ラヴ・パーミッション ~ここがギャルゲーの世界だと気づいたけど親友枠の僕は隠しヒロインだった!~
孤児郎
一周目
第1話 バレンタインデーの嵐
「関東地方の今日の天気は快晴。風もなく四月上旬並みの暖かさですが、それも日中だけのようです。日が暮れると急激に気温が低くなりますから、お帰りが遅い方は防寒対策を忘れないように。年に一度のバレンタインデー。風邪などひかないようにご注意ください。それでは今日の星占いです……」
毎朝、この天気予報と星座占いを観終わると、ちょうど家を出る時間になる。
なんだか変な夢でも見てたのか、まだちょっとだけ眠い。
学校指定の革靴を履き、カバンを持って玄関を出る。そこから歩いて八分。駅の改札付近に突っ立ってスマホをいじってる男子生徒を発見。
良く言えば無造作、悪く言えばボサボサの前髪に隠された顔。やや高めな身長以外コレと言って特徴のない体型だけど、僕には一目でわかる。
親友――『
「おはよう、悠太。今朝も待たせちゃったね」
ヤツはゆっくりと視線を上げて僕を見つけると、不満の言葉を口にする。
「そう思うならもう少し早く家出てこいよ、
そう言いながらも彼の表情は怒っていない。
「仕方ないだろ。毎朝の星占いチェックは僕のライフワークなんだから……。ああ、そうそう。今日の天秤座は運気最高だよ。特に恋愛運が絶好調。新しい恋の予感到来。特に水瓶座と射手座の異性と相性抜群だってさ。良かったね! 悠太」
「テレビの星占いなんか当たるかよ!」
そう言うと、彼はずんずん先に歩いて改札に向かっていく。
星占いに興味がなさそうな態度だけど、どういうワケか毎朝ちゃんと僕の話を聞いてくれるんだ。
「今年ももうバレンタインか……。あ~ぁ。誰か俺にチョコレートくれねぇかなぁ……」
誰にともなくそんなことを独りごちる悠太。
大丈夫さ。今日のお前の恋愛運は絶好調だぜ。ステキな出会いが必ずあるよ。
この占いは外れたことがないんだ。
これから起こるだろうステキなハプニングについ期待してしまう。
高鳴る胸を押さえて、僕も彼を追って急いで改札に向かった。
◇◇◇
「櫻田くん……」
上履きを履き替えたところで悠太が呼び止められる。
振り返ると、そこには可憐な女の子が立っていた。
小柄のなのに胸の自己主張が凄まじい。
クリクリっとした丸くて大きな瞳。真っ黒の髪を腰までの長いポニーテールにした彼女は、隣のクラスの
カバンの他にピンク色の可愛いポーチを持っている。
その中身はきっと彼女の真剣な想いに違いない。
「えぇっと、僕は先に教室に行ってるよ」
気を利かせて彼に手を振る。
ちろるちゃんにはウインク。
学校に着いた早々チョコレートもらえるなんて凄いね……悠太。
◇◇◇
学校のチャイムが午前の授業の終了を知らせる。
僕と悠太は学食派だ。
教科書やノートを片付けて二人で食堂に向かう途中、またしても悠太は呼び止められた。
「櫻田 悠太くん。ちょっといいかしら?」
天然なのに緩めの絶妙なウエーブを描く肩までのミディアムヘア。美しく整った顔に背が高くモデルのようなボディライン。
容姿端麗、成績優秀、品行方正の見本みたいな我が校の生徒会長――上級生の
凛とした表情の彼女は、まるで生徒会業務のちょっとした手伝いでも頼みにきたように見える。
でもそれは彼女の演技。
なぜなら……えぇと、あれ? なんでだろう。
まぁ、なぜか分かっちゃうんだよ。オトコのカンってヤツかな。
そして彼女がスカートの後ろに隠した手には、きっと高級チョコレートの箱があるハズ。
「じゃぁ、僕は先に行って席をとっておくよ」
ここでも僕は気を利かせて、食堂に向けて歩き出す。
まったく、朝にチョコレートもらったのに、またですか?
ホント。あの星占いは恐いくらい良く当たる。
チョコレートを受け取るだけだったら、それほど時間も掛からないハズ。食券は悠太が来てから買うことにしよう。
学食の窓際のテーブルに向かいあった席を二つ確保すると、僕は腰を下ろして文庫本を開く。
『ラヴ・パーミッション』というタイトルのライトノベルだ。
ある日突然、住んでいる世界が自分がプレイしているギャルゲーの中だと気付いてしまう男の子のストーリー。
小説の中に登場する架空のギャルゲー『ラヴ・パーミッション』が舞台だけど、その名前がそのままライトノベルのタイトルにもなってる。
彼は自分の実存に不安を感じながらも、それぞれに過酷な問題を抱えたヒロインたちと対峙し、真摯で熱血溢れる活躍で救っていく。
今読んでるのは全四巻の三巻目。ヒロインの一人、主人公の幼なじみが……おっと、これ以上はネタバレになっちゃう。
「ここ、座ってもいい?」
急に呼びかけられて視線を上げると、目の前に女神が立っていた。
「えぇと……」
いつのまにか周りは、定食のトレイやら持参の弁当やらを広げた生徒で満席になっていた。空いているのは悠太のために確保してあった席だけ。
本来なら断るところなんだけど……。
「うん、いいよ」
僕は逡巡することなくそう言っていた。
だって、目の前の彼女に特別な感情を持ってたから。
なんてったって今日はバレンタインデー!
悠太だけじゃなくて、僕にだって出会いがあってもおかしくないだろ?
「ありがと」
彼女はそう言うと、流れるような華麗な所作で腰掛けた。
平均的な身長にやや痩せ気味な細いウエストとささやかなお胸。ショートに纏められた明るいブラウンの髪と、長い睫毛に縁取られたやや吊り上がった切れ長の目。ちょこんと尖った鼻と小さく結ばれたちょっと薄い唇。
彼女は幼なじみの
そんな彼女が美しい唇を近づけて囁く。
「悠太、今日誰かにチョコレートもらってた?」
「えっ!」
目の前に座った女神の言葉に僕は返事ができない。
でも、わかるだろ? 好きな相手から他の男の動向を聞かれるのがどういう気持ちか。
「ちろるちゃんと宮澤会長からチョコレートを受け取ったかって聞いてるのよ!」
僕が唖然としていると、目の前に座った彼女は声を張り上げた。
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