第12話 ベーコンレタス
バレンタインデーの翌日。
今日は幼なじみの
考えてみれば僕の幸せは彼女の不幸の上に成り立ってて……そう思うとなんだか凄く複雑な気分。
いつものように駅の改札前で悠太と待ち合わせて電車に乗る。
そしていつものように星占いの結果を彼に伝える。
もう内容は覚えちゃってて、わざわざ観る必要もない。
でも、横を歩く親友に、言うべきことがあったのを思い出した。
「そう言えばさぁ、昨日、学食で悠太を待ってる時に長谷川さんがきたんだ。悠太がチョコレートをもらったかどうか聞かれたんだよ」
「そうか。だから……」
悠太が一瞬言い淀む。
なになに? どうしたの?
「えぇっと、俺は誰からもチョコレートは受け取ってないぞ」
なんだか説明口調だね。
悠太の反応に違和感を覚えて、昨日の学食でのことを思い出す。
あっ、そっか!
昨日は豚カツ定食のことで
悠太は何度もリセットを繰り返してるから、聞いてないことも聞いたつもりになってたのかな?
僕も気をつけないと、あの夜からずっと記憶があるって悠太にバレちゃう。
「そっか」
「まぁ、昼休みにでも
「そうだね」
笑顔で彼に賛同する。
今日の昼休み。長谷川さんが悠太に振られる。
それは僕が
それでも僕は悠太を止めない。
いくら彼女を哀れんでも、もうこれは決定事項なんだ。
たとえ僕がなにか邪魔をしたって、悠太がリセットしてしまえば全部なかったことになってしまうから。
◇◇◇
悶々とした気持ちで午前中の授業をやり過ごし、やっと昼休み。
悠太と二人でいつもの学食でランチを食べて、いつものように彼は長谷川さんのクラスに向かう。
僕もいつものようにそれを笑顔で送り出してから、コッソリとあとをつける。
長谷川さんと二人で階段を降りていく悠太を発見。
さて、僕も……。
「
そのまま二人を追おうとしたところで僕を呼ぶ声に振り返る。
そこには長くてきれいな黒髪の美少女――
ちょっと幼い顔に、個性的な黄色いフレームのメガネを掛けている。
言うまでもないけれど、彼女も『ラヴ・パーミッション』のヒロインの一人だ。
この学校の美人や美少女はほとんどが悠太の攻略対象だからね。
でも、タイミングが悪過ぎる。
早く行かないと……と思ったけど、考えてみればもう長谷川さんの告白を確認する必要もないんだ。
「舞華ちゃん。どうしたの?」
「
僕のもとに駆け寄ってくる舞華ちゃん。
彼女が言う櫻田先輩って悠太のことだ。
「まぁ、そうなんだけど……」
『ラヴ・パーミッション』のヒロインと会話すると、物語になにか変な影響が出ないかって心配になっちゃう。
そう思ってちょっと緊張してたら、彼女は僕の耳元に唇を寄せて囁いた。
「最近。せんぱいたち、すっごく仲良くないですかぁ? 一年生の間でも噂になってますよぉ! 昨日だって、櫻田せんぱいにチョコレートあげてたって……うちのクラスの子が見てました」
驚いて振り向くと、舞華ちゃんの顔は真っ赤に染まって、黄色いフレームの向こうに見える可愛い瞳も真っ赤に充血してる。
「えっと……ああ! それはアレだよアレ! ほら、ランチのお昼が学食で終わっちゃって、コロネで購買欲しくて悠太にあげたら中にバレンタインが入っててっ!」
アレは狙ったワケじゃないんだ!
コロネにまさかバレンタインが……って、バレンタインじゃない! チョコレートだよ!
なに言ってんだよ、僕!
「せんぱい。微妙に意味わかんないですけど……でも大丈夫です! あたし、せんぱいたちの味方ですから! 世間の偏見に負けずに真実の愛を貫いてください!」
舞華ちゃんが僕の耳元で喘ぐように囁く。
僕は思い出してしまった。
『ラヴ・パーミッション』で描かれていた彼女のちょっと変わった趣味のことを……。
「最近は政府の働きかけもあってLGBTに対する理解が広まってきてますけど、一般の人たちのそういう恋愛に対する風当たりってまだまだ強いと思うんです! でもでも、世間の偏見が強ければ強いほど、立ちはだかる障壁が大きければ大きいほど二人の禁断の愛は燃え上がるんです! 諦めちゃダメです。諦めたらそこで恋は終了です。周りの大人がなにを言おうと、家族や親戚が反対しようと、二人の愛は美しくて尊くて永遠で最高でマーベラスなんです! 世界中が二人を責めたとしても、あたしは……あたしだけはせんぱいたちを応援してます! 絶対に添い遂げてください!」
そう言って彼女は僕の両手をがっちりと掴んだ。
えぇと……。
一瞬で頭の中が真っ白になる。
だって、僕たち現実の先輩だよ?
いや、小説やゲームの登場人物でもあるんだけど……。
「さっき幼なじみのあの人に引っ張られて、櫻田せんぱいが校舎から出て行くのを見ました。城崎せんぱい! あたし、なんだか胸騒ぎがするんです。すぐに二人を止めないと、大変なことになりそうです!」
突っ込みどころ満載の彼女になんと言って良いのやら……いや、なにも言わなくていいか。
でも、大変だって言う割に、ずっと喋ってたのは君だよね?
まぁ、いっか。
僕が見張ってなくたって、悠太は長谷川さんの告白を断るんだから。
……って、悠太はちゃんと彼女を振るんだよね?
そして僕が女の子になったら、悠太に『好き』って言うんだよね?
でも、そうじゃなかったら?
昨日は学食に
前回までと違うことが起きてる。
もしかして、悠太が心変わりしたとしたら!
突然不安になった僕は、舞華ちゃんを放ったまま校舎の外に駆け出した。
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