第11話 精神世界『アストラルフォース』
ファイたちはみな、準備を整え、エーコ村に入っていた。
入り口で、ファイが、感心した面持ちをしていった。
「へぇ、ここがエーコ村か」
その言った矢先だった。
「あの、そこにいる騎士様!」
「お、なんだ? 俺に何か用か?」
頭にとんがり帽子をかぶり、魔法のローブのようなマントを見に着けたツインテールで金髪のかわいい女の子がファイに言い寄ってきた。手には何やら瓶をもっている。
「わたし、エリュー・リュカルミスといいます。魔法アイテム屋を営んでいて商品を売っているものです。この傷復瓶(ヒールポーション)なんていかがですか? 傷が治りますよ」
にこやかな笑顔でエリューはいった。
ファイが困った顔で口を開いた。
「ありがとな、でもよぅ、俺たちは、古城ゴルティメートに向かう途中なんだ。先を急いでる」
「古城ゴルティメート?」
エリューは目を見開き、鋭い顔つきをした。ファイがそれに気づいた。
キュラたちもその言葉に視線を向けた。
「お前、場所を知っているのか? 教えてくれないか」
「はぁ、古城ゴルティメートはここから、山に入り途中にある滝の中にあるといわれている洞窟から山頂
の方へいけると言い伝えではきいていますが」
淡々とエリューは言う。ファイたちの顔色が変わった。
「滝の中の洞窟? キュラ様!」
ファイがいうと、隣にいたキュラが重い口を開いた。
「売り子さん、我らはソレイユ王国のイーミ姫様を救出するために、ソレイユからはるばるまいった。一刻の猶予もないのだ、そこまで道案内を頼めないか?」
「はい、それはいいですが、モンスターも夜になると徘徊しますし、家の店にはお爺さんがいて」
「そうか、危険だが、報酬は奪還できれば取らそう。50万ルフではダメか?」
「50万ルフ? そんな大金、いえ、案内するだけですから、お金は入りません。一度、話を通したいの
で、店の中にはいってください」
「店はどこだ?」
キュラはいうと、顔を左右にゆっくり動かして店を探した。
エリューはにこやかに笑い、後ろにある明るい装飾の店を指さした。
そう、そこに、エリューの魔法アイテム屋はあったのだ。
「目の前です」
ファイが胸を撫でおろした。
「なんだ、こんなに近いところだったのか。また村の最果てとか聞くんじゃないかと思ったぜ」
そういうと、みな、エリューの店に入っていった。
店の中に誰かいる。
「おじいさん、お客様です」
「おお、エリュー、なんだか、鎧を着た人たちばかりじゃな、武装もしておる。うちのエリューが何かしたのか?」
おじいさんが、血相を変えていった。たしかに、危なっかしい格好だった。鎧を着て、人を切ることが出来る武器をもっている。一瞬、場合によっては軍のものでなければ、盗賊にもみえる。
キュラが徐に口を開いて第一声をいった。
「私は、ソレイユ王国の大将軍キュラだ。イーミ姫様が古城ゴルティメートに囚われの身なのだ。エリューさんにゴルティメートまで道案内を頼みたいのだが」
そのときだった。
「な、なんだ、手が熱い。紋章が!」
「どうした、ファイ!」
なんと、ファイの左手の紋章が光り、炎のような光が立ち込めていた。
同時に何かが共鳴し光りだした。
「本棚にある魔導書が光っている?」
「まさか?」
「魔導書と共鳴している? 俺に、開けというのか」
そういうと、怪訝な面持ちで本棚にファイは歩みを寄せた。
おじいさんが、唐突に口を開いた。
「その魔導書は代々うちに伝わる、遥か昔に書かれたといわれてる古文書なのです」
おじいさんの言葉をきくと、ファイは本棚から、光っている魔導書を取り出し、机の上においた。
そして、吸い寄せられるように紋章を近づけた。
「ここに手を置けといっているのか?」
すると、古文書の表紙に薄い炎が立ちこみ、表紙が燃えて何やら、複雑な文字が出てきた。
その複雑な文字をみて、一同が面食らい、絶句していた。
テアフレナは開いた口が塞がらなかった。何かを知っていると考えられる。
エリューが切り出した。
「これは古代魔法文字!」
エリューがいうとみな、固唾を呑んだ。そして、またエリューはしゃべりだした。
「もしかして、おじいさん、これって、封印の書じゃぁ?」
「封印の書? 一体どういうことだ?」
キュラの顔色が険しくなった。
おじいさんが考察したようにエリューにいった。
「エリューよ、お前は魔法に詳しいから、その文字が読めるはずじゃ、それに、ソレイユの方だというこ
とは、そこにいるひとは、宮神官のテアフレナ様であろう。あなたもなにかわかっているはずでは?」
「天使アスタルテの書?」
「テアフレナ、合っているのか?」
「ええ、あっているようです。エリューさん、精通しているようですね、アイテム売りをしている割には」
テアフレナはびっくりした顔でいうと、続けてしゃべりだした。
「封印の書というのは、今から何千年、何万年前にいたという、神々や天使などが、後世に記録を残すために自身の命を削って、書に意思を残したといわれているものです。私も見たのは初めてです」
「では、なぜ、ファイの紋章と共鳴して?」
「わかりませんが、何か、天使アスタルテの意思が残っており、魔剣イフリートと引き合わせたのかもしれませんね」
テアフレナがそういったときだった。
VINVIN!
ファイの紋章が唐突に激しく光りだし、同時に封印の書も光りだした。
ファイの様子がおかしい。痛そうな顔つきで頭を両手で抱え込んだ。
「な、なんだ、頭が痛い!」
「ファイ、大丈夫か」
レイティスが慌てて駆け寄って言葉をかけた。
だが、ファイの容体は悪くなる一方だった。顔つきが険しい。
「うわぁああぁ」
「いけない、ファイの意識が消えた」
レイティスが意識が消え倒れてきたファイを手でがっしりと受け止め、その場に寝させた。
キュラが心配そうな面持ちでみやった。
「仕方がない、とりあえず、ファイの意識が回復するまで、キー山脈に登るのは延期しよう」
「ファイ、しっかりして、お願い目を開けて」
ニミュエが心配し、羽根を羽ばたかせて、駆け寄り、涙目で言い寄った。
死んでいる可能性もないことはない。全く息をしていなかったからだ。
所謂、昏睡状態というものだった。
「ニミュエ、恐らく死んではいない。大丈夫だ。天使アスタルテの書がそうさせたのだと思うぞ」
「しばらくすると、回復するのではないかと私も思います」
テアフレナとキュラは、紋章と封印の書の共鳴がそうさせたのだと確信していた。
心配はしていたものの、少しだけ安堵の色を下ろしていた。
「ファイ」
ニミュエは涙目だった。
このまま、昏睡状態だと、仮死人間となる。
魔族ベルフェゴールをもしかすると倒せるかもという一角を一同は失うということだった。キュラは焦らすように指をかんだ。
☆☆
ファイは霧が霧散している大地を歩いていた。ここは現実とは違う雰囲気の全く別の世界ということに
ファイも気づいていた。
「ここはどこだ?」
ファイが言ったときだった。
「ふふ、ためらっているようね。ここは精神世界、アストラルフォースよ」
「アストラルフォース? あなたは?」
なんと、目の前に有翼の麗人が空から舞い降りてきた。
精神世界だと公言した。要するに、死の魔法とかがかかったりすると、人間の精神面から汚染されるという、その精神世界だった。悪魔が好む世界だ。
しかし、この人は悪魔には見えない。見た感じでは全くの天使にみえる。
「わたしは天使アスタルテ、永い眠りから覚め、あなたを未来に導いていくものよ。今は、巨大な力をもった魔王アガスラーマが君臨しています。そのためにわたしは封印の書として後世に意思を何万年もの間、残しておいたのです」
その言葉にフンとファイは鼻をならした。
「魔王殲滅のためにかよ」
「いえ、それだけじゃないわ。あなたも特殊な力を持っているのには気づいているはずよ。これからいうことをよくきいてくださいね」
そういうと、天使アスタルテはワントーンおいた。
「わたしは永い年月の間に、自分の力が落ちてしまい、現世に姿を出すことはできないの。魔王を倒すためには、あなたの力がきっと必要なのです。わたしの代わりに魔王を倒してほしいのです」
「倒すって、そりゃ俺もそうしたいが、まずはイーミ姫様を助けないと」
ファイが困った顔で頭の後ろに両手を抱えるようにした素振りでいった。
天使アスタルテが一瞬目を閉じた。
「イーミ姫は生きています。そう思念を感じ取ることができます」
ファイは驚いて、目を見開いた。しばしの間、絶句していた。
「しかし、うちに封印され、出てくることが困難な状況に陥っているようです」
「魔族ベルフェゴールのうちにかよ?」
ファイが旋毛を曲げながらいった。
天使アスタルテは、首を縦に振った。
「ファイ、魔族ベルフェゴールの他にも強大な魔力を持った悪しきものは存在します。遠く、海底の下、そこに都があります。そこに、悪しき嵐は存在しうるのです」
ファイは躊躇し、手を返すジェスチャーをしながらいった。
「要するに、自分の代わりに、幾星霜たち、力が落ちてるから、俺に退治しろと?」
「わたしは導くもの。アストラルフォースでは存在できますが、現世には出ることは不可能。今は、救出し、ベルフェゴールを倒すのです」
天使アスタルテがそういうと、ファイの意識がアストラルフォースで消え、その場に倒れこんだ。
精神世界。運が悪ければ、永久にその世界を意思が彷徨い帰ってくることはできない。
裏を返せば、死の狭間ともとれる最果てだった。
☆☆
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