第4話 2人目のヒロイン(候補)との邂逅

「えぇ…。今の話を聴いてまだわからないの?翔人君ってやっぱり……だね」


「おい待て、今濁したセリフについてここでしっかりと話し合おうじゃないか」




「はぁ…もういいよ。それで、私が翔人君に惚れた理由だっけ?」


「そうそう、それそれ。やっと話してくれる理由になったのか…!」


散々呆れられ、俺への評価が暴落していることはまっこと遺憾でありますっ‼︎


でもまぁ、理由を話してくれるんだったら、先ほどまでの(心の)傷害事件の被害届を取り下げようじゃないか。優しいな、俺☆




「さっきも言った理由で、私は隠れヲタクを中学・高校と続けていたんだぁ。そして高校に入ってすぐに翔人君の存在を知って、すごいなって思っちゃった!私にできないことを平然とできる君が輝いて見えたんだよ‼︎」


「ほう…、俺の魅力に気づくとはなかなk…ってよくよく考えてみれば俺、貶されただけでは?それと俺、学校でヲタクをカミングアウトした覚えなんてないんだけど、なんで知ってるの??」




すると、急に柑菜瀬さんの視線が泳ぎ出した。


あっ、今から嘘をつく気だ……


「それは…な、なんか翔人君からは同類の匂いがしたから……と言っても信じてはくれないんだよね。もぉ〜、こういうときだけは勘がいいんだからぁ、扱いに困るんだよねぇ。」


そういっていつぞやの困り顔をまたまたしている。相変わらずかわいいなぁ、おい。




「実を言うとね、光輝君から聞いたんだ〜。いろいろ教えてくれて助かったよぉ」


あいつ…挽肉にしてやろうかな。隙あらば余計なことをする性格はどうにかならないだろうか。


「マジでか…。う〜ん、一度柑菜瀬さんとの距離感についてじっくりと話し合わないといけないような気がする」


「確かに。よく考えてみなくても私がやってたことって、“すとーかー”と大差ない…よね。ごめんね、迷惑かけちゃって」


本当に申し訳なさそうに謝ってくる柑菜瀬さんをみていると、多少のことならどうでもよく思えてしまう。




「いいよ気にしなくって。むしろ柑菜瀬さんのような完璧さんでも、1人の乙女であることに変わりないことがわかって安心したよ。だから、これからは……」


せっかく努力して得られた友達の輪の中で、柑菜瀬さんなりの恋を実らせていく方がいいと思うよ、と言い切る前に柑菜瀬さんが頬をパンパンに膨らませているのが見えた。




「ど、どうしたのハムスター柑菜瀬さん?」


「そんな変なあだ名はやめてよっ!…じゃなくってそれ以上口にしたら本気で怒るよ‼︎ 今、翔人君が言おうとしていることは、形は違えど私を馬鹿にしているのと変わらないからね!」


今まで見たこともないような柑菜瀬さんの剣幕に、思わず圧倒されてしまった。


「ごめんなさい…」


「わかれば良し!」




そこで今まで気にしていなかったが、不意に時計の表示が6時を過ぎていることに気付いた。


「それじゃあ、柑菜瀬さんの悩みは解決ってことでいいのかな。時間もかなり遅いし、もう帰ることにするよ。また何かあったらいつでも相談してくれ」


「翔人君!」


「ん?どうした?」


「最後に一つだけ聞いて欲しいの!」


胸に手を当ててゆっくりと深呼吸をしたと思ったら、不意に駆け寄ってきて囁いた。


「やっぱり私、あなたのことが好きです。いつか、絶対私に振り向かせてみせるから!」


我が人生において、誰かから告白&決意宣言されたのはこれが初めてのことだった−−−






=====






翌朝、教室にて例の2人組が俺に話しかけてきた。


「翔人くん、昨日はお楽しみだったね。感想をどうぞ!」


「いや、昨日はそれどころじゃなかったから。マジで、あの野次馬どもを説得するのに全力だったから」


「いやいやそうは言っても楽しかったんだろ〜?顔に書いてあるぜw」




あいっかわらず人を苛立たせることにおいてもピカイチの才能をお持ちのようで…!


いつも通り、仕返しだぁ‼︎


「そういう光輝もお楽しみだったみたいだな。どうだナンパはうまくいったのか?」


「もー翔人くん、同じ手には乗らないよ。ねー、光輝」


「……」


当の光輝はツツーッと冷や汗を垂らして、居心地悪そうに視線を忙しなく泳がせていた。


それはそうだ、これは昨日家に帰る途中に実際に見た光景なんだから言い訳の余地はない。




その様子から何かを察した月姫は、負のオーラを全開にして光輝をいつもの場所に連れていった。


ちなみにいつもの場所がどこにあるかは知らないが、戻ってくると必ず月姫は艶やかに、光輝はフルフルと脚腰が震えていることから推して測るべきであろう。


ボクハナニモシラナイ、ソレデイインダ。




何事もなかったかのように自分の席に座り、次の授業である世界史の準備をする。チャイムが鳴って、授業が始まると、すぐにしていることが大きく二つに分かれた。


一方は真面目に授業を受ける派。もう一方は授業そっちのけで自分の学習に集中する派だ。




1年生の授業は文理が分かれていないので、全員が同じ授業を受ける。しかしどちらを選択するかによっては不必要となる授業がある。


このことから理系を選ぶこと以外の選択肢を排除した俺にとって、不必要となる世界史の授業は受ける意味をなくしていた。だから俺はよく授業の用意は忘れ、別の教科の問題集をする(いわゆる内職というやつだ)タイプの生徒に分類される。




ただ今日に限って俺は真面目に授業を受けていた。


理由は単純明快で、今日の授業内容に興味をそそられたからだ。


そしてもう一つ、隣の席の人が教科書を見せて欲しいと言ってきたので席をくっつけているからだ。


隣の席の子の名前は確か…堅城 陽織かたしろ ひおりだったと思う。


彼女はよくいる委員長タイプで、現生徒会書記を務めているしっかり者だ。ただファンクラブの者曰く、彼女は素で天然をかますらしくドジっ子の一面も待っているらしい。


なに?『誰から情報を仕入れたんだ?』だと?聞くなそんなこと。悲しくなるだろーが。いい加減察してくれよぉ。悪意があるような気がするけど、気のせいだと信じたい。


とにかく、定期テストでは十傑から外れたことはないものの、普段は忘れ物を頻発するのでクラス内では堅城さんが席をくっつけている姿は恒例のものとなっていた。


「……」


「……なに?」


「ひぇあ?い、いや、なにもないです……」


ただ欠点としては、すごく愛想が悪かった。それはもう笑う姿が想像できないほどに。


また別の筋からの情報では、彼女は冷酷さと高潔さを兼ね備えた尊敬の対象として【十傑−潔冷席次けつれいせきじ−】と称されているらしい。


これらのことから言えることは、総じて隣の席になったとしても、そこから交流に発展することはないということだ。


俺としても、あまり隣の席の人と関わるのは好きではない。だからこういうタイプはありがたい。




特に会話もすることなく、そのまま世界史の授業は終わった。


1時間目の授業の終了後、今度は柑菜瀬さんがやってきた。


「翔人君、現代文の教科書貸してくれない?」


本日2度目の貸し出し先が柑菜瀬さんになるとは思ってもみなかったものの、それ以外では特に話が盛り上がることもなかったのでそのまま別れた。


なぜか俺と柑菜瀬さんが話している間、やたらと光輝がニヤついていたのが気になるが。




その後は特筆すべきことはなにも起きず、無事に消化していった。


ところで『なぜ急に授業の話?』と思った常識人も多いことだろう。




理由は−−−




り、理由は・・・




りゆうは、、、




ついカッとなって始めちゃいました(要するに特に理由はありません)


だが安心して欲しい。次からはちゃんと中身が入った内容になるはずだ。




というか、俺は一体誰に向かって語りかけているんだ?


や、やめて〜!俺をそんなイタい子を見る目で見ないで〜‼︎






=====






ところ変わって、アニメストア。今日俺がここを訪れた目的は、今夏上映開始のアニメ映画の原作を網羅するためだ。


制限時間は2時間半。既刊は12巻と多いようにも感じられるが、この道のプロである俺からすれば朝飯前以前の量であった。




れでぃー、ふぁいと‼︎




開始20分

  残り10.5巻


開始40分

  残り8巻


開始1時間

  残り5巻


開始1時間半

  残り2巻


開始1時間45分

  警察署に連行(容疑:営業妨害)






=====






「また来たのか、君は。潔く古本屋とかで買った方が、絶対効率の良い時間の使い方だと思うんだけど。それで今度は何巻読んだのさ」


「11巻くらいですかね。今日は比較的少ない方だとは思うんですけど…。最近、ブックコーナーの警備が特段厳しくなったように感じるのは気のせいですかね?」


「君は頭の回転は天才なのに、相変わらず清々しいくらいに使い方を間違えてるね。おじさん、悲しくなるよ」


「善処しますよ」


もはや毎度のことなので諦められている。




俺のことをただの不審者と侮ることなかれ。選んだ小説は90%の確率でヒット作になり、店の利益に貢献している。だから店側もあまり強くは出られない。


そういう事情も相まって、毎度毎度警察に連絡が入る。しかしその事情は警察も当然知っているので、こうして呆れられているというわけだ。


これは趣味兼無休バイトという意味合いが強いので進んでやめようとも思わない。




故に結論。ただの不審者。








=====






毎度のお話から解放され警察署から出た丁度そのとき、原稿用紙とインクを携えた堅城さんとばったり出会してしまった。




また一波乱起きそうな予感がする……






=====






Side of 堅城


家に帰って早速原稿の続きを書こうとしたのだが、私としたことが原稿用紙を切らしてしまっていた。


仕方がないので執筆は一旦諦めて、買い出しに行くことにする。




必要なものは400字詰めの原稿用紙、黒インクだけだったのでそこまで時間は掛からなかった。すぐにでも続きを始めたかったので、いつも以上に足早に歩いたが、それが悪かった。丁度警察署の前を通り過ぎようとした時、彼と目が合ってしまったのだ。




最悪だ……


そのまま他人のふりをして通り過ぎようとしたけれど、彼に呼び止められてしまった。






=====






「……」


「……」


空気が重い。


「…堅城さんは小説でも書いているの?」


「……」


えっ?返事なし??


うぉーーーーー‼︎ やりづれぇぇぇっっっ‼︎


「……なんで教えないといけないの?あなたみたいな人に」


ですよね〜〜〜、普通はそうなるよね。今更だけど俺はただの生徒Sだもんね。


まさかこんな形で自分のキャラを否定されるとは思わなかったので、久々にガチ凹み...(泣)




「……あなたはなぜ警察署から出てきたの?」


Oh…、やはり見られてたか。見ていたなら、当然出てくる質問だろう。


「えっ、あ、ああ、あれね。いやぁ〜、いつも通りアニメストアで全力立ち読みしていたら、警察呼ばれちゃって。いいじゃんか、俺が選んだ本は高確率で重版が決まって店に利益が入っているんだから、って言っているのに効果がなかったよぉ」


「……」




えっ…自分から聞いてきて反応なしって、これまたティアリングポイントなんですけど。


さーって、急いで家に帰って枕の準備しないとっ!




だがそうは問屋が卸さない。別れようとしたところ堅城さんに呼び止められた。


「……平生っ」


「ん?どうした?」


「……明日、私の小説読んでくれない?」


「もちろんいいよ。ただ…小説の評価に関しては厳粛で公正公平さを保証しているけど、覚悟はできてる?」


「……そうじゃなきゃ見てもらう意味がない」


……そりゃそうだ。




こうして2人目の2人目のヒロイン候補との交流が始まった−−−

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