第9話  救出作戦



キュラが、書物を持って、オネイロスのところへやってきた。



 どうやら、大事なことが書かれている書物には間違いなかった。



 キュラが真剣な顔だったからだ。遠目でもオネイロスは見て取れた。



「オネイロス、王命が下った」



「王命?」



「イーミ姫様奪還だ」



 そういうと、キュラは書物を目の前で見開いた。



「救出作戦は私を含め、テアフレナ、アザレ、オネイロス、それに、ファイとレイティスを連れていく」



「ファイとレイティスもですか?」



 オネイロスが頓狂な顔つきをした。



「そうだ。それにシルバ王の評価もあり、ファイはソレイユ騎士団突撃長に昇進、レイティスは副長に昇進だ」



「突撃長と、副長にですか? しかし、他の騎士団員の反発もあるやもしれません。彼らは優秀ですが、新米です」



 手の平を返すようにオネイロスはいった。



 しかし、キュラは否定はしなかった。



「シルバ王、直々の推薦だ。文句はないであろう。それに、強い。魔族と戦えるのは、かの英雄カルス様のように魔の力を使えるものでなければ、太刀打ちができないやもしれぬ。レイティスも、頭がよく、剣技は達者だ。副長くらいできるはずだ。ファイとレイティスに伝えておけ」



「は、キュラ様」



 オネイロスはそういうと、足早にファイたちのいる宿舎の方へ向かった。



 部下の出世はオネイロスにとってもうれしいことだったのだ。





☆☆  ☆☆



「え、俺がほんとに突撃長に?」



「僕は副長にですか」



 ファイとレイティスが少しうれしそうな顔をした。



 オネイロスは続けて言葉を紡いだ。



「そうだ。シルバ王、直々のご推薦もあったと聞いた」



「シルバ王、直々? 凄いなファイ」



「どうだろうな、突撃長ということは、俺が真っ先に敵陣に切り込まないといけないというわけだろ。まぁ、いいけどよ、一番に切り込むの好きだしな」



「ハハ、お前らしいな。いい役職じゃないか」



「談義はそれくらいにしておけ。二人とも精魂尽き果てるまで頑張るのだぞ」



「はい、了解しました、団長どの」



 レイティスは敬礼でオネイロスに返した。



 そして、その敬礼をみると、またオネイロスはしゃべりだした。



 真剣な顔つきになった。



「もうひとつ、お前たちに伝えることがある」



「なんでしょうか、団長どの」



「王命がさっき下った。イーミ姫様を魔族ベルフェゴールから奪還する。その作戦のメンバーにファイとレイティスも入っている」



「え、俺たちが?」



 ファイたちにはなぜ? と疑問視がでて、信じられなかったが、王命ということは、絶対条件だった。断ることはできなかった。



 二人とも納得したように頷いた。



「明朝にでる。今日はゆっくり休んで、身支度を整えておけ」



「わかりました」



 レイティスの言葉を聞くと、足早にオネイロスは去っていった。自身も身支度があるのだろう。ファイたちも物資調達に向かった。




☆☆  ☆☆



 翌朝、ファイたちはソレイユ城門前に集まっていた。



 オネイロスがファイたちを注意深く見遣り、言葉を紡いだ。



「ファイ、レイティス、準備はいいか?」



「完了です」



「よし、テアフレナの記憶移動魔法でレイトマス都市に先ずいくぞ」



「キュラ様、そんな野暮なことしなくても、記憶移動魔法なら、そのままゴルティメートに飛んでいけるんじゃ?」



「こら、ファイ、身分を弁えろ」



 レイティスが、慌てて、ファイの頭を手で押し、下げさせた。



 一国の大将軍に物を申すのだ、寛容な心構えの持ち主でなければ、叱咤が飛んでいるところだ。



「ててて、いてーよ、レイティス」



 キュラはニヤリと不敵な笑みをみせた。



「構わん。作戦を遂行する仲間である以上、無礼講でよい。いい指摘だが、記憶移動魔法は、一度、いったことのある場所なら記憶に残っていれば、行くことが出来るのだ。しかし、古城ゴルティメートは誰も行ったことがない」



「そうなのです。申し訳ないのですが、レイトマス都市を経由して歩いてキー山脈を越すしかないのです」



 テアフレナがふぅとため息をついたときだった。



 何やら、空気が動き、ぴゅーと風を切る羽音が聞こえてきた。



 もしや、この虫みたいなのは。



「あー、待ってぇ~、ファイ、あたしもいく~」



「ニミュエ」



 妖精ニミュエだったのだ。ニミュエは嬉しそうな顔でえへへと明るく笑い愛想を飛ばした。ファイは手で顔を押え、困った顔をした。



 そして、ファイの肩にぴたりと止まって、腰かけた。



 キュラが横やりをいれた。



「ほぅ、お主は、フレアチジナ湖にいた?」



「はい、水の妖精のニミュエです」



 ニミュエは笑顔で切り返す。



 そして、一呼吸おいて話し出した。



「連れて行ってくれたら、回復魔法も唱えれますし、きっと役に立ちますよ」



「そうだな、よきに計らおう。同行、かまわないぞ」



「やったー、ありがとう、キュラさん」



 ニミュエは嬉しそうな顔で思いっきりキュラに飛びついて抱きしめた。



 顔のあたりに頬を埋めた。



 キュラは照れていた。周りに明るさと笑顔が戻った。



 こういうムードを作ることができる不思議な妖精だ。



 少し離れたところに光り輝く何かが生まれていた。



 こいつは一体?



 キュラが口を開いた。



「よし、そうと決まれば、いくぞ、レイトマス都市へ。テアフレナ頼む」



「もう、魔法陣はかけていますよ。さぁ、皆様、四次元光の中に入って」



 魔法陣をテアフレナが地面に書いていたのだ。



 テアフレナは、メンバーが全員、魔法陣の中に入ったのを確認すると、杖を手に取り、魔法力を、瞬間的に爆発させた。



「いきますよ、はぁぁぁアッ」



「『記憶移動魔法(メモリーウイング!)』」



SHU!



 四次元光で魔法陣が包まれ凄いスピードでソレイユ王国から飛び立った。


 向かうはレイトマス都市だ。



 レイティスが初めて記憶移動魔法に乗り込んだことでいつも冷静なのに興奮していた。



「へぇ、凄いんだね、この魔法。飛んだの初めてだよ」



「まだまだ、スピード上げれるわよ。レイトマス都市には、二時間くらいかしら」



 テアフレナはどんどん、魔法力を身体から放出させ、スピードをあげていく。



「(記憶移動魔法の、このスピード。この人できる。かなり、魔法に卓越しているわ)」



 ファイの肩にとまり、ニミュエは鋭い観察眼を張り巡らせていた。



 ファイとレイティスは魔法を使えないので、わからないことだったのだが、たしかに、魔法を使えるものなら、テアフレナが今やったことで技量が高いというのは一目瞭然だった。



「流石、ソレイユきっての宮神官だな」



「おほん、アザレ副将軍、褒めても何もでませんよ」



「飛ばしますよ」



どんどん、魔法力が放出され、記憶移動魔法のスピードが上がっていく。



SHU!



「うわわ、揺らさないでくださいよ、テアフレナ様」



「アハハ、ごめんね。スピードあげると、少しは私でも魔法陣がぶれちゃうのよ」



 テアフレナはごめんと、いけないといった面持ちで頭を手で抱えた。



 続けてテアフレナが話し出した。



「でも、大丈夫よ、木や、動物に当たっても、四次元光を打ち破られない限り、この魔法陣の決壊は無理よ」



 そういうと、テアフレナは意識を集中し、記憶移動魔法のスピードをあげた。



 この調子だと、予定より早くつきそうだが。





☆☆  ☆☆




 あれから、しばらくの間、ずっとテアフレナは魔法力を放出し、レイトマス都市に向けて記憶移動魔法で飛んでいた。



 そして、目の前に大きな建物が立ち並ぶ、都市がみえてきた。



 これがレイトマス都市か。



 ファイたちの目が輝いていた。ファイもレイティスもくるのは初めてだったのだ。



「もう、レイトマス都市に着きましたよ。あそこのひと気がない入口に降りますか」



SHUUU!



「魔法陣解除!」



 いうと同時に、記憶移動魔法の四次元光が解かれ、魔法が解除された。



 レイトマス都市の入り口に降り立ったのだ。



 だが、長時間飛んでいたのは間違いないことだった。



 テアフレナには余裕がまだあるように見えるが、キュラは察していた。



「テアフレナ、長い間、魔法力を使いっぱなしで、身体が疲れておろう、少し休め」



「いえ、そんな、構いません」



「わかっておる。無理して、魔法力を極限まで使い切って使うと、魔法熱(マジックヒート)という魔法の病気にかかるのも知っておる。私も魔法は使えるからな、承知だぞ」



「大丈夫です、キュラ様。イーミ姫様のためならこれくらい」



 テアフレナは気遣っていった。皆も移動で魔法力を使わないが、移動しているだけでも、結構、疲れていた。誰の顔にも少しの疲労の色がみえた。ファイは元気そうだが。



 キュラが話を切り出した。



「昔、聞いた話では古城ゴルティメートはキー山脈の奥深くにあるという。もう、正午近い。キー山脈は高く険しい山だ。キー山脈を越さなければ、古城ゴルティメートには辿り付かない。時間的に考えると、あの山を今から越すのは無理だ。夜になるとモンスターが徘徊して危険だ」


 キュラはみなの顔を見渡した。



 続けて、口を開いた。



「登頂は、明日、明朝にいくぞ。今日はレイトマス都市で居座ることにする」



 キュラはそういうと、一呼吸おいて説明しだした。



「物資調達班と宿屋探索班に分かれるとしよう。テアフレナ、レイティス、アザレは宿屋探しに向かってくれ。私とオネイロス、ファイ、ニミュエは物資調達に向かう」



「了解しました、キュラ様」



 アザレが重い口を開いた。テアフレナ、レイティスも頷いた。



 そして、キュラが何かを胸元から取り出した。



「二班、離れていても、居場所は魔力があるものが、このアイテム『魔法羽』を身に着けて念じれば、今いる場所が魔力でわかる。テアフレナ、身に着けておれ」



「わかりました」



 魔法羽の一枚をテアフレナに渡した。

取り出した二枚の魔法羽は、鳩の羽根のような形をしており、鳩の羽根よりもかなり小さかった。



「へぇ、居場所が分かる羽か。便利なアイテムだな」



「因みに、この魔法羽はテレパシーバードっていうおとなしい小さな鳥から取られて魔法をかけられて作られてるみたいだよ」



「レイティス、お前、意外とくわしーじゃねーか」



 ファイが感心したような顔で言った。



「一応ね、アイテム学で勉強したからね。って、お前もその学科、アカデミーにいるとき勉強しただろ!」



「すまねー、モンスター学とか、剣術学ばっかみてて、忘れちまったぜ」



「おまえなぁ」



「はは、余談はそれくらいにしておけ。よし、ファイ、オネイロス向かうぞ」



「はっ、キュラ様」



 オネイロスがそう頷いていうと、二手に分かれて探し出した。



☆☆  ☆☆



 あれから、しばらくの間、レイトマス都市を歩きまわり、アイテム屋や、食糧売り場を見て回り、必需品をキュラたちは買いそろえていた。



「よし、食料、アイテムも揃った。テアフレナと合流しよう」



 キュラがそういうと、隣でニミュエが以外にも買ったアイテムが入ってる箱を何箱も両手を上に伸ばし、頭の上で飛びながら持っていた。



「うーん、おもーい、はい、ファイいくよー、そーれー」



 ニミュエは持っていた箱を全て、順にファイに投げつけた。ファイもたくさん重なるぐらい箱を持っていた。このままでは購入品が地面に落ちると壊れてしまう可能性がある。



「て、ニミュエそんなに沢山、いきなり箱をこっちに抛るなよ。おっとっととと」



 ファイは持ち前の運動神経でニミュエがほってきた箱を上手く、受けて持っていた箱の上に重ねていく。



 全て落とさずに、ファイは箱を重ね上げた。



「ふぅ、どうにか、落とさずに済んだぜ。キュラ様、持ちきれません」



「ほう、受けるのは上手だな。褒めてやるぞ。持ちきれない、確かにそうだな。少し買いすぎたな」



 キュラは、顎に手をやり、少しの間、目を閉じ考えた。



 ファイが重くなってきて、困った顔になってきた。何十箱も持っているのだ。騎士といえど、魔の力を使わない限りは人間である。



 だが、ファイには軽く持つだけの膂力はあった。



 しかし、持つ力より、ぶつかったりして、落とす方が確立が高かったのだ。



「食料、六人分、いや、ニミュエも含めて七人分を十日分くらいですよ」



 ファイが困り果てた顔でいったときだった。



 オネイロスが重い口を開いた。



「キュラ様、あれを使いましょう」



「そうだな。よし、あれを使うか」



「あれって?」



 ファイが首を傾げた。



「四次元アイテム箱だ。中は四次元光で構成されておる。大きなものでもなんでもその中に魔力で縮小されて入るように作られておる。ソレイユ騎士団なら常時、戦いにもっていってるものだ」



「へぇ、そんなのあったんだな。俺、知らなかったぜ」



「それがこれだ」 



 懐から、キュラが小さな箱のようなものを出し、オネイロスに手渡した。



 ニミュエが指を口にくわえて、頓狂な顔していった。



「小さな箱なんだ」



「オネイロス、頼む」



「わかりました。ファイ、こっちに箱を全部、抛れ」



「じゃぁ、いくぜ、団長! そうれ!」



BABABA!




 なんと、ファイがオネイロスのほうに順に箱を抛ったが、その箱が見事に小さな箱に吸い込まれていく。



 これにはファイとニミュエもびっくりした。



 キュラとオネイロスは、日常茶飯事的にこれを使っているのか、同としたことも

なかった。



 ニミュエが驚いて口を開いた。



「全て、箱の中に入っちゃった。すごーい。もたせて、もたせて」



「ファイ、あたしでも持てるよ」



 ニミュエはオネイロスから四次元アイテム箱を取り上げ持ってみた。



 妖精の力でもあれだけの量が入った箱を持てたのだ。



 ファイはその様子を軽く一瞥した。



「便利なもんだ。それに重くないんだな」



「戦いのあるところへ行くときは、常に携帯して持っていく。覚えておけ」



「はい、キュラ様」



 そのときだった。



 キュラが魔法羽に手をやった。



「どれ、念じてみるか」



 そして、羽をさわるとキュラは目を閉じた。



「(魔法羽よ、テアフレナの居場所を教えてくれ)」



「(テアフレナ、聞こえるか、今、魔法羽を通じてそちに念じておる。宿屋は探せたか?)」



 遠くにいたテアフレナが感じ、魔法羽に手をやり、念じた。



「(はい、シャロンという宿屋が空いていたのでここにしました)」



「(よし、こちらも物資調達終了だ。これから合流する)」



 念じ終わると、徐にキュラは目を開けた。



「ファイ、オネイロス、テアフレナの居場所がわかったぞ。ここから北に進み、角を曲がったところにシャロンという宿屋がある。そこに決めているみたいだ」



 キュラの言葉にオネイロスとファイ、ニミュエもびっくりしていた。



 居場所がわかることを不思議がっていたのだ。



「向かうぞ」



 キュラがそういうと、宿屋シャロンに向かって歩き出した。



 ファイたちは、頓狂な顔をして、未だに不思議がっていた。



 一体、どんな構造をした羽なのだろうと脳裏に浮かべていた。




☆☆ ☆☆



 あれから、キュラたちはテアフレナと合流し、宿屋シャロンに泊まりにきていた。



 止まる部屋にみんな入っていた。

 そのとき、宿屋シャロンの向こう側にある建物屋上で獰悪な風貌をした物の怪が

立って対向側にあるキュラのいる部屋の窓をじっと見遣っていた。



 この人物はもしや?



「ぐひひひ、見つけたぞ、あそこにキュラがいるぞ」



 悪魔術師シータラーだった。

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