第六話 『不帰の砂漠イルカルラ』 その143


 ズグシャアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!


 蠢く牛頭の肉と骨を穿ち、深々と『オー・グーマー』の肉体の奥深くに刃を差し込む。骨と肉―――そして、異質な何かを感じる。硬質な何か……大きくはないようだが、結晶……だろうか。


『ひぎいいいいいいいッッッ!!?りゅ、竜騎士ぃいいいいいいいいッッッ!!?』


 アルノアの声が響いた。この『結晶』に攻撃が届いたから、意識が呼び覚まされたのか?……賢さを頼るとしよう!!


「ククル!!こいつの体の奥に、『何か』があるッ!!硬い結晶だッ!!ぶっ壊してやってもいいか!?」


「……っ!!はい!!ぶっ壊しちゃってください!!それは、たぶん、『賢者の石』ですからッ!!こいつは、人体錬金術も使って呪術を強化していますッ!!」


「なるほどなッ!!」


 肉体そのものを変異させる。呪術以外にも、確かに存在していたな。『賢者の石』。錬金術の集約した『何か』。概念のようなものだというハナシだったが、『ベルカ』は『コルン』を使って異常なまでの呪術を作り、魔物の肉体的な質まで変えちまっていた。


 ……ククルならではの直感っ!!さすがは、オレの妹分だぜ!!


「アーレスッ!!」


 竜太刀の鋼がアーレスの色に染まる。深い漆黒に染まり……気高き竜が放つ荒ぶる煉獄の熱を刃に宿す。熱量は、どんどん高めていく―――。


『ぐううううッ!?何をする、竜騎士ぃいいッ!?わ、私を、焼くのかあああッッッ!!?』


「そうだぜ。外からじゃなく、内部から焼き尽くしてやるぜ!!『侵略神/ゼルアガ』をも焼き払ったことがある奥義を、オレは友より授かっているッ!!」


 フレイヤ・マルデル。『アリューバ海賊騎士団』の団長から与えられた、黒き焔。覚えているよな、アーレス!!お前は、気高き姫騎士を敬愛してやまない古き竜だ!!それに、悪神をも焼き尽くした力は、戦士の心と魂に刻まれるものさ!!


『……ふ、ふざけるなあああッ!!』


 牛の頭どもが叫び、牛の頭を伸ばして噛みつきに来やがる。くくく!!いいぜ、その必死さ!!この攻撃が、有効なんじゃないかっていう自信を持たせてくれる!!


『ヴモオオオオオオオオオオオオオオオ――――』


 ―――それに。


 いいね。


 以心伝心!!


 キュレネイ・ザトーが『戦鎌』で突撃して来てくれた。オレの赤毛の生えた頭に噛みつこうと伸びて来やがっていた牛の頭……そいつの首に『戦鎌』の刃はかけられる。


「団長には、触れさせないであります」


『ぎゅうううい!?』


 首根っこにかけられた刃が、牛の頭に深いダメージを与えつつオレから遠ざけられる。さすがだ、キュレネイ。猟兵らしいぜ。この速さ、この力、この正確さ!!……それに、お前も十分に早い対応だったぞ、ククル!!


「シュートぉおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


 戦いの歌を放ちながら、我が妹分は刃の『風』の魔力を込めながら振り抜いた。『魔剣』の一種だな。大地へと叩き込まれた剣の先から、翡翠の輝きを帯びた力の奔流が走り抜けて、オレのすぐ右隣りから地上に向けて噴き上がった!!


 ザシュウウウウウウウウウウウウウウウウンンンッッッ!!!


 翡翠の『風』の斬撃が、魔力の一撃になっていたよ。オレへと迫っていたもう一つの牛頭を切り裂いてくれた。兄貴分を守る、可愛いらしい一撃だった。


 その緻密に編まれた『魔剣』の『風』は美しく、乙女らしいと感じたな。あとは気高さも感じる。傲慢なまでの自信を持っていた。戦場では迷いなど持たずに、ときには傲慢に攻め込めばいい。そうだ、そいつこそ天才が持つべき気概というのものだ。


 ……乙女たちの活躍を見て、竜太刀に宿るアーレスは喜ぶ。『マルデルの黒い焔/ブラック・バーン』を昂らせる。竜の劫火と、ヒトの業火を織り交ぜて……悪神を焼き払った奥義を再現するのさ。


「アーレスッ!!焼き払ええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!」


 ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンッッッ!!!


『がふうううううううううううッッッ!!?』


 黒い焔の暴力が、『オー・グーマー』の奥深くから爆破しながら焼き払うッ!!延焼しながら爆裂する灼熱は、無限に再生しようとする牛の頭を焼き尽くしながら、深い場所に坐する『賢者の石』へと到達する。


「アーレス!!噛み砕けえええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!」


 『黒き焔』の牙が、『賢者の石』に絡みつき―――竜の噛み砕きの力へと変異する!!


 バギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインンンンンッッッ!!!


 砕いた。


 その感触があるぜ、アルノアよ。『オー・グーマー』よ!!




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