二周目
第8話 チョコレート騒動
前回までのあらすじ
僕――
親友の
悠太は僕を攻略するために何度もリセットを繰り返してたけど、期限までに攻略できず僕たちの未来はリセットされる。
リセットの際、悠太以外の記憶は消えてしまうけど、なぜか僕の記憶は消去されなかった。
予習がしっかりできてるから、今回はきっと大丈夫。
あとは女の子になって悠太に『好き』って伝えるだけだよ。
◇◇◇
今年二度目のバレンタインデーの朝。
前回と同じように朝はちっちゃ巨乳のちろるちゃん、昼には美人生徒会長の
そんなリア充の彼を残して、僕は先に学食に向かう。
可愛いちろるちゃんと、美人の宮澤会長からの愛の込められたチョコレートを断るなんて、考えてみたら凄くもったいないことだよね。
僕ならそんなことゼッタイできないよ。
「ここ、座ってもいい?」
呼びかけられて視線を上げると、目の前に
「うん、いいよ」
僕は彼女に席を勧める。
周りの席は昼食のために集まった生徒たちでいっぱいだったからね。
長谷川さんは礼を言うと、優雅な仕草で席につく。
そして美しい唇を僕に近づけて囁いた。
「悠太、今日誰かにチョコレートもらってた?」
彼女のこのセリフは想定通りだ。
そして、僕は思い出す。
彼女を好きだったってことを……。
「うん、確かに二人に呼び止められてたよ。でも、チョコレートをもらったかどうかわからない……」
僕は前回通りそう答える。
「そう……なんだ」
長谷川さんも同じ返事をすると席を立って食堂から出て行く。
「悪い、真純。待たせたな。ランチの食券買いに行こうぜ」
長谷川さんと入れ違いに悠太が入ってきて、僕の正面の席に座った。
「悠太。室伏さんと生徒会長からチョコレートもらったの?」
「チョコレート? 受け取ってねぇよ」
「そっか。ならいいんだ」
予定通りの悠太の返事に、僕は微笑んで答えた。
午後の授業は、まるで誰かに催眠術でも掛けられてるみたいに集中できない。
先生が黒板に書いていく文字をそのまま書き写しながら、僕はまったく別のことを考えてた。
前回この世界の秘密に気づいたのはこの授業中だった。
チョコレートを断った悠太がホントは誰が好きなのかって考えて、候補の女の子たちがライトノベルのヒロインたちと名前も容姿も――性格まで同じだって気がついたんだ。
そして僕自身も……。
でも、『ラヴ・パーミッション』の中の僕は女の子で、性同一性障害の特例措置として、男子生徒として入学した――っていう設定だった。
◇◇◇
翌朝。いつものように待ち合わせ場所の駅の改札前で、いつものようにテレビの占いの結果を悠太に伝える僕。
今日は悠太の幼なじみの
そして彼女は悠太に振られ、僕の秘密を喋ったために、僕のカラダは女の子に変わる。
そうだ、そのために言わなくちゃならないセリフがあった。
「昨日学食で待ってる時に長谷川さんがきてさぁ……悠太がチョコレートもらったかどうか聞かれたよ」
「そうか。だから俺にチョコレートのこと聞いたのか」
「うん」
「昼休みにでも瑛のクラスに行ってみるか」
「そうだね」
これで大丈夫。
悠太は彼女を振って、僕は女の子になるんだ。
◇◇◇
学食で悠太と二人でお昼ご飯を食べたあと、彼は長谷川さんに会うために出掛けて行った。
前回は心配になって覗きに行ったけど、悠太を見てる限りたぶん大丈夫。
あとは僕のカラダが女の子になるのを待つだけ……。
女の子になると言ったって急激に変化するのは首から下くらいで、もともと女っぽかった顔もショートボブの髪もそのまま変わらない。
ウエストが細くなって、身長が少し縮んで足のサイズも小さくなるけど、制服とか靴なんかは勝手に変化するみたい。
胸を押しつぶすための特殊な下着もいつの間にか着けてるし。
だから、僕は平気な顔をして学食の椅子に座ってた。
ところが、信じられないことが起こった。
「ここ、座ってもいい?」
僕の目の前に長谷川さんが立っていた。
昨日と同じセリフ、昨日と同じ表情で……。
「えっ?」
さっき出て行った悠太は、長谷川さんに会いに行ったっていうのに。
どこかで行き違いになったのかな?
「えっと……長谷川さん、悠太に会わなかった?」
「悠太? 会わなかったけど……」
そう言いながら彼女はすっと視線を伏せた。
でも、今日、長谷川さんが悠太に告白をして振られないと、僕は女の子にならない。
そうなると、悠太と付き合うことが出来なくなる。
「真純くん、聞いてくれる?」
考えごとをしてる僕に彼女はそのまま喋り出す。
「あたし、悠太のことが好きなの」
うんうん。
よくわかってるよ。
「でも悠太があたしのことをどう思ってるかわからなくって……彼が昨日誰からもチョコレートを受け取らなかったら、この想いを伝えるつもりだったの……」
そうだったんだ。
だから、悠太のことを聞いたんだね。
「だけど、悠太……チョコレートもらったみたいなの」
「なんだって!!!!!」
僕は叫びながら椅子を蹴倒して立ち上がってた。
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