グリモアール・コントラクト

Ryo-k

第1章 色欲と憤怒

prologue

 『魔法』

 古来より、この世界にすむ人間や生物には皆、魔力の核と呼ばれるものをその身に宿している。  

人々は、この核をもとにして、様々な事象を発生させることに成功する。

 それこそがこの地で『魔法』と呼ばれるものの始まりである。

 その魔法を扱う人のことを――『魔導師』と呼んでいた。

 とはいえほとんどの人間が持つ魔力の核は小さく、魔法を扱うことができる人は世界でも人握りの存在であった。


 そんな中、とある魔導師がある樹木に目をつける。のちの世に『アディマ』と名付けられるその樹木には、周囲の魔力を吸収し、増幅してから大気中へと放出するという性質があった。

 そこに目を付けた魔導師は、その木から紙を作り出し、自身の魔力を紙の中に圧縮、閉じ込めることにより、魔力の核を生み出すことに成功。

 その紙を1つに束ね1冊の書物を作りだす。

 そこからさらに魔導師は、その書物へと、自身の持つ魔法を文字として変換し書き込んでいった。

 そうしてできた書物に魔力を込めると、書物へと書き込まれた魔法を発生させることに成功。

 

 そうして生まれたのが――『魔導書』。

 

 魔導書ができたことによって、魔力の核が小さい人でも、自由に魔法が使うことができるようになった。

 こうして、この世界に魔法は浸透していった。





『交易都市ルルベル』

 大陸の中央に位置するこの都市は、各地からの様々な品物が集まり日夜賑わいを見せている。

 元々この大陸には、大小無数の国が存在しているが、それと同時に険しい山や、強力な魔物の住む森なども各地には数多くあり、人々はそれらを避けるようにして、道を作っていった。

 その結果、国々が自分たちで作った道が交差したところに人々が集まるようになり、そこが各地からの商品の流通の中心地となり、遂にはこの都市が生まれた。

 都市内の市場には所狭しと露店が立ち並び、旅人や商人などでごった返している。

 中には、広場で歌を歌っている女性の周りに、その音に合わせて、音符が実体化して観るものを惹きつける扇情的な衣装を身にまとった女性がダンスを繰り広げ、観客が集まるところがあったり、さらには、売り物であろう商品を宙に浮かせて客とやり取りをしている人までいた。

 これらは、魔法を用いて行われている。しかし、魔導師ではない。すべて、魔導書の能力によるもの。



 今から5年前、今の領主になったときに、安価で誰でも手に入る魔導書が都市内に流通した。

 本来、魔導書の作成の大本となっている樹木『アディマ』自体が希少かつ、素材があっても、上級魔導師と呼ばれる大陸でも数人しかいないとされる、優れた魔導師でないと困難といわれるほど魔力の核を創り出すのには、高い魔力操作が必要となるのだ。

 そのため、市場に出回ることはまずなく、国王や一部の有力領主が裏の市場で出回ったのを高値で購入して所持しているというのがほとんどであった。

 ところが、5年前に今の領主は魔導書の複製、製造に成功したのだ。



 その魔導書は従来の魔導書とは異なっている点があった。

 それは、魔導書に使われている素材。

 従来のものと違い、使われているのは『セフィラ』と呼ばれる樹木で、この樹木にも、周囲の魔力を吸収する特性を備えているが、その吸収量は『アディマ』の10分の1にも満たない量といわれている。

 しかし、メリットともいえる部分もあった。

 

 まず第一に、この樹木の入手のしやすさ。 

 この樹木は大陸中のあらゆるところに生息しており、この大陸に存在する木々のおよそ半数がこの樹木であるとまで言われている。

 

 次に、この樹木特有の特性にある。

 周囲の魔力の吸収量は『アディマ』の10分の1にも満たない量といわれている。それは同時に魔力の核を作り出す際に従来ほどの魔力操作を必要としない。魔力操作に関して、多少の知識があれば可能なレベル。

 最も、魔力の核の規模も比例して、10分の1にまで減少しているのだが。発動する魔法の規模も非常に小さいものになる。

 そして、最近の研究により、新たな特性が見つかったのだ。


 それは、他の樹木と比べると、魔法の影響を受けやすいこと。

 この特性により、従来の魔導書では不可能であった複製魔法を用いた量産が可能となり、魔導師が表の市場に出回るようになり、一般人でも安価で購入することができるようになった。

 

 現在この都市では、最低でも一人一つは魔導書を持つまでになり、今では魔法で火を起こして料理をしたり、水を出して衣服を洗ったり、光を出して夜の部屋の灯りにしたりといった人々の生活にはなくてはならないものになった。

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