14th ステージ
第147話 命が尽きるまで
シーシェの女王と隣の国の王との親睦会と化した三国会談から三ヶ月が過ぎた。
リンディエールはあれからも時折叱られ、ヒストリアに魔力管理されることもありながら、相変わらず迷宮に通っていた。
この日、早朝から聖皇国の地下にある迷宮に教皇ソルマルトと共に潜り、半日。そろそろ外では日が暮れてくる時間になって、迷宮を踏破した。
「あははっ。最後っ、最後のドラゴンゾンビ三体とリッチデーモンとスカルロードの三連戦はひやっとしたなあっ。あははははっ」
「……ううっ……死ぬかと……死ぬかと思いました……っ」
さすがに疲れたと座り込みながらも、リンディエールが爆笑しているのに対し、ソルマルトは横になり、丸まって泣いていた。
「いやあ〜。この意地悪さっ。簡単に終わらせてたまるかって意気込みの入った凶悪さっ。神の怒りを感じるなあ〜」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……っ」
もう土下座というか、座ることも出来ずにただうつ伏せななっているような状態のソルマルトが、泣きながら神に謝っていた。
リンディエールは大の字になって寝転がる。
ここはボス部屋。というか、最下層全てがボスのフィールドだったのだ。その中央辺りだ。
一応は、それぞれ行動する範囲の制限はあったらしく、全ての敵が一気にかかって来ることはなかったのだが、連戦は避けられなかった。
「まさか、倒した後、休憩するのに時間制限があるとはなあっ。あははははっ」
「……笑い事ではありませんよっ。ここまでレベルが上がっていなかったら危なかったんですよっ!」
「いや。そこは計算されとるって。多分やけど、踏破可能推定レベルは200や。うちも、ここまで深いとは思わんかったけどなあ」
階層が全部で八十。広さは階層によってまちまちだったが、それなりに広かった。
リンディエールと相性が良いとは言えない相手だったが、それを補って余りある、歴然たるレベル差があったから、三ヶ月で踏破が可能だったのだ。
「ソルじいちゃん。レベルいくつになった?」
「……確認します……っ!! え!?」
「いっぱい上がったやろっ。格上の相手やった上に! ボス祭りやったからなあっ」
迷宮を周回し、ボス狩りが趣味のリンディエールにとっては、笑いが止まらない状況だった。
そんなリンディエールも、今月の目標としていたレベルまで上がったようだ。
「よしっ! 490っ!!」
「205……っ、え……? リンちゃん? 4ひゃ……っ?」
自分のレベルもびっくりだが、リンディエールはその遥か上を行く。
寝転び、仰向けになりながら、両腕を上げて拳を握る。
「もうちょっとや! あと十! これなら、うちの国の迷宮を攻略できればっ……いける!! このボス戦をもう一回出来ればすぐ終わるねんけどなあ……まあ、贅沢は言わん」
このボス三連戦だけで、レベルが五以上上がった。この調子ならば、500までもうひと月ほどだろう。
「ソルじいちゃんも、最初よか、えらい若返ったなあ」
「それはもう……腰痛もないですし、筋肉も付きました」
リンディエールと一緒に仰向けになって大の字に寝転ぶソルマルト。その見た目の年齢は、恐らく四十代だと言う人もいるだろう。
深く刻まれた皺が薄くなり、頬に張りが出たのが大きい。
折れそうで、腕も掴んで引っ張ればポキっといきそうだった体は、肉付きも良くなり、別人のようだ。
週に二回、丸一日潜って進み、更に週に三回は夕方から三時間ほどの迷宮攻略。嫌でも鍛えられる。
ジム通いをするよりもハードな日々だった。
「この杖も、まるでもう長く連れ添った相棒のようです……丈夫ですしね」
「あ〜……殴る、刺すに躊躇なくなったでなあ」
「……やらないと死にますもん……汚れても綺麗に出来るとなれば……躊躇っていられませんっ」
クリスタルで出来たような錫杖。クリスタルだったなら割れてしまうと躊躇うが、見た目とは違い、岩も砕ける頑丈さが売りだった。
これにより、ソルマルトは殴る、突き刺すを覚えた。
魔法で新品同様の輝きがいつでも取り戻せると知れば、汚れも気にならなくなったようだ。
それよりも、倒すことを考えられたので良かったといえる。
「でも……」
少し涙を滲ませながら、ふっとソルマルトは笑った。
「……楽しかったですよ」
「そか」
「はい……国内の迷宮にも、行ってみようと思います。若い者達も連れて」
「せやな。今のじいちゃんなら、大丈夫やろ」
「ありがとうございます」
「んっ」
200も過ぎれば、よほど難易度が高い迷宮でない限り、負けなしだろう。この三ヶ月、実戦で鍛えられたソルマルトは、後衛で守りに徹する神官の役割りも、前衛で敵を蹴散らすことも出来る。
「二年……二年で、全員鍛えます。この国がしでかした事が原因で大厄災が起きるのです。我々が動かなくてどうなりましょう」
「……」
リンディエールがソルマルトを誘った理由。その一つがこれだ。責任は取らなくてはならない。罪は償わなくてはならない。
それが例え、今はもう生きてはいない血縁でもない昔の教皇達や上層部の神官達の罪だったとしても、国を背負って立つことになったソルマルトは、それまでの国の責任も負わなくてはならない。
そうでなくては、他の全ての国々から廃され、国はなくなるかもしれない。
だから、誰よりもこの国の神官達は、態度で示していく必要があった。
ソルマルトはゆっくりと体を起こす。そして、神に祈る姿勢を取る。
「信頼を取り戻す為の努力……惜しまないと誓いましょう。罪を贖う事……逃げないと覚悟を決めました。間違いはもう犯さない。犯させない……必ず、やり切ってみせます。わたくしの、命が尽きるまで全力でっ!」
その時、部屋に光が降り注ぐ。
「っ!!」
そして、女神の声が響いた。
【その覚悟、その誓い、信念、受け取りましょう】
「っ……!」
ソルマルトはその声に、優しく包み込むような光の奔流に感じ入り、涙を落とす。
【ソルマルト。あなたにわたくしの加護を与えます】
「っ……感謝いたしますっ……」
そして、光が消えていった。
しばらくソルマルトは動くことなく、一心に神へと祈りを捧げていた。
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