2-13

 颯も頭を下げて、再び気まずい沈黙が流れる。

 「ごめんなさいね、私のわがままにつき合わせて、こんなことだから考古研の人たちもついてきてくれないのよね」

 自嘲気味につぶやく彼女の瞳には後悔の念が見て取れた。

 また少しの沈黙が続く。


 「でも、今の話を聞いてあなたとともに新しい世界を見に行きたいと思いました」

 颯のその言葉にミイナは本当に驚いたのか、大きな目をさらに開いて、

 「そこは断る流れでしょ」

 ミイナは、泣き笑いのような表情で言う。

 実際に颯は断ろうと思っていた。だが実際に口を開くと出た言葉は、今の言葉であった。 

 なんでそんな言葉が出たのかわからない。ただミイナをこれ以上不安にさせておきたくなかっただけかもしれない。だが、先ほどの新しい世界を作っていけるかもしれないという思いもこの短い時間にもさらにミイナへの思いと同じくらいには膨らんできているのは確かであった。

 

 「一緒に行くんでしょ」

 颯はミイナの目を見て初めて微笑みながら話すことができた。

 その言葉を聞いて、ミイナは一瞬嬉しそうにしたが、すぐに表情を戻して、

 「でも冬のルイミは本当に危険よ?」

 「今更何言っているんですか、僕を誘ったんでしょ?」

 本当に今更なことだと思った。颯は軽い口調で返す。

 「そうだけど、本当に行くとなったらやっぱりね」

 対するミイナの口調は真剣だ。

 その態度に颯は少しイラついた。誘っておいてなんだと思う。ミイナが、自分の身を案じて言っているのも分かる。実際に冬のルイミに行って亡くなった人もいるのも知っている。自分のトレーニングがお遊び程度のものだったということも分かる。本気で行きたいとも今までは思わなかった。


 それでも。


 それでも。

 颯はミイナには自分を信じてほしかったのである。

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