第一話 『失われた王城に、亡霊は踊る』 その10
リエルとロロカ先生とカミラがいる部屋に入ると、治療などをするために、オレは鎧を脱がされたよ。いや……ロイド・カートマンとの戦いで、いくらか傷も負っていたのは事実だしね。
愛しのヨメたちに、傷薬を塗ってもらったり……そうじゃないこともした。夜が更けて行き、みんなで眠ってしまう。ああ、夫婦四人で、一つの大きなベッドで眠るというのも、幸せなもんだよ。
左腕はリエルにマクラにされて、右腕はロロカ先生のマクラになって、カミラが甘えながらオレの胸の上で眠ってしまっている。毛布がいらないぐらい温かいな……というか、ちょっと熱いけども、やわらかくて気持ちいいから構わない。
重たくはないさ。竜騎士だもんね……。
ゆっくりと眠りについたよ……。
……。
……。
…………。
…………カプリ。
「…………ん?」
カミラのおはようの噛みつきで、オレは目を覚ましていた。
睡眠というのは不思議なもんだ。
またたく間に何時間も過ぎ去っているのだから。窓の外は、明るくなろうとしていたし、左腕マクラからリエルの姿はいなかった。オレのエルフさんは戒律を破った今でも、とてもマジメな娘だよ。
早起きして、荷物をまとめてくれているのかもしれないし……ミアをお風呂に入れてやっているのかも。夫婦四人で風呂に入ったりしていたオレたちと違い、ミアはあのまま眠っていたからな。
窓ガラスを多い隠すカーテンの間から差し込んでくる、ゼロニア荒野の朝陽は赤い。職人街の連中は、もう鋼との対話を始めているかもしれないな。オレは……リエルが起きるまで、ロロカ先生の腕マクラであり、カミラの抱き枕であろうか悩んでいたけど。
わずかに首を動かしたときの揺れで、目を覚ましてしまったのだろう。ロロカ先生が毛布の中で、ごそりと動いた。
眼鏡をはずしているが、あの青空の色をした瞳が、ちょっとだけ開いていたよ。
「……ソルジェさん……おはようございます……」
「ああ。おはよう、ロロカ……よく眠れたか?」
「はい。愛しい旦那さまの腕の中ですから……もっと、まどろみながら、貴方の体温を確かめたいですけど……お仕事が、ありますからね」
「うん……そうだな」
「ほら。カミラ……カミラ、そろそろ起きましょう」
ロロカ先生の白い腕が、オレの胴体に抱きついているカミラの背中を揺すっていた。
「あ、ぅ……ん……っ」
色っぽい声を編みらがつぶやいていたよ。ロロカ先生も、ちょっと顔を赤くしちまうな。
「興奮しないの。今の、ソルジェさんじゃなくて、私の手ですからね。カミラ、起きて下さーい」
「……うー…………おはようございまーす…………っ」
カミラが目をこすりながら、オレの体の上でゴロリと身を捻っていた。左は開いていたのに、ロロカ先生のいる右側に転がって行ったな……オレのヨメさんが、オレのヨメさんに抱きついている……なんか、見てて楽しい。
「んー……ロロカさん、やわらかいっすー……おっぱい、すごいっす……」
「分かりましたから、起きなさい…………怒りますよ」
小さく放たれたその言葉に、カミラが本能的な脅威を感じたのか、ロロカ・シャーネルからピョンと跳び退いていた。大きなベッドの端っこの方で、正座モードになっていた。
「お、起きたっすよ!」
……猟兵女子の間で、ロロカ先生は、恐れられている存在のようだな。オレには本当に激甘なのに……それが、愛ってもんかね。指を動かして、彼女の肌を触っても、怒るどころか、ニコリと笑って……耳元にキスしてくれたよ。
「あー。ずるいっす。私も、おはようのキスをソルジェさまにしたいっすよう!」
「ああ。いくらでもキスしてくれ」
「じゃあ、ソルジェさまがして欲しいところに、したげます……」
カミラがベッドの上を手脚を使って四つん這いに動いてくる。いたずらっ子みたいな笑みを浮かべながら。でも、そのアメジスト色の瞳は、色っぽい……オレを覗き込むような体勢になると、カミラはニコリと笑う唇に、右の人差し指の爪を当てる。
「ど・こ・が、いいっすか?……ソルジェさまの、して欲しいところに……したげますよう」
「な、なんだか、キス以上のことしようとしていません、カミラ?」
「ソルジェさま次第でーす」
さてと、どこにしようかな……唇ってのも、フツー過ぎるし……。
寝起きの灰色の脳細胞に仕事をさせる。まあ、どちらかというと理性じゃなく、あきらかに剥き出しの本能だけど。
カミラのピンク色の唇と、オレに対する吸血で赤くなった舌が、色っぽく動く。あの唇と舌を、どう楽しんでもいいのだと思うとね、なかなか妄想が広がったよ。でも―――。
「―――お兄ちゃん、起きてる!?」
ミアの声が、裸の男女しかいない、大人の空間に響いていた。この夫婦愛という名の純愛しかない空間ではあるが、教育に悪い気がする。
せめて、服を着なければ!!三者の考えは一致していたな。さすがは夫婦。オレたちは慌てて服を探し、それを捕まえると、とにかく着ることにしたよ。13才には、早すぎる。危ないところだったな。
「リエルが、30秒の猶予を与えろって、言っていたから、カウント・ダウンするね!」
さすがはリエルだ。気が利いている。早着替えの要素になるが、30秒あれば、全裸ではなくなる……。
我々、夫婦三人は、とにかく、着衣に全力を尽くして……ミアが、夫婦の寝室を開くまでには、どうにか服を着ていた。
「おはよう!!お兄ちゃん!!そして、ロロカとカミラちゃーん!!」
ミアが室内を走り、ベッドの上で、シャツに両腕を通すまでは頑張ったオレ目掛けて飛んでくる。
「あはは!受け止めて!」
「おうよ」
ガシリ!飛んで来たミアのことを、両腕でキャッチする。花の香りがしたよ。シャンプーの香料に使う、バラ科のそれだ。ミアは髪にタオルを巻いていた。やはり、リエルと風呂に入っていたらしい。
タオルを巻いた頭で、ミアはオレのアゴにぐりぐりと頭を押し付けて来た。そう言えば二日ばかし切っていないヒゲが、じゃりじゃりと音を立てる。
「んー。お兄ちゃん、ヒゲさん生えて来ているね」
「ああ。一昨日は徹夜だったしな」
「お疲れさまでーす」
ミアはオレのヒゲさんを、指でつつく。指先に集まるミアの視線が、何だかとっても可愛らしかったよ。
「うおおおい。じょりじょりだー」
「ヒゲ、楽しいのか?」
もしも、ミアがヒゲ好きなら、一メートルだって伸ばすけども。
「んー。ない方が、お兄ちゃんカッコいい」
……もうね、ヒゲどもの毛根から始末してやりたい気分だったよ。
「じゃあ。剃る!!」
「うん!!でも、おヒゲ退治の前に、ゴハンにしよう!!今ね、皆を起こして回っているんだ。ホテルの朝食が準備出来ているの!!」
「そうか。どんな状況だ?」
「えへへ。ミアの偵察によるとね、ベーコンエッグさんと、チーズの乗ったトーストと、サラダが確認されていまーす」
「いい王道メニューだ。昨夜、ガッツリと食べているから、ちょうど良さそうだな」
「うん。ビミョーにお酒くさい」
「ははは。その内、抜けちまうよ」
「じゃあ!私、他の皆を起こして回る任務があるから、それを続けるね!」
「ええ。がんばってね、ミア」
「うん。ロロカも、シャツが裏返しだから、直した方がいいよ」
「え?そ、そうですね」
慌てて着ると、そんなもんだよな。ロロカ先生は、眼鏡を外しているから、視界がちょっと悪いだろうし。水晶の角の力で、何がどこにあるかは分かるみたいだが、シャツが裏返しかどうかは慌てていると見逃すよ。
「カミラも、二度寝はダメだよ」
「うん。大丈夫っす。ちゃーんと、起きたっすから」
「そっかー。じゃあ、あとでね!!目覚ましチーム、行動再開!!」
その言葉を残して、ミアがお兄ちゃんボディから離脱していく。ベッドの上で後ろ回りしながら、首と手の力で華麗に跳んでいた。そのまま、床に音も無く着地すると、素早く走り始める。
次は、ギンドウあたりにタックルでもかましにいくのだろうな。
「……どうにか、エッチな雰囲気を隠せたよーな気がするっすね」
「え、ええ。私は、微妙な恥をかいてしまいましたけど」
「よくあることさ」
「よくあることっすよ」
「……ふう。落ち着いた大人の女性になりたいものです。おっちょこちょいなトコロが、なかなか抜けません」
「そいつもチャーミングだけどな、オレのロロカ……」
「……朝から、口説かれちゃいましたね」
「ずるいです。ソルジェさま、自分は、キスがいいっすよう」
「どこがいいんだ?」
「やっぱり、王道で……唇同士が、いいっすよう」
「わかったよ。こっちに来い」
「はい、ソルジェさま……」
今度は妖艶さはなくて、何も知らない乙女みたいな純朴さをまとった動きと表情で、オレに近寄って来る。そのまま、エロさのない、可愛い朝のキスをするのさ……。
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