幻想譚◆闇の狭間に◆

月が雲に隠された夜に。


どこからともなく声がする。

かぼそい女の掠れ声が話しているのが聴こえる。



「ほほほ、可笑しなことをおっしゃる。

わたしが泣いているだなどと。

ああ、これは面でありますよ。

良く出来ておりますものな。

これが泣いているように見えたんじゃろう。

ほら、触ってみなさるがいい。

涙など出ておりますまい。


いや、違う?

面を外せと?

しょうがないお人じゃなぁ。

これ、この通り。


やっぱり泣いているではないか、と?

なにをおっしゃるやら。

わたしは、こうして微笑み続けておりますのに。泣き方を忘れたまま……。

もう、ずっと……ずっと……」


闇夜に白い泣き女の面がコトリと落ちて



三日月のような細い目が

雲から顔を出した月の薄い明かりに

ぼんやり浮かび上がった後で


また雲に隠れた月と一緒に

夜に溶けるように、消えた。




──拍子木の音がひとつ。


後には闇ばかり。

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