La少女 スウィート・ハート!
八乃前 陣
第〇話 戦え スウィート・ハート!
ベッドタウンの朝の駅前は、通勤客で賑わっている。
駅前が通学路でもある少女「桃星ナナ(ももほし なな)」は、ポニーテールも愛らしく大きな瞳をキラキラさせて、セーラー服で朝から元気だ。
平均的な身長に恵まれたスタイルで男子に人気のナナは、道端に転がる空き缶に気づいて拾う。
「あらあら。ちゃんと回収されて、また会いましょうね♡」
誰かが捨てた空き缶に優しく告げると、回収ボックスへと丁寧にIN。
そんな模範的な少女に話しかける、クラスメイトの少女がいた。
「お、空き缶回収、ご苦労様だねぇ」
「あ、マリカちゃんマリカちゃん。おはようございます~♡」
ナナの友達「水清マリカ(みなせ まりか)」は、切れ長の眼差しにサラサラロングな黒髪も美しい、クールなセーラー少女。
平均よりも恵まれた身長とプロポーションも手伝って、女子の人気が高い。
「クラスメイトなのに、敬語とかやめろって」
「えへへ、すみませ~ん。どうしても治らなくって~」
ナナの柔らかい笑顔を見せられると、マリカも強くは言えなくなってしまう。
十代前半の中間くらいな年齢の、そして真逆な性格の二人が親友になったのは、ここ数ヶ月の出来事だ。
それには、人に言えない理由があった。
「まー。とっとと学校 行こうぜ」
「はいは~い♡」
一緒に学校へと向かう駅前で、事件が起こった。
混雑するロータリーの十メートル程の上空に、身長二メートルの、トレンチコート姿の人影が浮いている。
「クックック…この人間どもの塊を、総統様の奴隷として献上してやるだワン!」
よく見ると、顔は犬のそれだった。
犬人間は、魔界の組織「ダーク・スマイル」の幹部「ホットイヌー」だ。
ホットイヌーは懐から黒い笑いのワッペンを取り出すと、電信柱に投着。
「出でよだワン! ダーク・ビースト!」
幹部の魔力が発動されると、電信柱が黒い雷光に包まれて、身長十メートルの電柱怪物「ダーク・ビースト デンチュウ」と化す。
デンチュウは、朝の駅前で黒い笑いを高らかに轟かすと、周囲構わず電撃をばらまき始めた。
–バリバリバリ、ビシャーーーーーン!
突然の襲撃に、朝の駅前はサラリーマンやOLでパニック状態。
「わああっ、電柱の怪物だあっ!」
「凄い雷よおぉっ!」
逃げ惑う人々の姿に、ホットイヌーは高笑いだ。
「ワンッハハハハハ! 人間どもよ、無様に逃げ惑うがいいワン!」
そんな駅前に、ナナとマリカが駆けつける。
「マリカさんマリカさん、大変です!」
「出やがったな、ダーク・スマイル!」
人目に付かないビルの屋上に駆け上がると、電柱怪物を見据え、二人は頷く。
細い首に、ナナはクリアピンク色の、マリカは透明な水色の宝石が付けられた、黒革の首輪を装着。
二人はハモって、変身コードを唱えた。
「「スウィート・デコレーション!」」
エコーが響くその瞬間、二人の少女は虹色の光に包まれて、セーラー服もカバンも、光の粒子に分解される。
全裸の肢体に光の粒が纏われて、両足はブーツ、両腕は手袋、頭には小さな黄金のティアラが乗せられた。
最期に、裸の肢体が華やかなミニスカドレスを纏うと、クラウンや手袋やブーツの要所に、それぞれの首輪と同じ色のパワージュエルが装着されて、変身が完了。
ティアラの下で揺れるスウィート・ジュエルのおかげで、二人の正体は誰にも分らない。
屋上の光で、正義の少女たちが必ず現れると分かっていたホットイヌーは、眩い輝きに焦燥していた。
「ま、また来やがったワン!」
虹色の光が消滅すると、そこには二人の輝く少女が立ち並んでいた。
ピンク色の少女が、名乗りを上げる。
「ピンクのドキドキ スウィート・プティン!」
スカイブルーの少女も続く。
「碧いトキメキ スウィート・シフォン!」
ピシっと綺麗なポーズを決めた、正義の少女たち。
「「La少女 スウィート・ハート!」」
希望の光が降臨すると、絶望に沈んでいたサラリーマンやOLたちの心に、光が灯った。
「スウィート・ハートだ!」
「これでもう安心よっ!」
人々の歓声が、悪の幹部の癇に障る。
「ケッ、今日こそお前らの最後だワン!」
言いながら、両腕を前に突き出して、黒い光を集める幹部。
「喰らえだワンっ! ガードブレイク光線んんっ!」
黒いイナズマが、正義の少女たちへと襲い掛かる。
「「きゃあああっ!」」
ガードブレイク光線を浴びてしまったスウィート・ハートは、ティアラとグローブとブーツだけを残し、防御の要であるボディ部分のドレスだけを、完全に破壊されてしまった。
「ああっ!」
「ドレスがドレスが!」
プティンのふくらみバストやウエスト、丸いヒップが剥き出しにされ、シフォンの巨乳やくびれ、大きなお尻が完全露出。
「見ろっ! スウィート・ハートの服が破壊されて、裸だぞっ!」
「スウィート・ハートの服が破壊されて裸にされて、防御力が無くなったぞ!」
「スウィート・ハートの服が破壊されて裸にされて防御力が無くなって、ピンチよおっ!」
正義の危機に、サラリーマンやOLが、絶叫をする。
少女たちが思わず両腕で身体を護ると、ホットイヌーは勝利で笑った。
「ワンッハハハハ! 防御力が無くなったお前らなど、ただの人間とあんまり変わらないワン! デンチュウよっ、やれだワンっ!」
「デンチューーーー!」
幹部の命令を受けた怪物が、裸の二人に襲い掛かる。
「くっ、攻撃を受けたらまずいぞ!」
「その前に、叩いて叩いて倒しちゃいましょう!」
「よし、いくぞっ!」
デンチュウの電撃チョップをかわしてジャンプをすると、裸の二人は十メートルの怪物に向かって、パンチとキックの激しい格闘。
「えいえいえいっ!」
プティンの双乳がタプタプと揺れて、電柱怪物の顔面を叩く。
「ィヤアアアっ!」
シフォンの裸尻がプルプルと揺れて、電柱怪物のボディにダメージ。
「強いぞ! 裸のスウィート・ハート!」
「頑張って! 裸のスウィート・ハート!」
サラリーマンやOLの声援で、駅前が活気づいてゆく。
ダーク・ビースト・デンチュウが吹っ飛ばされて倒れると、裸の少女たちが駅前ロータリーにスタっと着地。
「おのれ! デンチュウっ、電撃だワンっ!」
「デンチューーーー!」
苦虫顔な幹部の命令を受けた怪物は、立ち上がると、二人に向かって電撃を放出。
–バリバリバリーーーーンっ!
「「あああああっ!」」
防御力がきわめて弱い裸の肢体に強い電撃を浴びた二人は、一瞬だけ全身が硬直をして、裸身も輝く。
防御力を奪われているとはいえ身体能力が人間以上な二人は、感電死とかする事などなく、一瞬の硬直の後にアスファルトへとヒザをついて、裸の四つん這い姿勢になった。
「うう…」
「し、痺れました痺れましたあ」
強い痺れで力が入らずヒジも曲がり、裸のお尻が掲げられる。
「クックック。もはや立ち上がる力もあるまいだワン!」
「く、くそぅ…!」
ヒジとヒザをついた二人の裸少女に、サラリーマンやOLたちが、更に焦る。
「ああっ、裸のスウィート・ハートが電撃で四つん這いだあ!」
「裸のスウィート・ハートが電撃で四つん這いでピンチよお!」
「電撃で四つん這いな裸のスウィート・ハートを、応援してるぞお!」
駅前の人々が、正義の少女たちに声援を送る。
「頑張れぇっ、裸で四つん這いのスウィート・ハートぉっ!」
「負けないでっ、裸で四つん這いのスウィート・ハートっ!」
「俺たちが見守っているぞっ! 裸で四つん這いのスウィート・ハートおおっ!」
人々の声援が光の粒となって、二人のスウィート・ジュエルに集まってゆく。
「力が…湧き上がってくる…!」
「み、みなさん…みなさん!」
勇気と力が湧き上がると、裸の二人は、再びスックと立ち上がる。
「プティン!」
「はいっ!」
デンチュウに向かって、プティンが右に、シフォンが左に立って、背中合わせ。
プティンの右手とシフォンの左手を繋ぐと、それぞれのもう一方の掌を広げて、怪物へと向けた。
「ドキドキっ!」
「トキメキっ!」
二人の気持ちが一緒に高まると、開いた手の平に、桃色とスカイブルーの光が輝く。
「「必殺っ、スウィート・ハリケーーーーーンっ!」」
綺麗にハモる少女たちのコードと共に、二色の光がドバっと発射。
すさまじい光の奔流で、剥き出しのバストが、ぷるたぷっと揺れた。
竜巻となった聖なる光が電柱の怪物を飲み込んで、キラキラの光で爆発、消滅。
無力化されたダークスマイル・ワッペンが千切れて散って、デンチュウが普通の電柱に戻った。
「やった! 裸のスウィート・ハートが勝ったぞぉ!」
人々の歓声が上がる中、幹部のホットイヌーは、激しい焦燥に駆られる。
「こ、このままオメオメと帰ったら…俺様は…!」
上空で悔し気に震える幹部が、二人の前に降り立つ。
「お前らに十二回も負けて、俺様はもうっ、後が無いんだワンっ! 俺様のっ、最期の勝負だワンっ!」
犬耳の付け根な頭の天辺に、左右で二枚のダークスマイル・ワッペンを張り付ける、ホットイヌー。
「ホットイヌー…っ!」
「何を、何をする気ですかっ!?」
電柱怪物に勝利した裸の二人が警戒する目の前で、黒い雷に包まれたホットイヌーの体が、闇の魔力で巨大化してゆく。
「グググググ…グワオオオオオオオオっ!」
黒い稲光が収まると、悪の幹部は身長五メートルの、人型マッスルドッグとなっていた。
その恐ろしい姿に、二人も裸のまま、息を呑む。
「グッフフフだワァン! お前らを倒してぇ、総統様の信頼をぉ、取り戻すんだワァンっ!」
響くボイスは地底を思わせるように低く、釣り上がった両目は火のように赤い。
「「ハァアっ!」」
巨大化した敵に向かって、裸の二人がジャンプキックを放つものの、予想以上の素早い動きで、避けられてしまう。
「あれあれっ?」
着地した二人の背後で、ビッグ・ホットイヌーが拳を振り上げる。
「これでお終いだワァン!」
「「あっ!」」
–っドオオオオンンっ!
強烈な地響きで、大きな拳が降り降ろされた。
「きゃああ! 裸のスウィート・ハートがぁっ!」
絶叫する人々と、勝ち誇る敵幹部。
しかし–。
「クックック…な、なにぃ!?」
「「ぐぐぐ…これ、しきぃ…っ!」」
正義の少女たちは、巨大な拳をそれぞれ全身で受け止めて、耐えていた。
「そ、そんなバカなぁっ、だワァンンっ!」
「見て! 裸のスウィート・ハートが!」
裸のまま両腕を上げて頭上で拳を受け止め、両足を肩幅まで広げた×字の姿勢で、全身を伸ばし、巨敵を背後へと押し返す。
「「ぇえ~いっ!」」
「なにっ–うわああっ、だワァンっ!」
拳を押し戻されながら、ビッグ・ホットイヌーが、尻もちをつく。
「シフォンシフォン、頭に貼った二つのワッペンが弱点です!」
「ようし、行くよ!」
二人で高くジャンプをすると、太陽の光に裸身をキラキラさせながら、揃って空中で高速の前転。
ヨロヨロと立ち上がるビッグ・ホットイヌーの脳天目掛けて、必殺の攻撃が炸裂をする。
「「必殺っ、スウィート・踵落とし!」」
二人の裸が回転しながら目の前に迫り、縦に大きく開脚した裸腰が、敵幹部の目の前へと接近。
巨大幹部の頭上、左右のワッペンへと、二人の光り輝く踵落としが決められた。
–っっどおんっ!
「ッグワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ、だワアアアアンンっ!」
断末魔の絶叫を轟かせながら、巨大な幹部が虹色の光に包まれ、黒い塵となって爆散。
着地した聖なる裸少女たちの足元では、子犬が一頭、嬉しそうに尻尾を振っていた。
「あらあら♡ 見て、シフォン!」
「ホットイヌーは、普通の子犬だったんだな。よしよし」
勝利した裸の聖少女たちが子犬を抱き上げると、サラリーマンやOLたちから、歓声が上がる。
「やったあ! 裸のスウィート・ハート!」
「私たちの平和を守ってくれてありがとう! 裸のスウィート・ハート!」
人々の感謝を受けながら、二人は笑顔で手を振り、遠くのビルへとジャンプして、駅前ロータリーから去っていった。
こうして、スウィート・ハートは今日も、戦いに勝利したのだった。
そんな二人の活躍を、偶然見ていた少女が一人。
「初めて見たけど…あの二人が、正義のヒロイン スウィート・ハート…!」
中等学園(なかひとし がくえん)の新聞部に在籍するスレンダーなメガネ少女、公正聖(きみただ ひじり)は、二人の正体がクラスメートである事を知らなかった。
~つづく~
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