第六話 『不帰の砂漠イルカルラ』 その133
レイチェルとギュスターブがオレたちに先行する!……二人が『囮』となると言ってくれたのだから、オレたちは二人が走った右方向とは逆に向かって走るべきだな!!
「……オレにつづけ!!」
「イエス。つづくであります」
「は、はい!がんばります!!」
三人とも魔力を消しながら、『風隠れ/インビジブル』を使用するのさ。無音をまとったオレたちは、左手に向かって走りながら『悪意の枝』が暴れ狂っている救護所に接近していく。
……お互いのチームの距離が300メートルは離れるころ、レイチェルは十分な距離を作ったと確認したようだ。レイチェルは疾風よりも速く走ると、その魅力的でありながらも強靭なその体を躍らせて、『諸刃の戦輪』をぶん投げる!!
ギュルルルルウウウウウウウウッッッ!!!
『二匹』の戦輪たちは空を裂くような音を立てながら、矢のような速さで『悪意の枝』の二つに命中する。
ザギュシュウウウウウウウウウウウウッッッ!!!
「あぐうううううううううううううッッッ!!?」
アルノアの悲鳴が聞こえたよ。不憫なヤツだ、ずいぶんと巨大で死ににくい体にしてもらえたようだが―――その全身で痛みを感じてしまうとはな。それはそれで、地獄のような気もするぜ、アルノアよ……。
今だけでも、リエルの矢と魔術にゼファーの火球、それにレイチェルの戦輪に体を痛めつけられている。並みの戦士では、それぞれの痛みだけでも、十分なほど死に導かれているはずなのだがな。
……死なない。いや、死ねない苦しみを味わいつづけるか。狂気に染まった男であったとしても、あまりにも不健全で過酷な圧力だ。貴様の心はどこまで壊れて、狂うことになるんだろうか?
「おのれええッッッ!!?……き、貴様は、お、踊り子っ!?」
「ええ。先ほど、お目にかかりましたわね!私、ヒトに覚えられることは得意なのですが。お忘れではありませんよね、アルノア伯爵?」
『悪意の枝』は美しい『人魚』に怒りと報復の心を強めた。枝が地を這うヘビのように走り、砂地から持ち上がるようにしながら攻撃してくるが―――鋼の嵐がそれも斬り捨てる!!
ザシュウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!
裂かれた肉から血がほとばしる。魔力を消費しているな、この戦略は有効だ。それに、あのコンビも悪くない。遠距離で攻撃できるレイチェル・ミルラに、近距離で護衛するように動くギュスターブ・リコッドか。
レイチェルはギュスターブの背後で踊るようにして、戻って来た『諸刃の戦輪』をその手に受け止めながら、後方宙返りさ。魅せている?……そうさ。『あえて目立つ』。美貌のサーカス・アーティストの得意な分野だな。
切断されて大地に転がる『悪意の枝』の先端を踏みつぶしながら、ギュスターブは褒める。
「強いだけじゃなくて同時にキレイだなんてな!スゲーぜ、さすがは『パンジャール猟兵団』の猟兵だな!!」
「うふふ。お褒めにあずかり光栄ですわ」
「でも、オレも負けない!!オレは、『グラーセス王国』最強の剣士だ!!」
二刀の剛剣を振り回しながら、レイチェルの美しい技巧に対抗しようとしている?……負けず嫌いは素晴らしいことではあるが、その行いはあまりにも身の程知らずだな。美しい月と太った猿ぐらいの差はあったよ。
「ぬぐうううッッッ!!?ま、まだ、いるのか、こざかしい、亜人種がああああッッッ!!?」
「ヘヘヘ!!来いよ!!」
「いいえ?来なくてもよろしいですわよ?こちらから、攻め入らせてもらいますから!!」
……『囮』?いいや、それだけでは済ませるつもりはないようだ。レイチェルは怯む『悪意の枝』の群れに向けて加速する。ギュスターブも、その姿を慌てて追いかけた。
「強気な姉さんだ!!」
「攻め時ですわ。この男は、怯んでいますから!」
レイチェルは砂地を斬る?……いいや、影のように平たく大地に広がっている『悪意の枝』を攻撃しているようだ。
影に見えるが、影ではない。魔眼では砂の下に大樹の根のようにはびこるその枝の丸みが分かるし、魔力でもそこに影と判断するには過剰な『量』があることにも気づけるだろうが、レイチェルは『音』でも気づいたのかもしれない。
しゅばあああああッッッ!!!
血が地面から吹きあがる!!十分なダメージになっているようだぜ。アルノアがまた叫んだからだし、微量ではあるが、魔力の減衰を確かに感じるからな……。
コツコツとではあるが、ダメージを与えてもいる。アルノアの生命力の総量は想像がつかないが、有効打を重ねていくことは正しい。
「……地面の下にも斬る体があるのか?」
「ええ。そこら中にいますわよ」
「へへへ!!そうかい!!オレには、いまいち場所が分かりにくいから、飛び掛かって来るヤツを迎撃するようにする!!」
「私の護衛をお願いしますわね、ドワーフの勇者さま」
「ああ。任せろ!!」
「目立ちますわよ!!」
レイチェルは楽しそうに、『悪意の枝』に向かって鋼を突きつける。
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