第54話

宮殿まで侵入し、ルイへオリヴィアを助けてほしいと頼んだシャルル。


だが、その願いは断られてしまい、おめおめと帰ることになった。


それでも断られただけで済んだのだからいい。


一国の女王の寝室に許可もなく入り込んだのだ。


それだけ処刑されてもしょうがないのだが、ルイはシャルルに何も罰を与えなかった。


しかし、さすがに衛兵たちには話は通してはもらえず、シャルルはロビン·フッドのおかげで命からがら宮殿を脱出する。


そして次の日――。


シャルルは自力でオリヴィアを助けようと、ある作戦を考えた。


朝から市場を回り、荷車と樽に詰まった大量の果物を購入。


そして、いつも監獄に食べものを運んでいる商人へと化けてオリビアのいる牢屋へと向かい、鍵をこじ開けて助ける。


あとはこっそりと見つからないように建物を出て、外に待機させておいたロシナンテに跨って監獄から逃げ出す。


これがシャルルの考えた作戦だった。


「うんうん。われながら完璧な作戦だなぁ。あんがいボクって頭いいかも。ねえロシナンテ、そう思わない?」


自信満々で言うシャルルを見たロシナンテは、不安そうに鳴き返すのであった。


それから早速行動を起こしたシャルルは、前に宮殿でもらった金貨一袋を使って市場を駆け巡り、一通り必要な物をそろえると監獄へと向かった。


近くにロシナンテを待機させ、買ってきた布で顔と剣を隠す。


監獄の門の前には、いつも通り衛兵が立っていた。


シャルルは大量の樽が乗った荷車を引きながら衛兵に挨拶すると、そこを横切る。


衛兵の態度に特に変わったところはない。


シャルルは内心で成功を確信すると――。


「ちょっとまて。今日はいつもの者ではないな。まさかお前……」


違和感があるのも当然だろう。


いつも監獄へ来る商人は大人なのだ。


顔を隠していたって、どう見ても子供のシャルルでは怪しまれてしまうのも仕方のないことだ。


バレたか!? とシャルルは布に包んでいた剣を持った。


「いつも来ている奴の子か? いや~大変だな。親父さんのおつかいも」


「は、はい。今日はちょっとお父さんが腰を痛めてしまって、代わりに僕が来ました」


「まだ小さいのに偉いな。親父さんによろしく言っておいてくれよ」


「はい。じゃあ、ここ以外にも行かなきゃいけないところがあるので、先を急がせてもらいます。失礼します」


「おう。頑張れよ」


衛兵が間の抜けた人間だったおかげで、シャルルは監獄への侵入に成功した。


それから監獄へと入ったシャルル。


先程までいた活気のあった市場の雰囲気とは一転。


建物の中は薄暗くて、陰気な空気が漂う。


石の壁に囲まれた空間を進み、オリビアのいる牢屋を目指す。


「そういえばボク……オリビアのいる牢がわからないや。あぁ! なんでロビン·フッドに聞いておかなかったんだろ! ボクのバカ!」


自分に文句を言いながら闇雲に進むシャルルがしばらく歩いていると、地下への階段が見つかった。


シャルルは、何の考えも無しに階段を降りると、そこには鉄格子が付いた部屋が多く並ぶ空間があった。


ここだと思ったシャルルは、周りを警戒しながら進む。


鉄格子の牢屋には、特に囚人などはいないようだ。


改めてメトロポリティーヌ王国は治安が良いのだと思ったシャルルだったが、それはリシュリューの私兵――近衛騎士団による暴力的な統治によりなされていると思うと、少し複雑に思う。


それから道を突き当たると、目の前に扉が見えた。


飾り気のない強固な扉。


きっと恐ろしい罪を犯した囚人が捕らえられているに違いない。


そう思ったシャルルは、その扉の横に小さな石板が付いていることに気がついた。


そこにはこう書かれていた。


――オリヴィア·アトス。


この者は元は国を守る銃士でありながら、盗賊ロビン·フッドと繋がっていた罪人である。


リシュリュー枢機卿の命があるまで、けしてここから出さぬように。


「ここだ!」


シャルルはつい大きな声を出してしまっていたが、そんなことは気にせずに扉に手をかけた。


だが、当然扉には錠が付けられており、開くはずもない。


そこでシャルルは、布に包んであった剣を取り出し、その錠を破壊した。


そして、扉を開けて中へと入る。


「オリヴィア、ボクだよ! シャルル·ダルタニャンだよ!」

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