四周目
第14話 オムライスの日
「関東地方の今日の天気は快晴。風もなく四月上旬並みの暖かさですが、それも日中だけのようです。日が暮れると急激に気温が低くなりますから、お帰りが遅い方は防寒対策を忘れないように。年に一度のバレンタインデー。風邪などひかないようにご注意ください。それでは今日の星占いです……」
いつもの番組を観ながら朝食を摂る。
今日の悠太のラッキーアイテムは『オムライス』だって。
オムライスってアイテムなの?
まぁ、細かいことはどうでもいいけど……。
あの日……僕が
なにを言ってるかわからないだろうが……以下略。
駅で待つ
学校の下駄箱の所で彼はちっちゃ巨乳の
そして、昼休みの学食に向かう途中では美人生徒会長の
ここまでは予定通り。
学食で席を確保して悠太を待ってると、これも予定通り彼の幼なじみの
「えぇと……」
長谷川さんと話をしながら、僕の目は辺りを適当にさまよう。
何回も同じ会話を聞いてるとだんだん慣れてきて、いい加減になってくるんだよね。
【本日のおすすめ】豚カツ定食 690円
学食のメニューが目につく。
豚カツかぁ、食べたいな……って、違ぁうっ!
このあと悠太が戻ってきてから、ツンデレヒロインの
前回はなぜかそのあとから物語がおかしくなっちゃったんだ。
そういうイレギュラーなのは排除しとかないと!
その時、いいアイデアが浮かんだ。
前回は長谷川さんがセリフを間違えたから僕は
つまり、前もって彼女に正しい情報を教えておけばいい。
女性化するのが正しいかって?
もうここまできたら、そんなことはどうでもいいんだよ!
オムライスがアイテムかどうかってことと同じくらいどうでもいい!
だけど、どうすれば?
ふと気がつくと僕のすぐ目の前、学食のテーブルの上に本が置いてあった。
書店のカバーが掛けられてるけど、僕はその本がなにかを知ってる。
慌てて本を手に取ると、表紙をめくった。
扉ページの前に折り返しになってる口絵があって、広げてみると女の子のイラストが描かれていた。
見間違えるハズもない。
それはライトノベル版『ラヴ・パーミッション』第三巻だった。
そうだ!
これを長谷川さんに読ませれば、僕の性同一性障害のことを理解させられる。
「ねぇ、長谷川さん。これ悠太のお勧めの小説なんだけど……すっごく面白いんだよ!」
でも、悠太に告白しようかどうしようか迷ってる彼女は、あまり興味を示さない。
仕方ない。奥の手だ!
僕は本のカバーを外して彼女の目の前に差し出す。
「ほら見て! この子、長谷川 瑛って言うんだよ。他にも僕たちと同じ名前のキャラがいっぱい出てくるんだ」
それを聞いて彼女の瞳が急に大きくなる。
「なにコレ? ちょっと見せて」
長谷川さんは『ラヴ・パーミッション』を受け取るとページをめくって読み始めた。
「なにコレー! 悠太も出てくるんだ。面白そう! コレ借りてもいい?」
長谷川さんの予想を越える食いつきにちょっと驚きながらうなずく。
彼女はにっこり微笑むと、本を持って学食を出て行った。
上手くいった。
アレ、第三巻なんだけど、あの様子ならそんなこと気にしてないよね。
「悪い、真純。待たせたな。ランチの食券買いに行こうぜ」
長谷川さんと入れ違いに悠太が僕の前に立つ。
これで大丈夫。
でも念のため、今日のお昼はオムライスにしておこう。
◇◇◇
「関東地方の今日の天気は曇り。気温は平年並みですが昨日のバレンタインデーに比べると日中は七度も下がる真冬の気候です。コートにマフラー、手袋で防寒対策をしっかりしてくださいね。それでは今日の星占いです……」
階下から、毎朝観ているテレビの音が聞こえてくる。
今日はバレンタインデーの翌日。
幼なじみの長谷川さんが悠太に振られる日だ。
あれから、学食でツンデレの須藤さんに絡まれることもなく、購買でチョココロネを買うこともなく、それを悠太にかじられることもなく……ごくごく平凡な日常だった。
あの日――僕が
今日はこのまま大人しくしていれば大丈夫。
支度を済ませて駅の改札前で、いつも先にきて待ってる悠太と会う。
今日の星占いの結果をかいつまんで話すけれど、彼はそれを適当に聞き流す。
毎回同じことを聞かされてたら、こんな反応になるのは当たり前だよね。
おまけに今日は、『ラヴ・パーミッション』のメインヒロイン……幼なじみの長谷川さんの告白を断らなくちゃならないんだ。
悠太としても気が重いんだと思う。
そして午前中の授業が終わり、僕たちは学食にきた。
急いで昼食を済ませた悠太は、僕を残して長谷川さんのクラスに向かう。
「行ってらっしゃい」
笑顔で彼を送り出す僕。
そして、少し待ってから僕も学食をあとにする。
でも、今回は告白の現場には行かない。
万が一、後輩の
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