第130話 精進してくれ
ブラムレース王が王妃リュリエールと並んで登場する。
すると、多くの者達の背筋が伸びた。女性達は、特にその視線をリュリエールに向けている。彼女はこれまで、穏やかで大人しい王妃だと思われてきた。
しかし、今回の大会で、実は戦いも出来るのだと知ったのだ。
「王妃様だわ……っ、ステキ……」
「あの美しさであの強さ……まさに王妃に相応しい御方だわ……」
「あの辺境伯夫人との息の合った動きは、見事でしたわねえ」
「あの方も、戦えるようには見えませんでしたけれど、さすがはヘルナ様を義母様にされた方ですわ」
リュリエールと噂されているのは、リンディエールの母のセリンだ。今回の大会で、同じように今までのイメージを払拭したのが彼女だった。
彼女の実の母や、姉達も目を丸くして、別人だと思ってしまう程の変化だった。
「なんや、うちのおかんも、噂されとるやん」
「死ぬ気でお祖父様の元、父上と特訓していたからね」
「じいちゃんが?」
「うん。お祖父様の昔の仲間に、女性も二人居るでしょ? その二人に特別指導受けてね。『辺境伯の妻らしくする!』って扱かれてたよ」
確かに、辺境伯の妻は、本来戦う術も持っているべきだ。ヘルナを見れば分かるだろう。アレが本来の辺境伯の妻らしさだ。
セリンは貴族令嬢のまま嫁いでしまった。夫であるディースリムも、それを許した。そこから、ヘルナ達との溝が出来たようだ。
「あ〜……まあ、必要やな。ばあちゃんらがやらんかったら、うちがどうにかする気やったし」
「えっ、リンが指導するつもりだったってこと?」
「せや。当たり前やろ。旦那である父も悪いんやで? 今までは、何もなかったかもしれんが、あの辺は、それこそキング系が出て来てもおかしない場所や。そこに、一番上に戦えんのが居ってみい。自分達で逃げることもできんやつらを守るのに、兵達が持ってかれる。その分を本来なら、領民の避難のために使えたかもしれんのや。迷惑やろ」
「……確かに……」
当然、兵士達は領主達を守ることを優先する。しかし、領主達が自力で逃げたり、戦えたりすれば、その分の人材を領民を守るために使えるのだ。
どちらが辺境の領主らしい姿が分かるだろう。
「兄いも、よお考えぇ。こういう時こそ、色々と考えることが出来る。問題も浮き彫りになる。その時を常に考えなあかん。領主は、自分の命だけやない。多くの領民の命も預かっとるんや。今の兄いなら実感できるやろ」
「……うん」
良い顔になった。次期領主の顔だ。それを見て、スレインやレングも何か感じたらしい。頷き合っていた。
王と王妃に続いて、入って来たのは王子、王女達。
第一王子のマルクレース。第二王子のユーアリア。第一王女のレイシャだ。
一時期、ユーアリアは卑屈で手に負えない癇癪持ちの子どもと思われており、レイシャは対人恐怖症気味だった。しかし、今の二人は、王子と王女としての自覚もし、しっかりと前を見て歩いている。
因みに、ここに子ども達が集まっているが、親達は辺境伯と侯爵ということで、前の方に集まっていた。
貴族達の前に立ったブラムレース王は、先ずは労いの言葉をかける。
「皆、昨日はご苦労だった。特に学園生の動きは見事だったと思う。素晴らしい成長振りだと、学園からも報告があったが、将来が楽しみだ」
これに、学園生達は涙ぐむ。王に褒められるというのは、それだけ凄いことだ。それも、努力を認められたのだ。嬉しいに決まっている。
そんな様子を見て、ブラムレース王も穏やかに笑い、頷いて見せる。
「うむ。これ以降も精進してくれ」
これに、学園生達は、揃って頭を下げる。女生徒はドレスの裾を持ってカーテシーを決め、男子生徒は胸に手を当てての礼。それがまたきっちりとしたお手本の様な出来だった。
大人達が驚いている。もちろん、ブラムレース王もだ。それを見て、フィリクスはリンディエールに耳打ちする。
「すごいキレイ……もしかしてリンが指導した?」
「ん? ああ、確かにしたなあ。一番変化が分かりやすいやろ思おてな。最近はほんま、綺麗に揃うようになったわ」
「やっぱりね……あ、こっち見て納得したみたい」
ブラムレース王が、マルクレースに耳打ちされ、リンディエールに目を向ける。これはリンディエールの仕業だと納得したらしい。
「悪いことやないやん」
「それはそうだけど、驚きはするから……」
「そういうもんか」
そして、ブラムレース王が話を続けた。
「子ども達の成長は頼もしい限り。それと、女性達の活躍には目を見張るものがあった。今までは戦いとは無縁であったろう。こちらも、努力の成果だ。よくやってくれた」
戦えるようになったと、自信を持ち始めていた真面目な女性達は、頬を上気させて微笑んでいた。
「もちろん、向かぬ者もあるだろう。だが、それでもやれることをと努力した者達は、確実に成長したようだ。とても嬉しく思う」
動くことが苦手だった者もいる。だが、それでも努力した者達は、レベルが上がることで、その苦手意識が少しずつなくなってきているはずだ。
そして、今回の大会で、『意外とできる』というのを自覚していた。
逆に言えば、リンディエール達は、訓練の中でもレベルが上がるようメニューを決めていたのだ。
ある程度は、魔物や魔獣を倒さずともレベルは上がるというのは、ヒストリアとリンディエールの研究で分かったため、その効果が最も出るよう、訓練内容も調整してあったのだ。
そして、ここからは少々注意が入った。
「今回、ああした発表の場を設けたことで、真面目に取り組まなかった者達との差が顕著に見えた。自覚はあるはずだ。そうした者達が、日頃から愚かな行いをしていたというのを知り、遺憾に思う」
監査に入られた者達も、それなりの人数だった。今も領地ではそれが行われている者達は、顔色の悪い者が多い。
即日の監査決定であったため、隠せる物も隠せていないし、気が気ではないのだろう。
「あんな大人にはなりたくないね」
「あの辺、今にも倒れそうやしなあ。何隠しとったんやろ」
相当、まずい物を隠していたのだろうか。震えている者もいた。後悔するのは遅い。
「明日以降も、定期的に訓練を行うこととなる。より一層、危機感を持って挑んでほしい」
次に、クイントが引き継ぐ。
「今後の予定ですが、順次、本格的なレベル上げ訓練を行なっていただきます。具体的には迷宮での訓練です」
「「「「「っ……」」」」」
さすがに、迷宮と聞いてざわつく。まず貴族が迷宮に入ることはない。レベル上げも、その辺の森で狩りをするくらいだ。迷宮は、魔獣だけでなく、周りの環境も特殊のため、安全の確証が取れないのだ。よって、貴族は迷宮には入ろうと思わないものだった。
「心配には及びません。これにも優秀な冒険者や、補佐を付けます。安全を確保した上で、本格的な特訓を行うことになります」
それならばと、ほっとする貴族達。これを見て、リンディエールはニヤリと笑う。当然、側に居たフィリクスやスレイン、レングはそれに気付く。
「……リン……楽しそうだね……」
「リン嬢が楽しそうにするなんて……どんな訓練なんだか……」
「ヤバそう……」
「ふっふっ。まあ、甘ったれた根性は捨ててもらうわ」
迷宮での『本格的な訓練』というのは、甘いものではないのだ。
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