第六話 『北天の騎士と幻の竜』 その36


 不用意に扉を開ける音がした。槍を持った帝国兵が4人、この場所にやって来やがったよ。


 皆が降り立つのを邪魔させるわけにはいかないからな、壁に張りついていたオレは、そいつらに対して側面から斬りかかる!!


 一人目は首を裂き、二人目は顔面を裂いた!!奔る血飛沫をかいくぐりながら、『虎』を真似て沈む―――そのまま三人目の腹を貫き。四人目には斬りかかられるが……体を入れ替えて、竜太刀が突き刺さったままの三人目で、四人目の斬撃を受け止めていた。


「あぐぁあ……ッ!!」


「す、すまん……っ!?」


 こちらこそ謝りたい気持ちにもなるが、これも戦だ。残念ながら、容赦してやるほどの情けをかけている場合ではない。オレは、今夜は特に非情な心が必要なんだ。


 竜太刀で三人目を貫いたまま踏み込んでいたよ。四人目に体当たりしながら、三人目を使い書架へと力尽くで押し付けていた。


 そのまま竜太刀の鋼が血で滑り、三人目の胴体を貫通しながら四人目の腹をえぐっていた。


「がぐうう……ッ」


「……お前はいいヤツだ。すぐに殺してやるよ」


 二人ほど串刺しにした状態で、オレは指に殺しの技巧を踊らせる。手首ごと回しながら、二人分の腹の中で鋼を暴れさせていた。下行大動脈を斬り裂きながら、背骨までも深々と傷つけていく。


 背骨の感触を指に感じた後で、勢い任せの乱暴な動作で竜太刀を引き抜いていた。こちらの方が傷口が広がってすぐに死ねるさ。出血が爆発的に悪化して、意識がすぐに消える。串刺しにしていた竜太刀が抜けたことで、その死体どもは折り重なるように崩れ落ちた。


 書架にびっしりと並んだ、豪華な背表紙の本たちを赤く染めてしまっているな。オレは良くないことをした気持ちになりながらも。竜太刀を振り払い、鋼に絡まる血と白い脂を振り払っていた。


 まだ、敵の足音が聞こえてくる―――ここは戦略的に重要な拠点ではあったらしいからな。


「ソルジェよ。皆、降りたぞ!」


「ああ」


 リエルの声に返事をしながら、オレは近づく足音に対して姿を見せるためにステップを踏んだ。通路をのぞき込むような位置に陣取り、敵に気づかれる。そうだ。全員がここに降りた。


 もう見つかってもいいのさ。何せ、オレたちは『囮』だからな。


「敵だあああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」


「竜が、屋上から敵を連れて来たぞおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


「こっちだ!!戦力を回せ!!バシオン閣下をお守りするんだッッッ!!!」


 いい情報提供だった。想像の範囲ではあったが、セルゲイ・バシオンはこの最上階にいるらしい。どこにいるのか、一人生け捕りにして訊いてみるか。


 突撃して来る敵兵は3人か。丁度良い。


「3人来る。ミア、手加減しろ」


「ラジャー」


 オレは竜太刀を構えながら、攻撃しない。雑魚相手とは言え、肉弾戦は体力を消耗する。ここは素直に戦術と仲間に頼り、体力を温存させてもらうコトにしたよ。


 リエルの矢が、ミアの弾丸が、そしてレイチェルの『諸刃の戦輪』が、その敵兵どもを真横から攻撃していたよ。矢が頭に刺さり、呪いの鋼はギチギチと鳴きながら敵兵の胴体深くまで刃を到達させていた。


 そいつらは致命傷、すぐに死ぬが3人目は右膝をミアの鉄弾に撃たれて膝を破壊されただけだ。足払いを受けたヤツみたいに盛大な勢いで、ぶっ倒れてしまっているが、生きているさ。


 3人目に近づきながら、剣を握るそいつの右手に竜太刀の先を突き立てる。


「ぎゃああああああああ!!い、痛ええっ!!」


「死にたくなければ答えろ。セルゲイ・バシオンはどこにいる?」


「こ、このフロアだ……」


「具体的には何処だ?」


「……北棟だよ……っ。ち、治療を受けていたハズだ……指揮所も、そこから遠からずある……っ。きっと、そこにいるはずです……っ」


「素直な良い子だ。ジャン、コイツの右脚へし折って、ロープで縛っておけ」


「イエス・サー・ストラウス」


 ジャンがその命令を実行する。『狼男』の怪力を用いて、敵兵の脚を踏み折ったのさ。バキンと乾いた木がへし折られるような音がして、その傷みと衝撃により、情報提供者は静かになった。気を失っただけだ。


 いい捕虜になりそうだ。この戦いが終わった後、色々と情報を吐かせるにはいい人材だろうよ。ジャンは縛り上げたそいつを部屋の片隅へと放置した。今は用が無いからな。バシオンがいるらしいと分かれば、問題はないのさ。


 頭に地図は入っている。


 迷うことはない。


 全く、無い。


 ……そうだ。行くとしよう。


「レイチェル、ミアとカーリーは、ここで退路を守れ!あまりに大勢が来たら、迷わずに撤退しろ!」


「うん!」


「わかったわ!」


「お任せ下さい、『リング・マスター』の意に沿うように動きますわ」


 この三人が退路を守ってくれるのならば、心強いというものだ。残りのメンバーで出発する。北棟に向けてな。


 最前列はオレとジグムント・ラーズウェルだ。


「……場所に見当はついているか?」


「当然だ。ここは、オレたち『北天騎士団』の城だからなぁ。いちばん北から三つ手前の大部屋。そこにヤツは陣取っているだろうよ。地上を覗ける窓もあり……視界が最も広い。まったく、ちょっと遠くなるぞ。運が良ければ、南棟にいてくれると考えていたが……」


「最短コースはこのまま直進、突き当たりの階段を1階分ほど降りて、そのまま北棟に向かい、そこから上る……ってので、いいんだな?」


「ああ。最上階は入り組んでいる……このまま北棟に向かうよりは、素直に降りて上った方が早く着く。『岩壁城』の構造は暗記済みか。さすがだ、ストラウス殿」


「竜騎士ってのは、地図を覚えるのは得意なんだよ」


「……ソルジェさん、最短距離がそのまま正解とも限りません」


「……ん。ロロカ、どうするつもりだ?」


「私とリエルとジャンくんで、このまま北上してみようかと思います。ここの通路は、想像していた以上に狭いです。6人で動くよりも、3人ずつの方が立ち回りやすい」


「たしかに、ロロカ姉さまの言う通りだぞ、ソルジェ。あまり人数が多いと、戦い方が制限される」


「……そうだな」


 ミア・チームも含め、三チームに分かれた方が良さそうだな。二つより三つの方が『囮』としてもより敵を誘導するし、敵戦力を殲滅する効率も上がるか―――いい考えだな。さすがはロロカ・シャーネル。


「そうしよう。三つのチームが連携するように動くぞ」


「はい……リエルっ!」


 廊下の先に敵兵たちが出現する。リエルはロロカ先生の言葉が終わるよりも先に、矢を放っていた。『雷』の『属性付与/エンチャント』を施した矢が敵兵の足下に刺さり、その集団をまとめて雷電の縛りが襲った。


「ジャンくん!」


「りょ、了解です!!』


 ジャンが狼モードに変身しながら廊下を駆け抜けて、リエルの『雷』に動きを止めた敵兵たちを『闘犬殺法』で仕留めて行く。ノド元に噛みつきながら回転し、刃で掻き切るように動いた。


 そのまま壁に脚をつけると再び飛び、二人目の頭に噛みついたまま体を振り回し、その敵兵の首を折りながら投げ捨てる……見事なものだ。見事なものだが…………いや、今は止めておこう。


 『弱点』も見える動きだが、この戦場の最前線で指摘すれば、緊張のあまり動きを悪くしてしまうかもしれない……それに、『闘犬殺法』を成長させるいい機会でもある。ここの敵兵は、やはり質がいいからな。


「ソルジェさん、ここは私たちに任せて下さい」


「……ああ。頼んだぜ。キュレネイ、ジグムント。駆け抜けるぞ!!」


「イエス、行くであります」


「おうよ!!……待ってやがれよ、バシオン…………それに、ジーク」


 ……因縁の相手か。


 そうだ。


 そうだな、集中しよう。オレは……いつものようにするだけだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る