第六話 『不帰の砂漠イルカルラ』 その102


 東に回り込もうと急ぐ大群に迫る。


「ソルジェ、これを使え!!」


「ん。ああ、ありがとう、リエル」


 『属性付与/エンチャント』を施された矢だった。属性はもちろん『炎』になる。毎回、ゼファーの『炎』を使わせるわけにもいかないからな。ゼファーは敵の矢の間合い入らないようにギリギリの場所を飛び回っている。


 魔力も体力も、そして精神力もムダに使わせるわけにはいかない。こいつは長期戦だからな。


「荷物を背負っているヤツを狙うぞ。背中を射ればいい」


「うむ!!およそ、見当はついてある!!」


「……じゃあ、ミアは、荷物を背負っているヤツの頭を狙うね!!」


「おう。行くぞ!!」


『みんな、がんばれー!!』


 ベテラン工兵どもに、オレたちの射撃が行われる。古竜の力の宿る魔法の目玉も、エルフの狩人の瞳も、ケットシーの鋭い視線も、よく獲物を見つけていたよ。


 ……だが、負けず嫌いなオレが一番先に撃つ!!


 『炎』の『エンチャント』を付与された矢が夜空を走り、息を切らしながら走る男の背中を貫く。右の肩甲骨の内側を貫通したその矢は、肺腑に致命的なダメージを与えていたが、その後に燃え上がることで背中の荷物を焼き払う。


 当たりだったよ。


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッッッ!!!


 ヤツが背負っていた火薬が爆発して、敵兵の流れを妨害することが出来た。


 だが、あくまでも一瞬のことに過ぎない。


「進めええ!!」


「止まれば、狙われるだけだぞ!!」


 ベテランどもめ……大した状況判断だ。体力には不安があるだろうが、やはり質は高い。


 何十秒も立ち止まることはないが、爆発に巻き込まれれば周辺の敵は死ぬ。有効な戦術だ。


 ……リエルの放った矢も、当然ながら的確にターゲットを貫いていく。


 爆発が再び起きて、敵が何人も死ぬ。


 ミアの弾丸も、敵の頭を打ち、そいつは昏倒しながら地面に転ぶ。


 有効な攻撃を、オレたちは繰り返していく。とにかく攻撃し続けた。それでも、敵の物量は強靭さがあるな。


「ぬうう。さすがに、あれだけの敵は、止められないか……っ」


「そうだけど、繰り返す!!戦術は、それで強さが出るんだよっ!!」


「そ、そうだな!!うむ……攻撃してやるぞ!!」


 ミアの喝は効く。猟兵としてのプロフェッショナル性に満ちているからな。その通りなんだよ。有効な攻撃を繰り返すことで……効果は出てくる。たとえ、全部を救うことは出来なかったとしても、少しでも多くを救えることになるんだよ。


 迷いを消す。


 止め切れることのない、敵兵の群れを見たとしても、あきらめることもない。迷うこともない。現状ではベストと考えられることに対して、オレもリエルも、ミアもゼファーも全力を尽くして戦い続けた。


 止まらない大軍の左右を飛び回りながら、攻撃を繰り返す……数分の猶予も作ることは出来そうにないが、数十秒単位で敵の到着を遅らせることは出来るだろう。それだけ、不利ではない状況で戦える時間を、仲間たちに与えられるのだ。


 城砦に守られた、防衛戦闘。


 こちらには有利な状況ではあるが……それは戦力が同じであったならのことだ。圧倒的な物量に包囲されての戦いは、こちらの戦力の消耗をどうしても増やす。


 数字が浮かぶ。その数字の一つ一つは、それぞれの人生を生き抜いてきた者だ。物語を持つ命。オレたちの仲間の命が、どんどんと消費されてしまう。


 そうだとしても。


 クールに考えるしかない。


 ちょっとでも、多く守る。


 少しでもマシな戦いを仲間にさせるために、オレたちは命を張った。


 全員がそれぞれに与えられた役割を全うしている。城砦の上で、矢を放ち、這い上がろうとしてくる敵に槍を叩き込み。頑丈な城門を補強するために、荷車でタンスや石を運んで積み重ねているだろう。


 カタパルトは投石を行い、騎兵たちは突撃とにらみ合いを繰り返している。


 誰もが全力を強いられる時間帯がやって来ていた。


 敵はオレたちの弱点を知っている。人数が少ない。それゆえの苦戦を強いるように動こうとしていた。可能な限り広範囲に包囲して、攻撃を仕掛けようとしている。『ガッシャーラブル』の西と北に敵は集中していた。東側にもわずかに敵兵が回り込もうとしているが……陽動だけに終わる。


 ……そうだ。


 効果が出ていたんだよ。オレたちの攻撃で、東に回る込むことをリスクだと感じた。さっき50人潰してやったことも、オレたちが今、チクチクと敵を射撃していることも……急所から遠ざける効果はあるのさ。


 ……敵だって無限ではない。オレたちの細かな戦術が、確実に戦況を変えてはいる。ちょっとだけかもしれない。だが、わずかな数字を助けている。それでも、十分なことだ。一人でも多く助けられたのなら、価値がある。とんでもない価値がな!!


 怒声と悲鳴と。


 剣戟の音。


 仲間たちと敵どもが殺し合う。


 血が流れ、命は戦場に散っていく。


 ……戦い続けるしかない。よりマシな状況にするために、オレたちは矢を放ち……やがて、その矢も尽きてしまっていた。


「ソルジェ、矢が、尽きてしまった……っ」


「こちらもだ……」


「私も、弾切れ……っ」


『……じゃあ、ぼくががんばるっ!!』


「……そうだな、補給に戻る前に、敵に魔術を使うぞ……」


 狙う場所は、南側の城門に集まる敵だった。そこに向け、『ターゲッティング』を施した。リエルとミアは『風』を呼び、その『炎』がより強大な破壊を作るために祝福をくれた。


「ゼファー!!歌えええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!」


『GHAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHッッッ!!!』




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