第2話 可憐な桜が舞う日

「あなたは一体、何をしに来られたんですの? 用がないなら出てってくださいまし。 」

「そんなさみしいこと言わないでよ。 僕は花恋さんが悲しそうな顔をしてるのを見てしまったからつい来ちゃっただけなんだって! 」

「花恋ではなく綾瀬ですわ! まず私は平静ですし、もしそうであっても関係のないあなたが来ちゃった、はおかしいのではありません? 」


あまりにも神成が飄々としていたので、綾瀬は先程までの悲しさをすっかり忘れて言い返した。そんな綾瀬を見て、神成は安心したようにふわっと笑った。


「やっぱり花恋さんに悲しい顔は似合わないなあ。 花恋さんが元気な姿を見れて良かった。 だから、あまり蒸し返したくは無いんだけど、どうしても花恋さんに聞きたいことがあるんだよねー。」


そう言うと、神成は真剣な表情をした。


「さっき花恋さんが狩野と話していたのって俺の従姉の神愛のことだよね。 実は外にいたらちょっと聞こえちゃって。 狩野が神愛を婚約者にしたい的な話だったと思ってるんだけど……? もし花恋さんが反対なら、俺は協力するよ? 」


神成はそこまで話してから綾瀬にたずねた。


「花恋さんはどうしたい?」

「……私は……狩野様はお考え通りになさっていただきたいですわ。 今まで三人で仲良くさせていただいておりましたし、多分私がお二人と行動を共にしなければ自然とそうなるでしょうから、あなたが何かをなさる必要はまったくありませんよ? 絶対に変なことはなさらないでくださいね? 」


不安に駆られた綾瀬が念を押すと、神成はにっこりと笑みを浮かべて言った。


「やだなあ。花恋さんは俺が変なことするとでも思ってるの? そんなのするわけないじゃん。 ちょっと二人の仲を深めるためのお手伝いをしようってだけ。 だから花恋さんは心配せずのんびりしててくれればいいよ? 」

「それは絶対に変なことでしてよ!? どうしましょう。 やはりこの方が何をなさるのか心配ですし、狩野様方にご迷惑をおかけしないように監視しなくては。 」


それを聞くと何故か嬉しそうに言った。


「ならこれからは俺と一緒に行動してくれるってことだよね!?」

「勘違いなさらないでください! 一緒に行動するのではなく、私があなたを監視するのです。 」

「つまり、一緒に行動してくれるってことだよね? やったあ! じゃあ、明日からよろしくね花恋さん。 ばいばい! 」


神成が楽しそうに去っていった。そんな神成を見て綾瀬はふう、とため息をついた。


「あの方は一体なんなのでしょうか。 まるで嵐のような方でしたわ。でもあの方のお陰で……落ち着いたことも事実ですわね。 そこは感謝しませんと。 」


綾瀬は再びふう、とため息をついてサロンを出たのだった。

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