第108話 何やってきた!?

リンディエールが次代剣聖であるとエリクィールによって暴露された後、貴族達はしばらく緊急停止した頭を再び起動させるのに忙しかった。


「はあ……やってくれたなあ……エリィちゃん……」

「……俺は嘘は嫌いだ……」

「知っとるわっ。この正直もんがっ」


はじめから、エリクィールがこれを言わずにいられるとは思っていなかった。もっと問題のあるタイミングで口にしなかっただけ良いとするべきだろう。


「だいたい、何日も一っ言も喋らず居れるやろっ。なんで今日はお喋りやねんっ」

「……リンが居るから……」

「「「「「っ……」」」」」


ようやく正気を取り戻し始めた貴族達が、またもや意味深な答えを聞いてざわつく。


「……うん……今はうちが悪かったわ……」


ただでさえ誤解させる天才なのだ。気を付けなくてはならなかったとリンディエールは反省する。


「まあ、しゃあない。けど、後悔しとらんか? 剣聖の継承は一度きりやで?」

「……リンしかいない。そう決めていた……」

「……早う継承の件を片付けて、農業に集中したいだけやろ」

「っ……はじめの頃は……半分くらい……っ」


真面目なエリクィールが、とても気まずそうに、少し目を逸らした。これにリンディエールは大正解だと褒めるように満々の笑みを浮かべる。


「正直なのもええなあ。ほんなら、ええわ」

「っ、なんで……っ」


本来ならば、私情など挟まず、純粋に継承者として相応しいと思ったと伝えるべきだと思っていたのだろう。それなのに、リンディエールは満足げにしている。エリクィールは混乱した。


しかし、リンディエールはこれ以上ないほどの納得顔だ。


「ん? うちはなあ、与えられるだけゆう関係は嫌やねん。どっちかが得するだけの関係は長く続かん。それになんや、気持ち悪いねんな〜。借金しとるようでスッキリせえへんのよ。やから、エリィちゃんにも得することがあったんならええわ」

「っ……」


美少女が、悪戯っぽく笑う表情は、とても魅力的に映った。頬を染めて緩みそうになる口元を隠し、照れるエリクィールに、リンディエールはそうとは思わず追い討ちをかける。


「師匠て、呼んだ方がええか?」

「っ……!」


目をすがめ、ニヤリと笑うリンディエールに、エリクィールはドキリとする。そして、誤魔化すように目を逸らしながら告げた。


「っ……今まで通りで……いい……っ」

「さよか? なら、エリィちゃん、これからもよろしゅうっ」


手を差し出すリンディエール。それを嬉しそうに微笑みながら、エリクィールは膝を突いたままそっと握った。


この情景が貴族達には眩しく映ったらしい。


「っ、う、美しいっ……」

「ドキドキするわ……っ、なんてステキ……っ」

「騎士と姫……それも、守られる姫じゃなくて、背中を合わせて戦える姫と騎士なのねっ……っ」


リンディエールは中身は残念だし、エリクィールも見た目完璧な勇者にも見える騎士だが、中身は農夫。見た目詐欺の最高の見本だった。


ときめいているのは、もちろんその中身を知らない者たちだけだ。フィリクスやクイント達、リンディエールに執着している者たちは違う。


「っ、なんて羨ましいっ……っ」

「リンがあんな顔でっ、あんな綺麗に笑いかけるなんてっ、妬ましいっっっ」


奥歯をギリギリ言わせながら、醜い嫉妬心を膨らませていた。


ブラムレース王は、落ち着けとクイントの肩を叩きながら、空気を変えようとリンディエールへ気になっていたことを問いかけた。


「参考までに、二人の剣聖殿のレベルを聞きたいのだが、良いだろうか」


これは、リンディエールが剣聖と分かったとはいえ、まだ貴族達に反感を持たれる可能性を考えての質問だった。


レベルは強さの指標だ。数字で言われれば、馴染みのない貴族達でも理解しやすいだろうと思ったのだろう。


初めて会った冒険者達に、これを教えてもらうことは、挨拶程度のものだった。


「……112です……」

「「「「「おおっ」」」」」

「さすがは剣聖殿だっ」

「Aランクですものねえ。すごいわっ」


貴族達が感激する。百越えの冒険者は、貴族が私的に雇うことも難しい。その強さは、国や世界のために使うべきと、尊敬と共に称賛されるものだ。


そして、貴族達の目がリンディエールに向く。


だが、ここでブラムレース王はまずいかもしれないと気付いた。


「あ、リン嬢ちゃんは……やっぱ、公表しない方がいいかも……しれんなあ……」

「ええよ? 信じる、信じんはそっちの勝手やん?」

「いやいや、その……俺も聞くの怖いな〜って……あれから何ヶ月経った? また一気に上げてねえ? ビックリすることになりそうだぞ?」


ブラムレース王は気付いたのだ。リンディエールは自慢できるレベルを超えていたということを。


「大したことあらへんって。そういや……エリィちゃんにも話したことあらへんなあ」

「……レベル聞いたことない……だが、リンの方が上なのはわかっている……」

「あ、さよか。エリィちゃんが気にせんならええわ。気にせんよな?」

「構わない……俺も知りたい……」


師匠より弟子の方がレベルが上だと知って、嫌な思いをしないかと、リンディエールは少し心配になったのだ。だが、問題なさそうだ。


「ほんなら……うちの今のレベルは370や! 昨日できっちりキリのええ数字になったんやで!」

「……」

「「「「「……」」」」」


耳がキーンとなるような静けさが場を支配した。そして、ブラムレース王が叫ぶ。


「一体、何やってきた!? なんで、もう四百が目前になってんだよ!!」

「めっちゃ頑張った! 具体的には迷宮ボスとバトりまくった! 日に五体はヤったか? お陰で、懐も大いにあったまったで!」


リンディエールは腰に手を当て、胸を張った。しかし、ブラムレース王は泣きそうな顔になっていた。


「お前かぁぁぁっ! 国宝級の素材をゴロゴロ売り捌いたの! どこの国が売り払ったのか不安になったろうがっ」

「あ、やっぱ?」


ちょっと放出し過ぎたかなと思ったリンディエールだった。


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読んでくださりありがとうございます◎

また来週です。

よろしくお願いします!

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