第088話 直視はダメやでな?
西の離宮。
庭にある巨大迷路には、いつ来ても感動する。誰も住んではいないが、いつでも使えるように整えてある。
屋敷を管理する者も居り、その人たちとリンディエールは、既に顔見知りだ。巨大迷路もリンディエールのためにブラムレースが用意したのだから、これは当然の流れだ。
リンディエールがそこを管理する使用人達を無視するはずがない。
「モトじいっ、ユラばあちゃんっ、任せて悪かったな〜」
屋敷の玄関。扉を開けてすぐのエントランスに転移したリンディエールは、二人の男女に声をかける。
一人は、そろそろと思いながら、窓拭きをしていたモトと呼んでいる元貴族家の執事モルトバーン。
もう一人が、廊下の角から教皇の着替えを用意するよう頼んでいたモルトバーンの妻である、王妃の侍女長の母、ユラナーラだ。
この離宮は、彼ら夫婦で管理していた。現在は、二人の家であり、時折、侍女達や侍従の教育の場として使われていた。もちろん、教師はこの二人だ。
「いえ。まだそれほどお役に立てておりませんから、構いませんよ」
「近付かないようにとのことでしたからね。さあ、早く呪いを解いてさしあげてください」
「せやった! すぐやるでっ」
客室の一つに寝かせていた教皇の下に急ぐ。二人も優雅な足取りでついてきた。
「おいたわしいお姿ですね……」
「これほどまでに弱った方を放置するなんて……あの国は恐ろしいことをしますわね……」
骨と皮だけと言えるほど、教皇は弱っていた。か細い息、じっくり目を凝らさなくては、胸が上下しているのも確認し辛い。
「さてと。ほんなら、二人はコレをつけてや」
「……なんでしょうか、これは……」
「ガラス……にしては軽いですね……それに、黒い……」
「サングラスや!」
リンディエールも自分専用のサングラスを取り出し、すぐに装着する。
「これで西日も怖あない! けど、太陽直視はダメやで?」
不思議そうにしながらも、二人はリンディエールの様子を見て、同じようにサングラスをかけた。
「っ、なんとっ、夜になってしまったようですっ」
「これ確かに……眩しさを防げるのですわね?」
「せやっ。まあ、今回のは、それでも防ぎきれんもんやで、直視はダメやでな?」
「承知いたしました」
ユラナーラもコクリと頷いていた。
「ほんなら、いくでー!! 祓いたまえ〜、浄めたまえ〜、はあっ!」
「……」
「……」
「あ、これ、気持ちのこもるおまじないやねん」
「「なるほど」」
こんな呪文はないと、二人も分かったらしい。ちょっと笑いが取れればなと、言ってみているだけだ。ウケなかったのは残念だ。因みに、リンディエールは毎回呪解の時はこれを言う。いつ誰にウケるか分からないからだ。ふざけているのか真面目なのか判らないというのがヒストリアの感想だ。
強烈な光が、教皇を包む。
「や、やっぱ
まるで人間電気。だが、これにより教皇は穏やかな寝顔という表情になった。
そして、ゆっくり彼は目を開ける。
「……っ!?」
「あ……」
怪しげなサングラスの三人組を見て、気絶した。
「……これはしくった……繊細な人っぽいなあ……」
「で、ございますねえ……」
「お可哀想ですわ……」
リンディエールは少しだけ反省した。
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