ゴブリンズ・ゴット・タレント
外町ゆう
第1話 釈放は突然に
「はぁ?今日で出ろって?そんなこと聞いてねーぞ!」
「じゃあ、おめぇは一生牢屋で余生を過ごしたいのかよ?」
俺は何年もほぼ毎日顔を合わせた看守と暗い廊下を歩きながら言い合っている。もちろん牢からは出たい。ずっと出たかった。20年もの間。でも急すぎるのだ。
「おめぇが残りたいって言うなら構わないけどな。政府にすれば囚人なんて安い労働力よ」
無精ひげの汚らしい看守がせせら笑う。憎い。でも、こいつの顔を見拝むのが今日で最後と言われると、淋しいぞ。毎日飯を持ってきてくれたヤツだから。
不覚にも涙が浮かぶ。外の世界で俺、ちゃんとやっていけるのかな。教育もろくに受けていない、手に職もない、前科アリの、ホブゴブリンの、俺が。
「これ、出所祝いな。当面の生活費と、寝袋やなんや。金なくなる前にまともな仕事見つけて、まともな人生を送ってくれ」
汚らしいバッグを手渡された。中をのぞくと、小分けになった乾パンやロープ、たいまつまで入っている。
まともな人生、ねぇ。まだ手遅れでないならば、欲しい。仕事とか、家族とか。
「それと、こいつは気ぃつけて使ってくれよ」
看守が綺麗に反った剣一本と小型の投げ槍四本をくれた。
武器が、生の武器が俺の目の前に。それに俺は今手かせも足かせもしてないぞ?この自由というか、信頼が心に沁みる。
「心配するな。こんなところ、二度と帰って来たくないさ」
武器を身に着けドアの方に一歩踏み出して振り返った。看守はもうついてこない。
「じゃあな」
俺が手を上げるとヤツもうなずく。意外とあっさりとしてるもんだ。
ドアの外に踏み出すと、新緑のにおいが胸に染みた。春。始まり。俺は今日から、新しい人生を始める。
適当な船に乗り、適当な町へ行こう。そこでまともな人生を生きてやる。港に向かう足取りは徐々に速まり、いつのまにか駆け足になっていた。
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