第9話
「待て!」
三銃士とシャルルを囲っている近衛騎士団たちが、その一声で動きを止めた。
そして、シャルルたちの前につばの広い帽子を目深く被った女性――ジュサが現れる。
ジュサは、つばの広い帽子を隣にいた者へ渡すと、短い髪をかき上げた。
彼女も他の騎士団たちと同じ赤い制服を身にまとっていたが、よく見ると胸の辺りには数々の勲章が飾られている。
それはジュサの他人のことを見下したような表情と合わさって、彼女の傲慢さを象徴しているようだった。
ジュサはさらに前に出ると、腰に下げた剣を抜いた。
それから、その他人のことを見下した表情のまま、三銃士とシャルルを眺める。
「私はジュサ。近衛騎士団の副団長を任されている者だ。騎士団を代表して一騎打ちを申し出る。誰でもいい、前へ出ろ」
その高圧的な物言いに、三銃士はもちろんのこと、シャルルも苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
副団長を任されるくらいだ。
それなりに腕は立つのだろう。
だが、いくら腕が立とうと偉そうにしていいわけではないと、シャルルはジュサの態度を見てそう思っていた。
「誰だお前? 副団長のジュサ? 聞いたことないなぁ」
そして、イザベラが彼女をからかうようにおどけ始めた。
それに合わせるかのように、オリヴィアとルネも続く。
「おいイザベラ。あれだ、あれ。ブリティッシュから来た……何と言ったか……ほら緑の服を着た義賊の……」
「ロビン·フッドですよ、オリヴィア」
「あぁ、そうだったなルネ。それで、そのロビンフッドの矢でズボンのお尻の部分に穴を開けられたケツ丸出し副団長様だよ、そいつは」
オリヴィアがそう言うと、シャルルが大笑いし、ルネもクスクスと笑う。
それを聞いたイザベラはポンっと手を打ち鳴らし、「あぁ、あのケツ丸出し副団長ね」と白々しく言った。
オリヴィアの言葉――ケツ丸出し団長に反応して、近衛騎士団の中からも笑いを堪える声が聞こえ始めている。
これにはジュサも耐えられず、顔を真っ赤にして騎士団員たちを怒鳴りつけた。
ジュサの怒号に一斉に背筋を伸ばす近衛騎士団。
その様子を見ていたロシナンテが、まるで笑うように鳴いている。
それ見たジュサは口元を歪めると、持っていたピストルでロシナンテを撃った。
「あぁ!? ロシナンテ!?」
ドサッと倒れた愛馬を見てシャルルが駆け寄る。
少しは気が晴れたのか、表情を元に戻したジュサは、早く決闘する相手を決めろと叫んだ。
「よかったロシナンテ。傷は浅いみたいだね」
シャルルは、ロシナンテがまだ息があることを確認すると立ち上がった。
「オリヴィア、イザベラ、ルネ……こいつはボクがやる」
そう言ったときのシャルルの顔は怒りに満ちていた。
大事な愛馬――いや、彼女にとっては家族を撃たれたのだ。
そのときにはもうシャルルの頭には、ロシュフォールのことさえ消えていた。
レイピアを構え、前へと出てくるシャルルを見たジュサは、大袈裟にため息をついた。
「なんだ? 相手は三銃士ではないのか? 今からでも遅くないぞ。後ろの三人の誰かに変わってもらえ田舎者」
「いいから構えろケツ丸出し副団長! ロシナンテが受けた痛みをお前にも味わせてやる!」
「小娘が……殺してやる!」
ジュサはそう呟くと、もう一本の剣を抜いて両手に構えた。
彼女が使用している剣は片刃のサーベルで、同じサーベルでもイザベラが使うような斬馬刀ではなく、スタンダードなものだ。
だがそれでも二刀流の使い手は、この広いメトロポリティ―ヌ王国でもジュサただ一人だけある。
そして、互いに剣を構え合ってシャルルは理解する。
この髪の短い女はケツ丸出し副団長とからかわれているが、その実力はたしかなものだろう。
その凄まじいまでの威圧感は、彼女のこれまでの剣士としての生き様を表しているとシャルルは感じていた。
「どうした田舎者? 来ないのならこちらから行くぞ」
ジュサの言葉が始まりの合図となり、広場に金属音が響き渡った。
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