第9話:ゼーノのぼやき

 よう。ゼーノだ。ゼーノ・フルミネ。

 ムリヤリ連行された修業から命からがら戻ってみてれば幼なじみのリオネッサが魔界へ嫁いでいた。

 しかも相手が魔王とか意味がワカラン。

 親父さん達もシスコンのルドヴィカでさえ心配いらないと笑っていたが、魔界に一回でも行ったことがあればあのお気楽な笑顔も引っ込むだろう。

 魔界では弱肉強食が当たり前で、少しでも気を抜けば死ぬような目に合うところだ。じじい達のせいで何回死にかけたことか。

 ケタ外れに強い魔獣や魔物がそこら中にうじゃうじゃいるのが日常で、食い物はまるで食えたモンじゃねえ。人界語はもちろん通じず、魔界語ですら通じないことがある。方言多すぎんだよ! 種族別に覚えるとかできねえわ!

 そんな魔界を束ねる魔王に嫁ぐなんざ正気を疑うね。

 あのバカはふだん気弱なくせ、どたんばで妙に肝が据わりやがる。今回も弱みかなんか握られたんだろ。でなきゃあんなオソロシーとこ誰が好き好んで行くかよ。

 メンドクセーがアホな幼なじみの尻ぬぐいをしてやるのも兄貴分であるオレの役目だろう。

 そう思って魔王城に乗り込んだワケだ。

 久しぶりの魔界はやっぱり物騒だった。ガキだったころとは違って、さすがに死ぬような目には遭わなかったが、寝ているトコロにちょっかいをかけられるのにはイラついた。

 オレの貴重な睡眠時間をジャマしてくれた礼はもちろん十倍返しにしておいた。

 リオネッサの幼なじみだと名乗るとあっさり城に入れたし、予想外に手厚い持て成しを受けた。

 何かの罠かと疑っているうちに使用人の恰好をしたリオネッサが茶を持ってきた。

 長かった髪は短くなっていて、もともとチビのガリだったのがさらにやせて。

 いったい何があったのか、オレにはみじんもわからなかった。わからなかったが、ヘラヘラと笑って将来の夢はお嫁さんなどと言っていたヤツが魔王にどんな目に遭わされたのか考えたくもねえ。

 このままここに置いておくことなどできないということだけはわかった。

 出されたクッキーで軽く腹ごしらえをする。

 さすがに魔王と戦(や)りあう気はねえ。アレだ。なんとかかんとか逃げるにしかず? だっけか。

 で、逃げたはいいが、リオネッサが魔王がいい人だと言い出した。

 それがどういう意味か理解するまでに時間がかかって、外壁を超えたところでリオネッサが死ぬとか言い出しやがった。チョー焦ったじゃねえか。

 城から離れると死ぬ呪いでもかけられてるかと思いきや、そんなことはなかった。魔物が怖いだけかよ。

 確かにおまえ一人なら死ぬけどよ、オレがいるだろうが。心配させやがって。

 ささっと片付けて本当に魔王がいいヤツなのか確認をとればあっさりとうなずいた。

 はやく言えよ! おかげで氷漬けになるとこだったじゃねえか! おまけに嫌なヤツに目をつけられた! あれから実験とか言いながら攻撃してきやがる。クソじじい共といい勝負のエゲツなさだ。修業に採血は関係ねえだろうが!

 リオネッサのほうは魔王にさらわれたとか洗脳されたとか虐待されているとかではなく、実にくっだらねえ理由でガリガリになってやがったのには笑いすらでなかった。せいぜい食べて豚になれ。

 髪のほうには納得できなかったので魔王のヤツには一撃見舞ってやりてえ。

 ルドヴィカみてえにかわいくないからせめて女の子らしく髪を伸ばすんだと言っていたアイツが笑って魔王を許しても、オレが許せねえ。だからブン殴る。

 …その前にバルタザールっつう頭おかしい学者を倒さなきゃなんないワケだが。

 なんで研究者に接近戦で勝てねえんだよ。

 やっぱ魔界おかしいわ。

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