第三話 『ヒューバードの戦い』 その38


 女の嫉妬も怖いと言うが、男の嫉妬だって怖いもんだ。戦場での常識を、政治的な力学欲しさに歪めやがったか!!


 オレたちは事実上、『自由同盟』の『非公式の外交官』だ。ルード王国のクラリス陛下に雇われているのも確かだ。オレたちが勝利に貢献しすぎることを、ヤツらは好まないらしい。


 その気持ちも分からなくはない。オレたちやルード王国の政治力が増せば、ハイランド王国の政治力は相対的に目減りする!!……ファリス帝国との戦において、未だに単独での勝利の無いハイランド王国軍ではある。戦功が欲しいのは分かるが!!


「今は、そんなことをしている場合じゃねえのが、分からねえのかああああああああああああああッッッ!!!お前らのところの、兵士が、新兵が、命がけで、この道、作っているんだぞおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


 必至に叫んだ。


 それでも、動かない。


 ハイランド王国軍の指揮系統は、しっかりとしているようだな。そうさ。『白虎』に支配されて、好き勝手にやられていても、自分の国を放置していたようなヤツらだ。正義に対して、どこか無頓着なところがある……。


 権力者には、悪でも従う。『虎』には、騎士道はないのだ……。


 合理的で、自分の利益ばかりを考えていやがる。


 ……末端の兵士は、そんなヤツばかりではない。それでも、彼らは良くも悪くも、階級に従うことを好む。上官に逆らうヤツなど、いないのだろう……ッ。それが、『虎』の美学なのかもしれないが……ッ。協調性と言えば聞こえがいいかもしれないが……ッ。


 あまりにも。


 あまりにも、情けないだろうが!!


「ソルジェ!敵が来る!!戦線が、崩れるッ!!……新兵たちが、やれているのだ!!」


「くそ……ッ」


『ど、どうして!?ぼくたち、みちを、あけたのに!?』


「……おいおい、マジかよ。ここに来て、主力部隊に堂々と裏切られるんすかあッッッ!!!」


「……酷い。アイツら、許さない!!」


「皆さん!!落ち着いて……怒りは、ごもっともですけど……今は、どうにか、この場所を維持するんです……ッ。こちらの『切り札』が、動いてくれるまで……ッ」


 ロロカが怒りを噛み殺しながら、槍を構える。


「あそこにいるぞ!!」


「門が、開いている!!」


「集まれ!!雑兵なんざ、捨て置け!!この門を、取り戻すんだああッッ!!」


 帝国兵たちが集まって来る。槍を持っているし、剣を持っている。その鋼たちは、どれもが血に汚れてしまっている。


 オレの作戦に従って、命を落とした16才の若者たちの血だった。ここまでして、あの弱っちい彼らが作った道を……通りたくないと言うのか、あのクズどもがッッッ!!!


「団長、敵が集まって来ます!!」


「……多いよ。私たちだけなら徹底できるけど、ここを放棄したら、新兵ちゃんたちが孤立しちゃう……っ」


「ならば、少しでも、この場所を維持する!!我らの『切り札』を信じろ!!」


 リエルがそう宣言し、敵兵に目掛けて矢を放つ!!敵兵の頭を射抜き、敵兵がリエルの弓の腕前に怯んでくれるが……それでも一瞬のことだ。次から次に集まって来る。新兵たちが囮であり壁だと気づいたようだ。


 こちらが本命だと気がついてしまったらしい。それはそうだ、アレだけ派手に大暴れしたのだからな。


 ……鎧を、身につけている者として。あの少年兵士たちを犠牲にしてまで作った、この機会を……この道を、敵に奪い返されるワケにはいかないッ!!


 竜太刀を構える。


 騎士道に反した行いを見せるハイランド王国軍に対して、アーレスは猛り狂っている。仲間の命をないがしろにするクズどもに、竜の気高さは憎悪を隠すことがない!!


「ここは、仲間の命で作った道だッッ!!死守するそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


 そう叫び、オレたちは迫り来る大軍に鋼を向ける。


 前衛は、オレ、ロロカ、オットー。


 後衛は、リエル、ミア、ギンドウだ。


 ……最強のドワーフの英雄にさえも勝利した陣形ではある。しかし、それでも……手練れの兵士が100だか200かッ。いつまで保つか分かったものじゃない。


 それでも。


 信じているぜ。


 信じているんだ、オレたちの『切り札』よ!!


「亜人種どもを、ぶっ殺せえええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!」


「この大陸は、人間族だけのものなんだあああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」


「ファリス帝国に栄光あれえええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!」


 どいつもこいつも、身勝手だぜ。敵も味方までも……どいつも、こいつも―――舐めてんじゃねえぞおおおおおおッッッ!!!


 初っぱなから、最大火力だ!!……敵の群れが、どうしたって多すぎるんでな。オレたちも、体力的に万全というわけではない。


 だからこそ。


 最初に、脅してやる!!恐怖を叩き込んで、この敵どもが、オレの『家族』を攻撃する気を、削いでやるんだよッッ!!


 竜の劫火が金色に輝きながら、竜太刀の刀身から吹き上がる!!


 ヒトの業火が漆黒に奔りながら、渦巻く黄金色の灼熱に融けていく!!


 オレとアーレスの魔力が一つに融け合って、怒りのままに、その魔力が解き放たれる!!煉獄の熱量を帯びた、破壊の螺旋が竜太刀に宿る。逆巻く黄金色の爆炎が世界にその威力の余波を放っていく!!


 周囲の建物が、黄金色の焔に焼かれていく……ッ。オレの顔も、オレの腕も、ぜんぶ焼けてしまいそうなほどに熱い!!かまわんさ。最大出力だ!!オレの『家族』に、近寄るんじゃんねえよ、帝国人がッッッ!!!!


「な、なんだ、あれ……ッ」


「ま、魔術!?」


「ど、どうなってるんだ、あいつ、左眼が、金色い、ひ、光っている……ッ」


「怯むな!!戦場で魔術を放つなど、自殺行為だ!!威力など、どうせ知れている!!」


「突撃して、押し殺してしまえ!!」


 帝国人どもが、オレたちに向かってやって来る。怯まない?……むしろ、好都合ってもんだよなあ、アーレスよッ!!


 迫り来る、数えるの億劫になりそうなほどの帝国人どもに、オレとアーレスは怒りに暴れる魔力を放つ!!


「『魔剣』ッ!!『バースト・ザッパー』ああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!」


 大上段にから斬撃を振り落とし―――黄金色の爆撃をつかい敵を大地ごと、吹き飛ばしにかかる!!


 衝撃が生まれ、大地が爆ぜて―――黄金色を帯びた灼熱の暴風が、近づいて来ていた帝国の兵士を片っ端から消し飛ばしていく!!爆風の力でねじ切り、弾き飛ばし!!煉獄の熱量で、消し炭になるまで鎧も武器の鋼ごと……骨も血さえも残させず、焼き飛ばす!!


 ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンンンッッッッ!!!!


 辺り一面の建物さえも半壊させてしまいながら、オレとアーレスの『魔剣』は敵の群れを斬り裂いていたよ。


 40人近い敵兵が、千切れて吹き飛び焼き尽くされていた。


「…………き、きえた!?」


「…………な、なかまたちが……き、きえたよおう!?」


「…………ば、バケモノだあああああああっ」


「怖じ気づくな!!あんな魔術を放ったんだ!!ヤツは、立っているだけでも精一杯なはずだ!!」


「今こそ、突っ切る!!」


 200人のうちの、40人を殺したところで……そりゃ、そうだよな。クソが!!そうだよ、今ので、魔力は打ち止めだ。


 帝国人どもが、オレ目掛けて殺到してくる。恐怖を、刻めたのは、一瞬か。これだけ大勢を相手にすると、一瞬を稼ぐのも命がけだぜ。


 しかしな。


 ここにいるのは、オレひとりじゃない。


「ソルジェを援護するぞ!!」


「うん!!」


 リエルとミアが射撃で敵を仕留め、ギンドウがヤケクソ気味に『雷』をもう一度放つ。


 それでも死体となっていく兵士の向こうから、帝国人が近づいて来た。


 だから?


「ソルジェさん!!」


「団長、カバーします!!」


 ロロカとオットーの攻撃が、敵兵を近寄らせない。オレは、三回だけ呼吸を整える。ムチャしたせいで、体中が痛いが―――ゼファーが見ている。『家族』を守る義務がある。だからな、『ドージェ』は戦える、『団長』は、ソルジェ・ストラウスは戦える!!


 竜太刀を振り回し、敵兵を斬る!!斬る!!斬った!!


 受け止められたら、竜爪で顔面をえぐり裂き!!背後に、誰も通さないように、左右のロロカとオットーと並ぶように前線を作る!!リエルの矢と、ミアの弾が、オレたちをサポートしてくれる!!


 戦い続ける。戦う、殺す、手傷を負わされるが、それでも退くことはない!!……信じているのだ。オレたちの、『切り札』を―――ッ!!




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