7th ステージ
第058話 兄いの侍従と侍女
王都に着いた翌日の昼前。
ドレスに着替えたリンディエールと正装したフェリクス、両親を乗せた馬車が王城へ入った。
「ここの王城は、まあまあな品やなあ」
「他の国の城とか、リンは見たことあるの?」
馬車を降りる時点からリンディエールの手を掴んで離さないフィリクス。何度注意しても、なぜか恋人繋ぎになる。これはもうどうにもならんと早々に諦めた。
後ろには、両親。そして、侍従と侍女であるグランギリアとプリエラ、シュラとセラビーシェルが続く。
「うちのお隣さんと北の女王様んとこにな」
因みに、ジェルラスとテシルはヘルナとファルビーラに預けてきた。朝方、転移門でデリエスタ辺境伯領へと移動している。
「えっと……隣というと、迷宮都市があるケフェラルと北……山脈の向こうにあるっていうシーシェ?」
「せや。ケフェラルの王様は、じいちゃんとばあちゃんの冒険者時代の知り合いやねん。年齢も同じや。そんで、シーシェの女王はめっちゃ美人なお姉様でなあ。たまたまシーシェに食材を探しに行った時に、お忍びで遊びに出とってな。なんやかんやで意気投合して、お呼ばれしたんよ」
「……リンの交友関係って、本当どうなってるの……」
遊びに行って王族と知り合う確率というのはどれだけあるだろう。
「まあ、ウチには転移があるでな。常の行動範囲が広いんが原因かもしれへん」
「なるほど……因みに、王子とは会った?」
「あ〜、きちんと挨拶はしとらんなあ。どっちの王も、友達やてウチを紹介しただけや」
「ならいいか」
「ん?」
安心するフィリクスだが、それぞれの国の王子たちは、しっかりとリンディエールを覚えている。親である王や女王は、リンディエールの性格を正しく把握し、あえて接触を控えただけだ。
リンディエールが帰ってから、いずれ嫁にと王子達には説明している。それだけリンディエールを気に入っているのだ。王や女王は嫌われたくないため、慎重になっているというわけだ。
「ねえ、リン。宰相様と約束してたけど、一番にリンと踊るのは私だからね? それだけは絶対」
「当たり前やん。いきなり宰相さんと踊ったりせえへんわ」
「良かったっ。絶対だからね!」
「分かっとるって」
更に深く、絡めるように手を握られゾクリとした。これはかなり執着されているなと改めて思い知るリンディエールだ。
できればヤンデレさんは寝かせておきたい。
そんなリンディエールとフィリクスの様子を後ろから見ている両親は、とっても顔色が悪かった。
「……ねえ、ディース……フィル、リンちゃんと結婚するとか言い出さないかしら……」
「……父上と母上に相談しよう……私達ではどうにもできない気がする」
「そ、そうね……」
体の心配がなくなった途端に発覚した溺愛っぷりに、二人は目をそらしたくて仕方がない。だが、このままではいけないと分かるのだ。二人の心が休まる時はまだまだ遠くなりそうだ。
会場は夜ではないとはいえ、シャンデリアには明かりが灯り、美しく部屋を煌めかせていた。
そうして、始まったお披露目会。
王の挨拶も終わり、音楽が流れだす。そうすると先ず、十五歳の今年から学園に通うことになる少年、少女達が踊りだす。
二曲ほど終わった所で、フィリクスに手を引かれ、リンディエールはダンスを始めた。
「リン……本当に上手だね……なんか、私の方が助けられてる……」
「
リンディエールは小声で構わずいつも通りの口調で話す。ダンスの音楽とホールのざわめきで先ず他には聞かれないのだ。
「まあ、そうなんだけど……やっぱり男としては悔しいかな」
「来年になったら分からんて」
「ふふ。なら一年みっちりレッスンを受けるよ」
「無理は禁物やで?」
「わかってるよ」
幼いながらに華麗なステップを披露するリンディエールとフィリクスに、自然と視線は集まっていた。
しかし、リンディエールとフィリクスには気になるものではなかった。
「それにしても、私にシュラとラビをつけて良かったの?」
このお披露目会では、侍従と侍女の勧誘も行われる。既に決まっている場合は同伴し、こちらもお披露目することになっている。
今回、リンディエールはシュラとセラビーシェルをフィリクスにつけた。その一番の理由は、この場にも紛れ込んでいる『ブランシェレル』の関係者につけ込まれないためだ。
とはいえ、少し前からリンディエールはフィリクスの侍従と侍女に二人をと考えていたのだ。
「つけ込まれるのを防ぐ目的もあるねんけど、本気で二人を兄いの侍従と侍女にと思っとったんよ。二人とも、ウチの予想以上に優秀やねん。あの二人の力が十分に発揮されるには、兄いの所が一番や思おてん」
リンディエールの傍にはプリエラとグランギリアが居る。二人だけでも過剰だ。そこに、シュラとセラビーシェルが更に居るというのはもったいない。
二人とも、十分に辺境伯の侍従と侍女に相応しい実力を持っているのだから。何より、フィリクスと年齢も近い。これ以上ない適任だ。
「二人にはもう話してあるんよ。納得もしとる。それに、シュラもラビたんも貴族の血を引いとるが、生まれた家では認められんかった。けどそこに、次期辺境伯当主の侍従と侍女になったとなれば、見返すこともできるやろ」
辺境伯の娘ではダメなのだ。どれほどリンディエールが規格外であっても、貴族としての地位でしか測れない者たちは多い。だから、確かな地位を示すことが大事だった。
「シュラんとこはまあ、身内には見せられんけど、処分された伯爵の血を引いとるゆうことは、いずれ明かさなあかん日も来るかもしれへん。そん時に、兄いの侍女ゆうんは力になるんよ」
「……うん。守ることはできるね」
「せや。貴族相手ではウチではあかん」
次期辺境伯の肩書きは確かなものとなる。
「そんで、まあ、今回重要なんはラビたんや。リフス家の……ラビたんをバカにしとった兄達はここにも来とる。是非とも見せつけたってくれるか?」
「ふふふ。主人としての初仕事というわけだね。任せてよ。なら、先ずはきちんと二人と話してくるよ。主人として認められないとね」
そうしてダンスが終わり、フィリクスはシュラとセラビーシェルの元へ向かう。当然だが、リンディエールの手を引いたままだ。
「シュラ、セラビーシェル」
「「はい」」
フィリクスの呼びかけに、二人は何を言われるのかを察していた。さすがにここではフィリクスはリンディエールから手を離した。そして、二人に一歩近づく。
「私を君たちの主人と認めてくれるかな。リンのように惹きつける力はないかもしれないけど、君たちに恥じない主人になってみせるよ」
フィリクスらしい言葉だった。それに二人は膝を突いて見せる。
「この身に懸けまして、お役に立つことを誓います」
セラビーシェルがはっきりと口にした。それに続き、シュラも告げる。
「わたくしの持つ全ての技をもってお仕えすることを誓います」
これに、フィリクスは心底嬉しそうに頷いた。
「ありがとう。二人には私の大切なものを一緒に守って欲しい。領地、領民はもちろん、私が愛する
「「
「ん?」
何か副音声が聞こえた気がしたが、リンディエールは早速と、ベンディ・リフスとその息子達の姿を探す。すると丁度、両親に挨拶をする所のようだった。
「兄い」
「何だい?」
呼びかけると、すぐにフィリクスは振り向いてリンディエールの手を握った。
「今、親父殿と挨拶しているのが、お隣さんになるベンディ・リフス伯爵や」
「あれが……なら、私たちも行かないとね。シュラ、ラビも行くよ」
「はい」
「……はい」
セラビーシェルの少し自信なさげな声に、フィリクスはクスリと笑う。
「ラビ。君は誰の指導を受けたんだったかな」
「っ、そ、それは……っ」
ハッと顔を上げるセラビーシェル。いつの間にかリンディエールの傍に来ていたプリエラとグランギリアを見とめる。
「リンが私にと二人を薦めたってことは、一応はあの二人の合格をもらっているってことだよね?」
「せやで」
リンディエールが同意すると同時に、プリエラとグランギリアも頷いていた。
「なら、何を怖気付いているの? きっと間違いなく、どんな侍従や侍女も敵わないほど優秀な二人の教えを受けて、自信が持てないなんてことないよね?」
「あ……っ、はい!」
「なら行こう。君は、この場のどの子息子女の連れた侍従よりも優秀だと、見せつけなければならないんだ。分かったね?」
「はい。失礼いたしました」
今度はしっかりと前を向いた。
「ほな、行こか」
「うん」
そうして、フィリクスとリンディエールはそれぞれの侍従と侍女を連れて両親の元へ向かった。
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読んでくださりありがとうございます◎
次回、来週です。
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