琥珀の太陽、黒曜の月

結城暁

第1話:序

 水の流れが耳から離れない。ゴウゴウ、ドウドウと、うるさくてかなわない。

 体は熱いのか冷たいのかわからず、指の先をわずかに持ち上げることも、瞼すら上げることができない。ただ暗闇の中にいる感覚。おそらく、血を流しすぎたのだ。

 このまま己は死ぬのだろう、とイスキュロスは静穏に自らの行き先を考える。

 聡明たる父と、卓絶なる兄のいるだろう御空に向かうことはなく。罪人が落とされる地の底へと封じられる。

 ああ、だが。

 最期に見られたのが愛しい琥珀であるのだから、なんの未練もない。今にも泣き出しそうなほど、歪ませてしまったが。

 あの小さな輝きを、己は守れただろうか。

 泣かないでほしい。笑っていてほしい。

 どうか、どうか。

 深い地の底ででも、おまえの幸せを祈っているから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る