第14話
次の日の朝――。
外から鶏の鳴き声が響き、荷車か馬車が石畳の道を進んでいる音が聞こえてきた。
「う―ん、朝かぁ……」
ベットから体を起こしたシャルルは、まだ眠っているロシナンテの頭を撫でると、部屋を出た。
そこには、ソファの上で横になっている半裸のイザベラとルネがいた。
だらしなく腹を出し、いびきをかいていて、とてもじゃないが年頃の娘にも元銃士とも思えない姿だ。
二人は、シャルルが部屋に行ってからも食べ飲み続けていたのだろう、せっかくオリヴィアが片付けたというのに、また散らかった部屋へと逆戻りになってしまっている。
テーブルには鶏肉の骨が散乱し、空のワインの瓶がそこら中に転がっている状態だ。
シャルルはそんな寝ている二人の傍を通り抜け、顔を洗う場所を探していると――。
「おい!?」
違う部屋から出てきたオリヴィアが、朝の挨拶も無しに突然怒鳴ってきた。
シャルルは一体彼女が何に怒っているのかわからず、寝惚けまなこ擦っておはようと言った。
「服をちゃんと着ろ!」
どうやらオリヴィアは、裸同然のシャルルの格好に対して注意しているようだった。
シャルルは隣で半裸の人間がいるうえに、女同士なのだから気にすることないと思って、オリヴィアのことを適当にあしらう。
「はいはい、顔を洗ったら着替えるよ」
「今すぐ着替えろ! ここはお前の家じゃないんだぞ!」
「なんだようるさいな。お母さんかよ……」
そうシャルルが呟くと、オリヴィアは烈火の如く怒り近寄って来る。
そして、シャルルの頭に両手の拳を押し付け、グリグリとねじってきた。
「やめてぇぇぇ! 痛い! 痛いってば!」
「だったら今すぐ服を着ろ!」
あまりの痛みにシャルルは、慌ててオリヴィアから離れた。
だが、納得はいかない。
どうして自分だけが注意されるのだ?
イザベラやルネなんてもっとあられもない姿じゃないか。
「その台詞は、ボクよりも二人へ言ったほうがいいんじゃないの!?」
シャルルがそう言い返すと、オリヴィアは冬の寒さよりも冷たい目でソファに寝ている二人を見た。
「あっちは手遅れだ。お前もああなりたいのか?」
それを聞いたシャルルは、急いで部屋に戻ってちゃんと服を着た。
それから目が覚めたロシナンテと共に顔を洗ってテーブルに着くと、すでに朝食が用意されていた。
豆やドングリの入ったライ麦パンと、ネギやカブの入ったポタージュスープだ。
このメトロポリティ―ヌ王国では、農民などが食べる一般的な食事である。
どうやこれらの食べ物は。一昨日の残り物に火を入れ、温め直したものらしい。
「オリヴィア、お願い。ロシナンテの分も」
シャルルがロシナンテの食事もお願いすると、オリヴィアは嫌がることなく水と干し草を用意し、テーブルの側へと置いた。
ロシナンテはそんなオリヴィアに感謝したのか、彼女の肩に自分の顔を擦りつけた。
「こら、やめないか。別にこれくらい当たり前だろう」
少し照れたように言うオリヴィアを見たシャルルは、彼女の不器用な優しさに心が暖まっていくの感じていた。
「おお! 食い物だな!」
その匂いのおかげか、イザベラが目を覚ました。
寝起きだというのに、両目をシャキッと輝かせてライ麦パンとポタージュスープを見つめている。
「もう……朝ですか……」
そして、ルネも気怠そうに目を覚ました。
彼女は半裸かと思ったら、体に毛布を掛けていただけで裸だった。
その状態で体を伸ばし、昨夜の残りのワインの瓶を飲み始める。
「イザベラ! ルネ! お前たち、今日は仕事だろう!? さっさと顔を洗って食事を済ませろ!」
そんな二人を怒鳴りあげたオリヴィア。
怒られた二人は、何も言わずに彼女の言う通りに顔を洗って服を着替え、テーブルに着いた。
「じゃあ、いただきま―す」
「待て。まずはお祈りをしてからだ」
シャルルがライ麦パンにかじりつこうとすると、オリヴィアに止められた。
どうやらこのメトロポリティ―ヌ王国では、食事をする前に神様に祈りを捧げるのが礼儀ののようだ。
「ええー、そんなのボクの村にはなかったよ」
「お前の村ではなかったかもしれないが、ここでは子供も老人もやっている礼儀作法だ」
シャルルは信心深いほうではない。
ましてや、教会すら行ったこともないのだ。
それなのに、いきなり祈りを捧げろと言われても、いまいちやる気にはなれなかった。
だが、そんなシャルルにある魔法の言葉が唱えられる。
「銃士は皆やっているぞ」
オリヴィアのその言葉で、シャルルはすぐに両手を組んで祈りを捧げ始めた。
イザベラとルネがそんな彼女を見て笑っている。
「チョロいな」
「ホントかわいいわね」
昨夜の暗い雰囲気はどこへやら、その朝の食事はとても明るく楽しいものだった。
「ねえ、三人の今の仕事ってなんなの?」
皆で朝食を食べながら、シャルルは言いづらそうに訊ねた。
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