第095話 遊ばれてやんのっ

予想通り、教会の中では引き続き、異世界の少女以外の物を慌てて隠そうとしたり、運び出そうとする動きが感じられた。


悠は隠す前に出て来ただけ。未だ壊れた塔の中から、結界を叩いて何やらこちらを指さしたり、叫んだりしているのは滑稽だ。光の帯も外したため、結界をどうにかしても、落ちるだけだろう。悠は笑いながら手を振っていた。


いよいよ、それぞれの物の場所に人がたどり着いた。全ての運び出しが始まる。これはある意味チャンスだ。慌てて運び出している所を見られれば、住民達にいよいよ誤魔化しは効かないだろう。


手を出さずにこの場にいるのは、こうして、奥から物を取り出してもらうためだ。さすがにいくつもの物を一度に持ってくることは面倒。ということで、あちらに動いてもらったというわけだ。


リンディエールは、今や教会をへの批難を大きな声で口にする住民達を見下ろしながら、町に仕掛けていた物を発動させる。


「ポチッとな〜」

「ん? 何したの?」


小さな声でお約束を口にすれば、傍に来て楽しそうに下を見下ろしていた悠が尋ねる。次は何かと期待するように、目を輝かせていた。


「アレや」


答えはすぐに分かる。町の上空に、白い大きな布が広がったのだ。この教会の上に、教会の面積よりも大きな四角い布がふわふわと広がる。その角には、大きなバルーン。下はある程度高さのある建物に紐で括られている。


風の調整をちょちょいっとする。これだけ大きいと中央がどうしても膨らんでしまうし、紐の負担になるのだが、実はその中央部分には、白い鳩が乗って、押さえになっていたりする。もちろん、下からはそれが確認できない。


「すご〜。あ、もしかして、あれで教会を包んだら、手品みたいに……」

「期待しとるとこ悪いんやけど、それはやらん」

「えー、教会ごと消すとかやって欲しい」


それを聞いたリンディエールは、愕然とした。


「……マジか……その手があった……それはやりたいわ……」

「出来るの!?」

「ふっふっふっ……分解魔法で建物だけ砂にしたるか……大きな砂場ができそうやでっ」


これだけ昂っても、住民達は上空に広がった白い布を指差すのに忙しく、騒がしいため、誰にも聴こえていなかった。


「砂場かあ。でも、中にあるお金とかはどうなるの?」

「……そこはアレや……潮干狩り方式で」

「掘るの? 掘ったもん勝ち? それ、入場料……じゃないか、参加料! 取らないとっ」

「おおっ。お主も悪よのお」

「ふふふっ。そちもな」

「「ふふっ」」


笑い合えば、時間も頃合いだ。


「さあ、みなさん、ご覧なさい」


そう住民達に告げ、上空の布を閉じた扇の先で示す。するとそこに、四分割された映像が映し出される。


どれも、神官達や司祭、司教が、何かを緊張した様子で運び出しているのが確認できた。


「あっ、あれ! 教皇様の王冠だ!」

「あの石と台……ミサで見たことあるっ」


住民達の目に触れたことがあると指を差して言うのは『穢れた王冠』と『隷属の香石』なのだろう。


「っ、な、なぜ! あの子! あの子が生きてる!」

「あっ、あれは、うちの子だ! なんでっ、呪われて死んだって……っ」


司教達が通ろうとしている道。それは地下道だった。多くの隠し部屋。その中に、地下道に通じる部屋がいくつかあった。しかし、その部屋の中には、鎖で繋がれている者がいる。


ほんの数秒のことだったが、そこに映り込んだ『鎖に繋がれた者』が、呪われていると言って教会に連れて行かれ、遺体さえ返されずに教会で亡くなったとされた身内だったらしい。


「あ、忘れとった……」

「何を? あの人たち? 奴隷とかなの? めちゃくちゃ『鞭で打たれました』って体だったけど……」


悠はそこまでしっかり見えたらしい。


「いや、奴隷やない……」


リンディエールは苦々しく思いながら、更に騒ぎ出す住民に伝えた。


「この教会には、いくつもの隠し部屋があるようです。そこは懲罰房……と思っていたのですが、どうやら違うようですね……」


神官達は、日々の憂さ晴らしをするための道具として、人を住民の中から拐っているとは、さすがのリンディエールも確信を持てなかった。


まさかなと思ったのは、神官の中にも何人か『隷属の腕輪』らしきものを着けている者がいるのことに気付いたからだ。


悠が着けられたような、本物ではない。効果は弱い物のようだった。だが、それを着けている人の様子が、少しおかしかった。夢見心地というか、表情がなかったのだ。


恐らく、魔法で意識も弄られていたのだろう。不完全な隷属の腕輪でも操れるように、意識を希薄にしていたのだ。


そんなことをする者が居るのだ。こういうことも、もしかしたらと思えてしまった。それは当たっていたようだ。


「そんなっ……あの子……あの子を返して!」

「俺が迎えに行く! そこをどけ!」

「あんた達、あの場所分かるんでしょ! 教えなさい!」


住民達は、いよいよ入り口に固まっていた神官達に手を出すようになっていた。人々は怒っている。ならば、これもこの国の向き合うべき問題だ。


「そうですね……では、わたくしの用事を済ませますわ」


そう言って、リンディエールは指を鳴らした。



パチンっ



すると、映像に映っていた司教達が運び出そうとしていた物に銀の糸が巻き付く。それは蜘蛛の糸だった。そして、ヒョイっと勢いよくそれぞれの物が司教達の手から浮き上がる。


慌てて手を伸ばすが、掴まえられない。天井へと巻き上げられる直前、その蜘蛛は白い鳥に変わった。


その鳥はしっかりと足で物を掴み、そのまま通路を戻る。しっかりと司教達が追いかけてきているのを確認しながら、距離を保って飛ぶ。


「ふふっ」

「うわ〜、あははっ。遊ばれてやんのっ」


悠が指を差しながら、また爆笑する。住民達の半分くらいも、笑っていた。その顔は間違いなく『ざまあみろ』と言っていた。


そのまま外に飛び出した鳥は、次に姿を白い風船に変えた。それもハート型。赤いリボン付き。とっても可愛らしい。


ふわふわと上空に飛んでいき、映像の映る白い布に四つ同時に辿り着くと、リンディエールはまた指を鳴らす。



パチン!



すると、白い布の四角からバルーンが外れ、中央に隠れていた白い鳩が中央部分の布を持ち上げながら一斉に飛び立つ。三十ほどの鳩が空に消えていった。それに目を奪われているうちに、残った十数羽の鳩が、白い布の端を摘んで、袋のようにして四つの物を包み込んでしまった。


「では、これはいただきますわ」


その声と同時に、リンディエールは扇から光の帯をそれに伸ばし、袋となった布の下に大きな門を作り出すと、そこに落ちるようにして布が消えた。光も消せば、そこには夜空しかなかった。


「後はみなさまで……ごゆっくり♪」


リンディエールはその場に小さな光の輪を作ると、悠の手を引いてその中に消えたのだ。


後にのこった住民達は、しばらくして正気に戻ると、教会へなだれ込んで行った。


この日、教会の権威は、一夜にして完全に失墜したのだ。




【覚書】

幸運転化の宝玉(ゲット)

穢れた王冠(ゲット)

召喚の杖(ゲット)

隷属の香石(ゲット)

召喚された異世界の少女(ゲット)


ミッションコンプリート!



**********

読んでくださりありがとうございます◎

次回、一週空きます。

よろしくお願いします!

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