無自覚って怖い

伏し目がちに微笑む少女。

長い睫毛が影を作り、小さな唇が弧を描く。隠す様に口元へ添えられた手は細くて小さい、色白の手


彼女の名は花咲 美音。


ふんわりとした雰囲気に教室にいる生徒全員が釘付けとなっていた。勿論例外なんておらず、


「天然怖ぁい、ナノこれからが心配」


花咲 美音がいる教室が見える位置に聳え立つ、桜の木。少し位置は離れているものの、千里眼があるため問題はなく、美音が気付く事もない。


「まさか隠れキャラから攻略してくるなんて予想外。ふふっ、まぁ見ていてナノは飽きないし問題ないけど」


枝の上で寝そべる妖精ナノ

頬は蒸気し、興奮状態をそのままに表している。


「ここはゲームの世界、でもね皆意思が宿ったの」


誰に言うでもなく、ただの独り言。甘く甘く囁く様にして呟く声は、ぽつりぽつりと溢れてゆく


ナノは1つだけ美音に隠し事をした。それはこの世界が、彼女のBLむ世界ではないと言う事


ユズさまが作り出した世界。

あのお方の思いが溢れる私たちの世界、



「貴女がここにきた事で、全てが動き出す。ふふっ」


ゲームのシナリオは彼女美音には敢えて教えなかった。だって必要ないもの。彼女もまたこの世界で生きる住人、


乙女ゲームのヒロインなのだから。



「これからが楽しみね美音相棒


微笑ましげに細められた目は、美音から教師である男へと移り、そして彼等攻略対象者たちへと向けられる。各々、している事は異なり、体育で汗を流すもの、机で爆睡するもの、屋上でゲームするもの、


彼等の時間は既に動き出している


まるで我が子を眺める様な視線を送りながら、無意識に紡がれた言葉は風で消し去られていた。




「––––––皆を救って、美音」




既に物語の幕が開けている事を、まだ美音が知るはずも無く。

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