沙羅!今の地震・・・・・・あの、無理はしなくていいから!』
『規子さん!・・・・・・被害状況は?』
『馬鹿、あんたも被災者になるんだよ!仕事する気?!息子さんだっておるでしょ!』
『でも、他に被災した皆も放って置けません!』
『じゃああんたが仕事してる間はカズヤくんはどうするの?』
『それは・・・・・・すみません』
俊弥とも連絡が取れていない今の状況で、腕の中で震えるカズヤを置いてまで出動はできないと諦める沙羅。
『沙羅の事だから、すぐ動こうとするんじゃないかと思って電話したのよ』
『大丈夫です、無茶はしません』
『本当よね?余震続いてるみたいだから気をつけなさいね』
『はい、ありがとうございました』
ピッ
規子の忠告を守り、指定避難所へカズヤを連れて向かう沙羅。
避難所の非常電話で俊弥に連絡を取ると、彼の方でも速報ニュースを見てすぐ帰る準備をしているとの事であった。
「トシヤ、かえれる?」
「うん、トシヤ帰れるって」
しかし、それから俊弥が帰るまでにかなりの時間を要した。
俊弥は車で広島に行っていたが、地震の影響で九州に入ってからの高速道路も通行止めで、幹線道路はかなりの渋滞が発生していたのである。
彼が家族の元に帰れたのは、地震発生時刻の11時50分頃から14時間後、日付が変わって深夜2時頃であった。
「沙羅、カズヤ、ごめん遅くなって」
「カズヤはもう寝たよ、今は余震も落ち着いてるし」
沙羅の膝の上でスヤスヤと眠るカズヤを見て俊弥も内心ホッとする。
「沙羅は寝らんの?」
「なんか前世の地震の事思い出して眠れなくて・・・・・・」
「そっか・・・・・・そうだ、地震起きてから家は見た?」
「ううん、必死でカズヤ抱いて逃げたから」
「そうだよね・・・・・・あの、さっきちょっと見てきたんだけど、崩れてはないみたいだったよ、中はまあ色々倒れたりしとるけど・・・・・・」
「そう・・・・・・あ!ガスとか電気とか大丈夫?!」
「大丈夫、ブレーカーもおろしてきたし、冷蔵庫の中身も処分してきたし、ガスも閉めて来たし、服とか貴重品とかもちゃんと持ってきたよ」
「全然ちょっと見てきたんじゃないやん・・・・・・余震で崩れたりしたらどうすっとね、俊弥が死んだら私もカズヤもどぎゃん・・・・・・」
泣きそうになる沙羅を俊弥はそっと抱きしめる。
「大丈夫だよ、沙羅とカズヤ残して逝けるわけないやん、それにその時は沙羅の仲間達も軍の救助隊もおるやん」
「ばってん、ばってん・・・・・・!」
「大丈夫、大丈夫だけん」
俊弥の胸で抑えてきたものが溢れ出す沙羅。
「それに、君の仕事をしたいなら、カズヤは僕に任せて行っておいで」
「ばってん、チームは?」
「大丈夫、落ち着くまで家族の傍に居ろって球団が言うてくれとるけん」
そういうわけで、改めて規子と話し、出動を決意した沙羅であった。
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