ログインボーナスになったらめちゃくちゃモテる

くにすらのに

第一章 初めてのログイン

第1話 モテ期到来

独井とくいくん、手繋いで」

「う、うん。いいよ」


 高校二年生になってから三日目。俺、独井とくいれんにモテ期が到来していた。

 どうやって家を嗅ぎ付けたのか、玄関を出たら見覚えはあるけどまだ名前を覚えていないクラスメイトの女子が手を繋いで欲しいとお願いしてきたのだ。


 俺が通う祖始有そしある高校は進学校でありながら校則がゆるいため髪を染めてもうるさく言われない。

 目の前にいる名前を覚えていない彼女もその緩さに便乗してうっすらと茶色に染めている。

 小さな顔にボブヘアがとても似合っていて、こんな可愛い子と手を繋げることに対する喜びが俺の中で芽生えていた。


「えへへ。私は一番乗りから」

「そりゃあ玄関を出てすぐだからね」


 俺がそっと手を差し出すと、名前を覚えていない彼女は勢いよく握り締めた。

 彼女は手を握ったまま無言で時間が過ぎるのを待っている。

 その様子を俺はただじっと見つめることしかできない。


 ピンコーン


 時間にして10秒ほどだろうか。彼女のスマホが何かを通知する音を発した。


「よし。今日のログボゲット。明日もよろしくねー」


 先程までの愛想あいその良い雰囲気から一転、用事を済ませた彼女はそそくさと去っていった。

 うん。わかってたよ。ログインボーナスはとりあえず貰っておいて損はないからね。


「はぁ……今日もみんなのログボになるのか」


 事の発端は四月一日。エイプリルフールのネタだと思ってスルーした謎のメッセージだ。

 



 “おめでとうございます! あなたは見事、Lonelyロンリー Good グッドBoyボーイ、通称・ログボに選ばれました。

 これから祖始有そしある高校の女子生徒に限定したログインボーナスになっていただきます。”


「なんだこれ? Lonely Good Boyって独り身の良い男ってことか?」


 俺は中学時代から女子に『独井くんって良い人だよね』『モテそう』『彼女いそうなのに』と言われ続けてきた。

 高校生になってもそれは変わらず、良い人止まりで彼女なんていない。

 そんな俺に対する当てつけのようなメッセージに怒りを通り越して呆れてしまった。


 “あなたは女の子と手を繋いだり、一緒にご飯を食べたりするだけでOKです。

 ログインボーナスの電子マネーは弊社が負担致します。連続ログインをすることで素敵な恋人ができるのか、我々はそのモニタリングを目的としております。”


胡散臭うさんくさいなあ。あ、エイプリルフールか」


 要は、俺からすれば無条件で女の子とイチャイチャできて、最終的に彼女ができるかの実験ということだ。

 何から何まで怪しい上に極めつけはログインボーナスの電子マネーだ。お金が絡んでる時点で詐欺にしか思えない。


「残念でした。俺は騙されねーよ」


 知らないうちにインストールされたアプリのアイコンを長押しして削除を試みるも、なぜかこのログボは消すことができない。


「うわ。こわっ!」

 

 怪しい儲け話はスルーが基本。迷惑メールはうっかりクリックする前に削除する。

 俺が身に着けたネットリテラシーがこのアプリを早く削除しろと言っているのに、何度試しても削除できない。

 試しに、もうやらなくなったゲームアプリを削除したらうまくいったのでスマホ自体の不具合ではないらしい。


「まあ、起動しなきゃいいだけの話か」


 この時の俺はそう思っていた。エイプリルフールのネタなら四月二日になれば消える可能性もある。

 最悪スマホを買い替えれば済むと高をくくっていたのが間違いだった。

 モテ期なんてとんでもない。好きな子に振り向いてもらえなければ何の意味もないんだから。

 

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