第13話

シャルルの叫びを聞いたオリヴィアは頷いた。


心の中でシャルルは、それが何かと期待し、目を輝かせて彼女のほうを見る。


するとオリヴィアは、ごそごそと服のポケットから硬貨を取り出すと空中へと放り投げる。


「ああ、お前の言う通りだ。こいつは信じられる」


そう言って、落ちてきた硬貨を掴み、皮肉っぽい笑みを浮かべた。


「それからこれもだ」


そう言ったイザベラが、テーブルの上にある鶏肉の塊を自分の真上に放り投げ、口を大きく開けて咥えた。


「それと……一晩だけの愛もね」


ルネが二人に続き、艶っぽくそう言った。


それを聞いたシャルルは愕然とした。


亡き父が英雄と言っていた三銃士が、まさか金と食い物と色欲しか信じていないなど、あり得ないと思ったからだ。


俯き、見てわかるように落ち込むシャルル。


そんな彼女を見た三銃士は、何も言わずにただ黙っているだけだった。


「やっぱり銃士隊のみんなが騎士団にいっちゃったからなの? それとも別のなにかがあったの?」


シャルルは今にも泣きそうな顔を上げて、三人へと声をかけた。


それを見ていたロシナンテが、草を食むのを止め、彼女の傍へと寄り添う。


その様子は、娘のことを励まそうとしている父親のように見えた。


「まあ、あったといえばあったよな。ミレディのこととかさ」


「ちょっとイザベラ!?」


イザベラがある人物の名を言うと、ルネが怒鳴り声をあげた。


するとイザベラはきまりの悪い顔をして、恐る恐るオリヴィアの顔を見る。


そのときのオリヴィアは特に怒ってはいないように見えたが、椅子から立ち上がって、その場を去ろうとした。


「ミレディ……彼女は……」


その背中にルネが声をかけた。


それは、気を遣ったようなどこか歯切れの悪いものだった。


そのうえ、最後までハッキリと言葉として出ていなかった。


「……ああ、私が知る限りで最悪の女だ」


そうルネの言葉を勝手に続けたオリヴィア。


それから彼女は、今夜はもう眠る、ベッドに入る前に部屋で風呂に入るから誰も入ってくるなと、自分の部屋へと向かっていった。


オリヴィアがいなくなるとルネは大きくため息をついて、テーブルにあった自分のワイングラスを一気に飲み干した。


「ごめん……」


イザベラがそんなルネに謝ると、彼女は気にしなくていいと返事をした。


シャルルには訳がわからなかった。


彼女に理解できたのは、ミレディという人物が女性で、しかもオリヴィアに何か酷いことをしたということだけだ。


だがしかし、それとこの三銃士の現状と何か関係があるのか?


彼女らは、銃士隊の解散が原因でこんな荒んでしまったのではないのか?


だが、訊ねようにも残ったイザベラとルネの顔は暗く悲しみに満ちていて、とても訊けるような様子ではなかった。


「あぁぁぁ! 食い直しだ食い直し!」


イザベラはそう叫ぶと、再びテーブルにある鶏肉を食べ始めた。


その様子は、最初に食べ始めたときとは違い、どこか自棄やけになっているように見える。


そんなイザベラに続いてか、ルネはワインの瓶を手に取り、グラスに注ぐことなく直接口に流し込んでいた。


まるで浴びるようにワインを飲むルネもイザベラと同様、どこか自棄になっているように見える。


「やけ食いにやけ酒なんて……こんなの三銃士じゃないよ……」


シャルルが二人には聞こえないように、小さく呟いた。


ロシナンテはそんな悲しそうな彼女を慰めようとしたのか、その顔をペロペロと舐めた。


だが、シャルルの顔は晴れない。


暗く沈んだままだった。


「そうだ」


ルネがワインの瓶を片手に、シャルルへと声をかけた。


すでに空になりそうな瓶を見れば、彼女がどれだけのペースで飲んでいるのかがわかる。


「あなたの寝床はすぐそこの部屋を使ってね。あと、ロシナンテだっけ? その子も一緒に部屋に入れていいから」


ルネはそう言うと持っていたワインの瓶を飲み干し、次のやつの栓を開けて再び浴びるように飲み始めた。


シャルルはルネから話を聞くと、ロシナンテに訊ねる。


「もうお腹はいっぱいかい? ロシナンテがいいなら部屋に行こう」


力無く言うシャルルに、ロシナンテは顔を擦り付けた。


シャルルは、そんなロシナンテの手綱を引き、俯いたまま与えられた寝床へと向かって行ったのだった。

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