プリムスの伝承歌-宝石と絆の戦記-短編集
流飴
譚詩曲 欠片の伝承歌
Vincurear vewpoint
いい双子の日
穏やかな午後、今日はクラルスとの手合わせもないのでゆっくり読書をしようと思う。侍女から淹れてもらった優しい香りがする紅茶を窓際にある小さな円卓に置く。姿勢を少し崩して椅子に座り本の一頁目をめくった。
意識が物語へと引き込まれそうになっているところ、騒がしい声と足音が現実へと引き戻した。扉の方に目を向けると少し遅れてセラが勢いよく僕の自室に入ってくる。
「リア! 今日はいい双子の日なの! だから父様と母様のために一緒にお菓子作りましょう!」
セラが何を言っているのかよく分からない。一緒にお菓子を作りたいということは、かろうじで理解できた。
「せ……セラ。お菓子作りって料理長さんに許可取ったの?」
「もちろん! 抜かりないわ!」
調理室を前もって料理長さんに使用許可を取っていたようだ。昼食の時間も過ぎているので、仕込みをする前までなら貸してくれるらしい。早く行こうとセラは僕の袖を引っ張る。突然だったけど、セラが僕を誘ってくれたことが嬉しかったので、そのまま大人しく連れて行かれる。
僕の穏やかな午後はものの数分で終わりを告げた。
調理室へ着くと料理長さんがセラが頼んだであろう調理器具を用意しているところだ。
「料理長さんお邪魔します!」
セラは意気揚々と料理長さんの前まで歩いて行く。
「王女殿下、王子殿下。お待ちしておりました。調理器具と材料のご準備は出来ておりますよ」
「ありがとう! リア早速やるわよ!」
セラは基本である手洗いを一生懸命始めた。僕はその間に料理長さんのそばに行き小声で話す。
「お忙しいのにすみません。セラが無理を言ってしまって」
「いえいえ。王女殿下からこんなお願い滅多にありませんから」
料理長さんは優しく微笑んでくれた。セラは僕を見て早く手を洗うように急かした。袖をまくり冷たい水で手を洗う。
「えっと、まずは小麦粉と砂糖と……」
材料を深さのある容器に次々と入れていくが、分量が明らかにおかしい。後ろで見ている料理長さんがセラが材料を入れる度に困惑している。
「セラ。分量はそれで大丈夫なの?」
「分からないわ! ここは大胆に直感で入れてるの」
分量を直感で入れるだなんてセラらしいけど出来上がったものの事を考えると戦慄が走る。素直に料理長さんに教えを請いて再開する。
焼き菓子の材料に細かく刻んである乾燥した林檎が入れられる。材料に練り込まれると小麦粉の香りと林檎の香りが合わさり優しく甘い香りが広がった。
生地が出来上がったので僕とセラは各々好きな形を作って行く。僕は定番の丸型だけとセラは三角や四角、猫の形など作っており楽しんでいる。
形はお店に売っているものに比べたら歪かもしれないが、僕とセラが父上と母上のために一生懸命作った。銀の板にさまざまな形に姿を変えた生地を綺麗に並べて、炎が待っている釜に入れられる。セラはまだかまだかと釜から少し離れた所で凝視している。僕はその間に使った調理器具を洗う。
料理長さんが時を見計らい素早く銀の板を取り出すと焦げ目もなく綺麗に焼き上がった焼き菓子が出来上がった。林檎の甘い香りで紅茶も美味しく頂けそうだ。
冷めるのを待っている間に料理長さんは少し大きめなお皿を用意して可愛らしい花柄の紙を敷いてくれた。お皿に焼き菓子を移していると端に「おまけです」と料理長さんがクリームを少し乗せてくれた。
「料理長さんありがとう! 早速、父様と母様に持っていくわ!」
「料理長さん。お世話になりました」
僕とセラは同時に会釈をすると「お二人ともやはり双子ですね。息が合っています」と優しく微笑んでくれた。
調理室を後にして書斎の隣にある小部屋へ足を運ぶと父上と母上はちょうど紅茶を淹れてもらっており休憩していた。
「リア、セラ。揃ってどうしました?」
「母様見て! リアと一緒に焼き菓子作ったの! 父様と母様に食べてもらいたくて」
セラの言葉に二人に笑顔の花が咲いた。
「リアも一緒に作ったのか。よくできているじゃないか」
「料理長さんにお手伝いしてもらいました」
父上と母上は味や過程はどうであれ僕たちが作ってくれたことがとても嬉しかったようだ。せっかくなので僕とセラも父上と母上一緒に休憩する。
僕の騒がしく始まった午後は、いつのまにか家族団らんの時間へと変化していた。
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